連載小説「オボステルラ」 番外編3「お怒りのミリアさん」(6)
番外編3「お怒りのミリアさん」(6)
日が経つにつれ、ゴナンもシロの扱い方がなんとなく分かってきたようで、両者は随分と仲良しになってきた。そして四六時中、ゴナンはシロに付きっきりである。青空学校でもシロを膝に乗せて勉強し、食事もシロ優先で、とにかく甲斐甲斐しい。もう「ミリアに可愛がっている姿を見せる」という目的は十分果たされているはずだが、ゴナンはそのことは忘れてしまっているかのようだ。
「ミリア?」
そんなある日の午後、エレーネは自室で本を読んでいる風のミリアに声をかけた。
「なあに、エレーネ」
「…本が逆さまよ?」
エレーネに指摘され、ハッとして『あなユラ』の天地を正すミリア。エレーネはそんな様子を不思議そうに見ながら、ミリアの正面の椅子に座った。
「…そろそろ、ゴナンを許してあげたら? あんなに頑張っていて、シロを大事に可愛がっているのに、報われなくてかわいそうじゃない」
「…ええ…、そうね…。ゴナンが悪くないっていうのは、わかっているの。わたくしの、八つ当たり…」
「……」
「……ちょっと、いろんなことを、思い出してしまって…」
「? お兄さんとか、キールさんのこと?」
「ええ…、でも、それだけではなくて…」
「……?」
そう呟いたきり押し黙るミリアに、エレーネはそれ以上、何かを無理矢理聞き出そうとはしない。そのまま無言でミリアの前に座り、見守っている。ミリアは手元の本に視線を落とすばかりで文字を読んでいる様子もなく、そのまま、物思いにふけていったようだった。
* * *
その日の夜中。
ふと目を覚ましたミリアは、トイレに立つべく、発光石の照明を手に廊下へと出た。用を済まし部屋へ戻ろうとすると、リンリンと鈴を鳴らしながら足元をトコトコ歩く小さな白い影。少し開けてあるゴナン達の部屋の扉から、シロが廊下に出てきていた。
「……ミリー…」
ミリアはそう、声を掛けてしゃがみ込み、そっと手を差し出す。シロはミリアを警戒せず、その手に体をすり寄せてきた。その時、ダイニングへ水を飲みに出ていたディルムッドが部屋に戻るべく通りがかったが、ミリアとシロの様子を見て、反射的にさっと柱に身を潜める。図体の大きな男だが、気配を消すのはお手の物だ。
「…ふふ…。本当にミリーにそっくり…。生まれ変わりかしら…?」
(生まれ変わり…?)
そのミリアの言葉を疑問に思い、そのまま次の言葉を待つディルムッド。ミリアはシロの喉元をなでて可愛がりながら、独り言のように言葉を続けた。

「…ミリーって言う名前はね、お兄様は周りには、ミリアの名前から取ったって言ってらっしゃったけど、本当はミリアとサリーの2人の名前から取ったものなのよ。でも、サリーの本名を知るのはわたくし達だけだったから、誰にも言えなかったけど…。サリーもとても喜んでいた」
(……)
ミリアの小さな肩が、少し震えているように見える。ディルムッドはそのまま、1人と1匹を影で見守る。
「…だから、あなたが病気で死んでしまって、わたくしもそうだけど、サリーはとても落ち込んでいたのよ、ミリー…」
(…なんと、ミリーは…。そうだったのか…)
ディルムッドが城を出たのは、1年以上前のことだ。それ以降の出来事だったのだろう。
「きっと、わたくしの『不運の星』のせい…。だって、あなたが初めて、わたくしのベッドに眠りに来てくれた、その直後だったんだもの…。お兄様が亡くなってからは、あなたはいつもサリーの部屋で寝ていたのに」
ミリアは両手でそおっとシロをすくい上げる。シロは逃げ出さない。ネコとは不思議なもので、普段はつれなくしていても、弱っている人間に対して温かな態度を取ることが、ままあるものだ。
「だから、ゴナンがあなたを捕まえて、刃物で命を奪おうとしたとき、また、わたくしの『不運の星』のせいで、あなたを失ってしまうと思ってしまったの…。とても、怖かった…」
ミリアはそのまま床に座り込んで、膝の上にシロを乗せ、体をなでた。
「…ごめんね、ミリー…。わたくしのせいで…」
そう、涙をこぼすミリアに、シロはニャアと鳴いて寄り添う。ミリアの言葉が分かっているかのような振る舞いだ。
「…サリーも、本当に、とってもとっても悲しがっていたけど、でも、それでも、わたくしの『家出』の計画と準備を一生懸命、手伝ってくれたわ。サリーに女王になってもらうためだって、目的も伝えていた。それも受け入れてくれて…」
(…『あちらのミリア様』も、ミリア様と目的は共有されているのか…)
ディルムッドが抱く印象だと、ミリアの影武者・サリーはかなりのしっかり者でハキハキと明るく、そして現実主義な性格である。だからこそ性格はサリーの方がアーロンに似ているとされていた。そんな彼女が、巨大鳥の卵のおとぎ話を信じてミリアを支えていたということに、少しだけ違和感を覚えている。
「…でもね…」
ミリアはそう言って、少し言葉を詰まらせ、そして続ける。
「…でも、わたくしは知っているの。本当はサリーは、わたくしが卵を見つけたら、違う願い事をしてくれるのではないかと、期待しているってことを。だから、あんなに必死に、わたくしを手伝ってくれたのだということを…」
ニャア、とまた鳴くシロ。相づちを打っているかのようだ。
「…お兄様を、キールを、ミリーを、生き返らせてほしいと、わたくしが卵に願ってくれるはずだって、サリーがそう思っていることを、わたくしは知っているの…。そうなれば、お兄様が王になられるから、自分が女王になる必要もないから…」
(……!)
↓次の話↓
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