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連載小説「オボステルラ」 番外編3「お怒りのミリアさん」(3)


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番外編3 「お怒りのミリアさん」(3)


 「えっ、オッケーだったの?」

 夫妻から子ネコを飼う許可が得られたことを、嬉しそうに伝えに来たリカルドに、ナイフは少し呆れた。

「どんだけ寛容なのよ、先生…」

「なんだかんだいって、先生方はリカルドには甘いような気がするな」

「ほんと、大きなお坊ちゃまだこと」

 ディルムッドも、リカルドの子どもじみた振る舞いが妙におかしいようだ。そしてゴナンに微笑む。

「…さて。では、ネコを可愛がる練習だな、ゴナン」

「うん…。でも、何をどうすれば…」

「どう、と言われても…」

 そう言って、ディルムッドはリカルドから子ネコを受け取り、自身の膝に乗せる。喉下をなでたり、お腹をなでたりすると、子ネコは気持ちよさそうに喉を鳴らし、ディルムッドの膝の上に落ち着いてしまった。

「…こう、だな」

「リカルドにはあんなに爪を立ててたのに、ディルには懐いているのね、不思議だわ」

「私は昔から、どうにも小動物に好かれやすいたちなんだ」

 子どもと同様に動物も根が優しい人間を見分けるのか、もしくは百獣の王に従う的な本能が働いているのか。それはともかく、ゴナンはディルムッドにならって子ネコに手を伸ばしてみるが、シャーッと警戒される。

「ああ、ゴナン。そんなに勢いよく手を差し出してはダメよ。ゆっくり、優しくね」

「ゆっくり…」

 ナイフのアドバイスを受けて、そおっと手を伸ばすゴナン。



「ひとまず、喉元をなでてみては?」

「喉…」

 恐る恐る、ネコの顔の下に手を伸ばし、なでようとしてみる。しかしネコはシュッと避けて、ディルムッドの膝を飛び降りてしまった。

「あ…、まて…!」

 ゴナンは思わず、子ネコの首根っこを捕まえてしまう。ぶらんと脱力する子ネコ。

「ほら、また雑な扱いになってるわよ、ゴナン」

「難しいな…。こんなに小さくて素早くて…、持つと、なんか、伸びる…」

 ゴナンはイスに座り、子ネコを自分の膝に乗せてみる。子ネコはなんとか膝に止まるが、体をプルプルと震わせている。そしてゴナンが触れると、シュッとディルムッドの膝に飛び移ってしまった。

「ふふっ。うまくいかないわね。あなたに食べられそうになったことに気付いてるのかもね、この子」

 ナイフが面白そうに笑う。リカルドはその様子を見て、思案した。

「…ゴナン、ひとまず、名前でもつけてみたら? それで愛着が湧くと、少し接し方も変わるかもしれないよ」

「名前…?」

 そう言われて、ゴナンは子ネコをじっと見た…。動物に名前をつけるのなんて、初めてだ。

「…シロ…?」

「……、……。うん、まあ、いいか…」

 白ネコにシロとはあまりにも安直な名付けだが、それを言い始めると五男でゴナンも似たようなものであるし、他ならぬゴナンの発案なので、それでよしとしたリカルド。

「よし、お前はシロだ、シロ、シロ」

 ディルムッドが名前を呼びながらなでると、シロはまた気持ちよさそうにゴロゴロと喉を鳴らし、ディルムッドの指と戯れる。ゴナンやリカルドへの態度とはまるで違う。

「…ゴナン。あらかじめ言っておくけど、ネコは基本的には思い通りにはならない生き物だから、それは肝に銘じておいてね」

 リカルドがアドバイスをする。

「思い通りにならない?」

「そう、こういう風に、なでたいときはなでさせてくれなかったり、邪魔しないで欲しいときに限って甘えてきたり…。なかなか、扱いに苦労する生き物なんだ。ハナからコントロールしようなんて、思わないことだよ」

 そう言うリカルドに、首を傾げるゴナン。

「…人間の役に立たなくて、働かなくて、思うようにもならない、扱いに苦労する動物なのに、なんでみんな可愛がるんだろう、不思議だな」

「まあ、ネコって、そういう生き物なんだよ」

*  *  *

 家で飼うならと、マリアーナが鈴を着けたリボンを首輪用に作って持ってきた。ゴナンの手でなんとかそれをシロにつけたが、かなり爪で引っかかられて苦労したようだ。そうこうしている間に、夕食の時間。シロはもう離乳はしているようで、ゴナンは作り方を教えてもらって柔らかいエサと水を用意する。

「シロ。ご飯だよ、シロ」

 そう言ってゴナンは、エサの入った器を手に部屋へと入る。が、その開いた扉からシロが逃げ出してしまった。慌てて器を置き、廊下を追いかけるゴナン。

「こら、シロ、待て…!」

 リンリンとなる鈴の音を追って廊下の花瓶立ての奥に潜むシロを見つけ、サッと首根っこをつまむゴナン。シロはブランと脱力する。

「よし…。…あ…!」

 と、そこには、自室から出てきたらしいミリアとエレーネが立っていた。ミリアは、ゴナンがまた、シロをむんずと掴んでいるのを見て、不機嫌な表情になる。

「…あ…」

 ゴナンは慌てて両手で抱えるように持つが、シロは暴れてゴナンの指に爪を立て、毛を逆立てる。エレーネがその様子を興味深そうに見ていた。

「その子が、ゴナンが食べようとした子ネコ? ふ、ふふっ」

 笑いをこらえられないエレーネ。

「…あ…、でも、…ネコは食べちゃダメって…、もう、知ってます…」

 ゴナンがうつむきがちに答える。エレーネの前では未だ緊張モードだ。

「ふふっ。そうね、ネコは食べない方がいいわね。でも、その子、首輪がついてるけど」

「…あ、はい…。リカルドがお願いして、この屋敷で飼うことになって…。俺が、可愛がってるんです…。名前も、シロって、つけて…」

「可愛がってる…」

 そう呟いて、エレーネはじっとシロを見る。小さな体をプルプル震わせ、ゴナンの手に爪を立て、何とか逃げだそうとバタバタしている。ミリアは伏し目がちに呟いた。

「…ネコは怖がっているわ」

「…うん。今はね…。でも、俺、可愛がってるから…」

「……」

 ミリアはじっとシロを見て、少し懐かしそうな表情に動いたが、すぐにぷいっとそっぽを向いて去ってしまった。エレーネは笑みを浮かべて「頑張ってね」とゴナンに声をかけ、ミリアの後を追う。まだ、王女様のご機嫌は直らないようだ。

「……」

 ゴナンは、自分の手の中でバタバタと暴れる小動物を、困った表情でじっと見つめた。




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