連載小説「オボステルラ」 番外編3「お怒りのミリアさん」(5)
番外編3「お怒りのミリアさん」(5)
「お! 子ネコじゃねえか? 先生ん家の飼い猫? いたっけ?」
その日の午後。今日は青空教室の日だ。勉強と言うよりも、ほぼゴナンと会うために来ているようなエドワードが、ゴナンの手の中にいる生き物に目を留めた。
「うん…。野良ネコだったんだけど、親ネコからはぐれちゃったらしくて。俺、可愛がっているんだ」
「ふうん…?」
「可愛がっている」というわりに、シロが逃げないよう両手でしっかり握っており、シロはバタバタと逃げだそうとしている。エドワードがなでようと手を差し出すと、シャーっと威嚇して、ゴナンの手をすり抜け屋敷の中へと逃げてしまった。
「あっ、また逃げた…」
「ふっ。ネコはあんなもんだろ?」
ショックを受けるゴナンに対して、エドワードは笑う。
「なあ、エド。どうすればネコと仲良くなれる? 俺、ネコ、初めてで、すぐに仲良くなりたいんだけど…」
「仲良く…? でも、ネコは中々思い通りには行かないと思うけどなあ…」
そう言いつつ、すがるようなゴナンの目線に考えるエドワード。
「…とりあえず、ネコアソビ草じゃねえか?」
「ネコアソビ草? 何? それ」
「え? ネコアソビ草も知らねえの?」
ゴナンが言う「ネコが初めて」が、まさか「ネコを見るのも初めて」だとは思っていないエドワード。少し驚きつつも、キョロキョロと庭を見回し、1本の草を抜く。細い茎の先に、フワフワの毛のような穂が付いている草だ。
「コレだよ」
「これ、煎じると腹痛に効く草だろ?」
「そうなのか? この形が大事なんだよ。これをこういう風に、ネコの前で動かせば遊ぶぜ。獲物を捕まえようとする習性らしいけど」
「へえ…」
エドワードに動かし方を真剣に習うゴナン。そして、「ありがとう!」とエドワードからその草を受け取り、シロを探しに屋敷へと行ってしまった。
「なんだあ…? 勉強そっちのけで…」
勉強嫌いのエドワードに対して、いつも目を輝かせながら青空教室に参加しているゴナンにしては、珍しい行動だ。と、エドワードは「そうだ」と思いついた。
「…仕方ねえな…。ゴナンがちゃんとネコと遊べるか、俺が指導しに行ってやろうかな?」
「…こら、エド。お前は勉強をサボりたいだけだろう?」
と、2人の様子を見守っていたジョージが声をかけて来た。エドワードの企みはあっさりとバレてしまった。
一方、シロはリビングサロンのソファの上に陣取り、ポカポカの陽に当たりながらくつろいでいた。脇ではナイフとエレーネがお茶をしている。
「あら、ゴナン、どうしたの? そんな討ち入りに来たような顔をして?」
ナイフがゴナンの決死の表情に気づき、からかうように声を掛ける。
「うん、ナイフちゃん。俺、今から、シロと上手に遊ぶから…」
「…そ、そう…? 頑張って…。ふふっ」
そろーっとネコアソビ草を手にシロに近づくゴナン。思わず2人も、固唾を呑んでその様子を見守る。ゴナンは草をぴょこぴょこと揺らす…。
と、シロはその草と戯れ始めた。
「…やった…!」
ゴナンが達成感で、思わず笑顔になる。ナイフとエレーネも「やったわね、ゴナン!」と大喜び。そのまま、ネコアソビ草でシロと遊ぶゴナン。
「…ふふ、シロ、ほら、こっちだよ、ふふっ」
珍しくゴナンが笑顔を見せている。
「…ふふ。なんだ、かわいいなあ、お前」
自然に、そんな言葉がゴナンの口をついて出る。シロ以上にゴナンが楽しそうだ。そんな様子が珍しくて、2人は微笑ましくゴナンを見守っている。
と、そこにミリアがやって来た。手には恋愛小説『あなたの瞳はユラリアの花の色』。今日は青空教室には参加せず、このサロンで本を読もうとしていたようだ。
「あ…」
ゴナンがネコアソビ草でシロと遊んでいる様子を見て、少し羨ま
しそうな表情をするミリア。それに気づき、ゴナンはミリアに、ネコアソビ草を差し出す。
「…ミリアも遊ぶ…? 俺、可愛がってるから…」
「……」
ミリアはじっと草を見て、シロを見る。しかし憮然とした表情になり、「わたくし、学校に出席してくるわ」とそのまま部屋を出てしまった。哀しそうな表情になるゴナン。
「俺、シロ、可愛がってるのに…」
「…なんだか、もう、そこが問題ではなさそうだけどね。いったいどうしたのかしらね、お姫様は…」
ナイフは不思議そうにエレーネを見る。エレーネもお手上げといった感じで、肩をすくめていた。
* * *
その日の夜。
リカルドは書斎で遅くまで調べ物をしていた。明日はエレーネと共に、巨大鳥が立ち寄りそうな水場の現地調査に向かう予定だ。そろそろ寝ようかと、先にゴナンが寝ている自室に戻る。シロがトイレに行くときに出られるよう、部屋の扉は少しだけ開けるようにしている。そこからは発光石の照明の明かりが漏れ出ていた。
(また、明かりをつけっぱなしにして寝ている…。照明も何もない村で育っているから、真っ暗だと寝られない、というタイプではないと思うけど…)
リカルドが寝支度をしやすいようにとの配慮のようだ。そして部屋に入りベッドを見ると、いつものようにベッドの隅っこに寝てリカルドが入ってくるスペースを空けている。ところが、いつもと違う状況に気付いた。
(……えっ! かわいい…!)
そこでは、スヤスヤと眠るゴナンの顔に寄り添うようにして、シロが寝ていた。思わず悶絶するリカルド。絵姿に残したいほどのかわいさだ。
(ナイフちゃんに見せたい…! …あ、でも、今日はもう寝てるか…)
さすがに、深夜にわざわざ起こすほどの事件ではない。ゴナンを起こして教えてあげたいが、そうするとシロは逃げてしまう気がする。リカルドは照明を消して、そおっとベッドに入った。
(…ふふ…、ゴナンももう、立派なネコ派だな…)
あとは、ミリアのご機嫌が直れば、それでよし、なのだが…。

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