連載小説「オボステルラ」 【第五章 巨きなものの声】 12話「声」(6)
12話「声」(6)
(……ゴナン!)
ゴナンがぐらりと倒れる様子を目にして、リカルドは潜んでいた木の陰から飛び出した。
実は、ゴナンとコチが話している間、リカルドはずっと近くの木の陰に身を潜めていた。ゴナンが上げた狼煙に気付いて、即座にこの場所に着いていたのだ。
コチはリカルドの姿を見るとおそらく逃げてしまうが、ゴナンとはいろいろ話をしてくれるようだ。そこで、じっと潜んで2人の会話を盗み聞きしていた。
(しまった…。ゴナンがうまいこと話をしてくれていたから、ついつい長く放置しすぎた…。ゴナンを危険な目に遭わせてしまった……)
そう反省しつつゴナンを介抱しようと飛び出した瞬間、リカルドもがくり、と倒れる。
「……ぐっ…」
リカルドにも毒の吹き矢が吹かれたようだった。
吹いた主の姿を見ようとしたが、顔を上げられず、地に伏すリカルド。しかし、十数秒後には身体を起こす。自分はいくら毒を食らっても大丈夫だ。もう、回復してしまった。慌てて顔を上げると、しかし巨大鳥はちょうどコチを乗せて飛び立ったところだった。そして地上を見ると、誰かを乗せた大きな馬が音もなく走り去るのが見える。
(……6本足の馬……! あのときの…)
「……ゴナン、ゴナン……!」
リカルドは急いで倒れたゴナンの元へ行く。ゴナンは両手両足を硬直させ、ブルブルと震えていた。そして気を失っている。
「ゴナン、ごめん…! 僕が、出遅れてしまって…」
リカルドはそう呟き、ひとまず遺跡へ戻るべくゴナンを抱えた。
* * *
「ナイフちゃん!」
荷物番がてら、鍛錬をしていたナイフ。馬をものすごい勢いでかけさせてくるリカルドに気付いた。ゴナンを抱えているようだ。ちなみに、ゴナンが乗っていた馬は、鞍が空のままお利口にもリカルドの馬に着いてきている。
「……ちょっと! ゴナン、どうしたの?」
「例の毒矢にやられた! ゴナンが巨大鳥に遭遇して、コチと話していたんだけど…」
「……!」
馬から下ろし、ゴナンのバンダナを外して、様子を見るナイフ。呼吸はしているが、手足が硬直し震えている。典型的なズビダの毒の症状だ。瞳孔や心拍も確認する。
「僕が、もっと話を引き出してもらおうと放置しすぎてしまって…。ゴナン……」
「リカルド、大丈夫よ。呼吸ができているし、心拍も弱くなってない。手足に働いているだけよ。これは強い毒だけど、命まで奪えるものではないわ、毒が抜けるまで待てば大丈夫だから」
「で、でも……。そうだ、毒の名前が分かっているんだから、街まで運んで、薬師に解毒剤を…。……ああ、だめだ、エルダーリンドには薬師がいないといっていた。どういうことなんだ、あんなに大きな観光地なのに薬師がいないなんて。医者は、処方できないか…」
リカルドがオロオロと慌てふためきながら、ブツブツと独り言を言っている。ナイフはその頭を軽く叩いた。
「落ち着きなさい! 毒が抜けるのを待てば大丈夫だって言ってるでしょ?」
「でも、でも、ゴナンが、あんな……」
「……」
ナイフはふう、とため息をつき、リカルドを一睨みすると、遺跡の中へと行ってしまった。
「ひどいよ、ナイフちゃん、放っておくなんて……!」
慌てて後を追い遺跡の入口へと走るリカルド。と、遺跡から再び出てきたナイフに正面衝突し、どすんと尻餅をつく。
大の男の見るに見られぬ惨状に、呆れるナイフ。
「……リカルド。ゴナンが心配になると、振る舞いが子どもの様になるの、なんとかなさい」
「だって、ナイフちゃんが愛想を尽かしたのかと思って」
「あなたねえ…」
また深くため息をつき、ナイフは1つの瓶をリカルドに見せた。
「これを取りに行ってたの。連中がズビダの毒を使うって分かっていたから、マリアーナ先生に念のため、解毒剤を何本か作ってもらっていたのよ」
「……!」
「ただ、口から飲ませないといけないから、ゴナンを少しの間だけでも覚醒させないといけないんだけど…」
そう言って、ゴナンの上半身を抱えて、意識を取り戻させようと身体を揺らすナイフ。
「リカルド、名前を呼んで」
「ゴナン、ゴナン…!」

そうして何度か肩を叩くと、「……う…」とゴナンが小さくうめき声をあげた。
「ゴナン、聞こえる? キツいわね。でも大丈夫よ、心配しないで」
「……う…、ナ……イフ……ちゃん……」
「マリアーナ先生のよぉーく効く薬を今から口に入れるから、なんとか飲み込んで。大丈夫だから」
そのナイフの言葉に、僅かに頷くような動きを見せるゴナン。ナイフはゴナンの口をぐっと開いて、舌の上に瓶の液体を流した。
「なんとか喉を動かして、ゆっくり飲み込んで。気管に入らないよう気をつけてね」
「……」
震えながらもゴクリ、と飲み込むゴナン。
「そう、上手ね。もう大丈夫よ。何せマリアーナ先生のお薬だから。ゆっくり休んだら、じきに元通りよ」
そう微笑みながらゴナンの頬を優しくなでるナイフ。ゴナンは少し安心したような表情になり、またスッと気を失った。
「……リカルド。その心配そうな顔を露骨に出すのはやめなさい、ゴナンが不安になるから」
「あ、ああ……。そうだね。助かったよ、ナイフちゃん…」
ほっと安堵の息をつくリカルド。
「解毒剤といっても、薬で中和して毒が抜けるのを速めるだけだから、即効性があるようなものではないと、先生は言っていたわ。とにかく、遺跡の中で休ませましょう」
「うん、そうだね……」
そのままナイフがゴナンを抱えて、遺跡へと連れて行く。その後を着いていきながら、リカルドは午後の青空をふと、見上げた。空に鳥が飛んでいるのが見える。普通の野鳥か、巨大鳥か、リカルドには見分けが付かない距離だ。
(……もう、次に移動する、そう言っていたな……。そして、動けなくなる……。でも冬眠ではない……。女の子、という言葉の後で、ゴナンは毒矢を射たれた……)
リカルドは空を睨みながら、ゴナンが聞き出したコチの言葉の数々を反芻していた。
↓次の話↓
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