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連載小説「オボステルラ」 番外編3「お怒りのミリアさん」(2)


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番外編3「お怒りのミリアさん」(2)


 その頃、ミリアは自室でエレーネに、先ほど起こった事件を話していた。

「…ゴナンが、子ネコを食べようとした…」

 流石のエレーネも、少し驚いた表情を見せる。しかしすぐに状況を分析した。

「…でも、もしかしたらゴナンは、ネコを初めて見たのではないかしら…。ネコがどういう生き物か分からなかったのではない? それで、ほら、ネコはなんだか、柔らかそうだし。すごく伸びるじゃない、ネコ」

「…それは、そうかもしれないけれど…」

「…お兄さんが白ネコを拾ってきて飼ってたんですって?」

 と、ナイフが個室に入ってくる。

「『ミリー』って、あなたの名前からとって可愛がっていたんですってね。ディルに教えてもらったわ」

「ああ…、それで、ショックだったのね…」

 それを聞いてエレーネは納得する。彼女も、ミリアがここまで感情を露わにして怒ることを不思議に思っていたのだ。ミリアは暗い表情のまま、頷く。

「ゴナンはネコを捕まえて、あなたが喜んだのを見て、『この生き物は肉が美味しいんだろう』って思ったんだって。それで、あなたにすぐに食べさせたかったみたい」

「…ふっ」

 それを聞いて、エレーネは思わず吹き出してしまう。

「ああ、ゴメンナサイ。笑い事ではないわね。でも、なんだか…、ふふっ…」

 何かがエレーネのツボにはまったようだ。

「…なんだか、ゴナンがあまりにも健気で…。ミリアを一生懸命、喜ばせようとしているのに、その方法が…、子ネコを食べさせる…、ふふっ…」

「エレーネ、笑いすぎよ」

 ナイフが思わずツッコむ。エレーネがここまでハマって笑うのも珍しい気がする。




「ふふ、ごめんなさい。…でも、理由も分かったからいいじゃないの、ミリア。悪気があったわけでもないのだし」

「そうよ。ゴナンはド僻地の生まれだから、仕方がないのよ。もう『ネコは食べたらダメ』ってちゃんと理解したって言ってたから、大丈夫よ」

 そう、ミリアを慰める2人に、しかしミリアはまだ、憮然とした表情だ。

「…ミリア…。ゴナンも反省していたし、きっとあなたの気持ちもよく分かっているわ。許してあげたら?」

「……」

 ナイフはエレーネと顔を見合わせる。この聡明なお姫様らしからぬ、物分かりの悪さだ。

「…何か、他にも頭に来るようなことがあったの?」

「いいえ、そうではないのだけど…」

 ようやくミリアは口を開く。

「…ゴナンが真っ白の子ネコを見つけてくれて、わたくし、嬉しかったの。お兄様が拾ってきてくれたミリーとおんなじ色の子ネコ…。ゴナンはいつも、なんだか、わたくしが欲しいものを、届けてくれるから…」

 ミリアの脳裏には、初めて出会ったとき、果物を食べさせてくれたゴナンの姿が思い浮かんでいる。

「それで喜んだのだけど、その後、ゴナンが嬉しそうな表情で、躊躇なく子ネコに刃物を向けたのが…」

「……怖かったのね?」

「……ええ…。とっても…」

 ナイフに頷いて答えるミリア。

「…ゴナンはいつも優しいのに、さっきはなんだか、全く知らない男の人のように見えて、怖くて…」

「……」

 そのミリアの反応に、ナイフは少し思うところがあったが、エレーネと顔を見合わせる。

「…まあ、そういうことなら、無理はしなくてもいいかもしれないけど…。でも、ゴナンは本当に反省して謝ってきているから、それは分かってあげてね」

「…ええ…」

 そう答えて、しかしミリアはうつむいてしまった。ナイフは目配せでエレーネに「あとはよろしくね」と依頼し、部屋を出た。

*  *  *

「…というわけで、怖かったんですって」

 ナイフは書斎に戻り、男性陣に報告する。子ネコは今、ディルムッドの膝の上だ。なぜだかディルムッドに妙に懐いているこの白ネコ、筋肉質の決して柔らかくはなさそうな太い腿の上で、安心してお昼寝をしている。強い者に守られている感があるのかもしれない。

「ゴナンに悪気はないって頭で理解してはいるけど、感情で許せてない感じね。こういうことは、時間が解決するわよ、心配しないで、ゴナン」

「うん…」

 しかし、ゴナンはまだシュンとしている。そんな様子を心配そうに見たリカルドは、「そうだ」と閃いた。

「ねえ、その『怖かった』っていうのを払拭するためにさ、ゴナンがこの子ネコを可愛がってあげている様子を、ミリアに見せてあげるとどうだろう?」

「俺が、この子ネコを可愛がる様子…?」

 ゴナンは少し戸惑いの表情。ナイフは呆れ顔になる。

「リカルド…。あなたが思いつく、そのたぐいの悪巧みって、大抵うまくいかないような気がするのだけど…」

「でも、ほら、ゴナンもこれからの生活で、ペットと触れ合う必要が出てくるかもしれないからさ、その練習も兼ねて」

「ペットと触れ合う…」

 ゴナンは、ディルムッドの膝の上でくつろぐ子ネコをじっと見た。ディルムッドが触れると目を覚まし、彼が喉元やお腹をなでるのを気持ちよさそうにしてニャアと鳴いている。

「でも、ここは私たちの家ではないし、いつまでもここにいるわけじゃないのよ。勝手にネコを飼うわけにはいかないわ。旅に連れて行くのだって大変だし…」

「あ、ああ、そうか…。そうだった…」

 しかし、自分のアイデアを諦めきれないリカルド。ディルムッドの膝からネコを取り上げ、リビングサロンでくつろいでいるジョージとマリアーナの元へと赴いた。ネコはフーッと警戒し、リカルドの手に爪を立てている。一応、リカルドについていくゴナン。

「先生! この子ネコを飼うのを、許してください…!」

「……はあ?」

 ジョージは呆れ顔で答える。

「ゴナンがミリアと仲直りをするために、この子が必要なんです…」

「いや、別に必要ではないだろう…」

 そう言ってジョージは、子ネコを手に必死な顔で夫妻に訴えてくる身長180cmのいい歳をした男性と、その隣で戸惑った表情で立つゴナンを、少し興味深げに見ている。隣でマリアーナが吹き出した。

「マリアーナ先生?」

「ふふっ。拾った子猫を飼いたいって訴えてくるなんて、まるで子どもみたい。エドくんも同じことをやったって言ってたわ。6歳くらいの時だけど」

「……」

 リカルドは少し複雑な表情を浮かべる。ジョージとマリアーナは視線を合わせて頷き合った。

「…まあ、うちは構わねえよ。氷っ子を10歳の頃から見ているが、こんなわがままを言ってくるの、初めてじゃねえか? ふふっ」

「…先生…!」

 表情を輝かせるリカルド。

「お前さん達が旅立ってからも、面倒くらい見るさ。どうせ、この付近は野良ネコがウロウロしているし、中にいるか外にいるかの違いだ」

「そうよ。今は何もいないけど、少し前までうちでも長いこと犬を飼っていたのよ。寿命で死んじゃったけどね。長生きだったのよ」

 マリアーナも許諾する。しかし、ゴナンにいたずらっぽい笑顔を向けた。

「…ただ、庭の薬草園には近寄らせないでね。もしあの辺りで糞でもしようものなら…!」

「……! は、はい…」

 ゴナンには何がどうなるのか分からなかったが、なんだか空恐ろしさを感じ、背筋を伸ばして答えた。




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