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連載小説「オボステルラ」【幕章】番外編1「アドルフへの手紙」(1)


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第三章の登場人物



番外編1「アドルフへの手紙」(1)


 時は、一行がストネの街を出発する2日前。ミルクゲートの石がくだけた丘で、ゴナンとミリアが雨に降られた夜だ。ナイフが営む女装バー『フローラ』の2階にあるリカルドの部屋で、濡れた服の着替えを済ませたゴナンは、レポートをまとめているリカルドに尋ねていた。

「リカルド。兄ちゃんに手紙を書きたいんだけど、北の村にどうやって出せばいいかな」

「あ、そうだったね。アドルフさんがこまめに手紙を欲しいって言ってたんだったね」

他の家族が皆、反対する中、ゴナンのすぐ上の兄・アドルフだけは彼の旅への出立を支持し、送り出してくれた。自身は村で生きていくが、ゴナンが村の外の世界でどのように過ごしているのかを知りたい、そう望んでいたのだ。

「そうだね…。村の存在すらあまり知られていない場所だから、なかなか難しいなあ…。伝書鳩は飛ばないだろうし、郵便もね…」

「手紙、無理かな…」

「無理なことはないよ。ちょっと方法を考えるから、ゴナンはひとまず、手紙を書いてしまいなよ」

「うん」

 リカルドはゴナンに、便せんとペンとインク壺を渡す。室内のテーブルで早速、書き始めるゴナン。チラリとその文面を覗くと、アドルフと同じくらい達筆だ。

(字も上手だし、文章も普通に書けている。よくもあの村の環境でここまで…)




読み書き計算はアドルフに習ったと言っていたが、そのアドルフはあの兄たちから習ったのだろうか。ゴナンには、さらに年長の兄が3人いる。彼らもアドルフほどではなかったが、教養は高そうだった。亡くなった彼らの父が学者だったというから、自ずと身についていったのかもしれない。

(ゴナンのお父さんはどんな人だったんだろうな。話をしてみたいものだな)

今日まであったことを思い出しては、何度も下書きをして一生懸命手紙を書くゴナン。その姿を見ながら、リカルドは彼方の見知らぬ人へと想いを馳せていた。

+++++++++++++++++

 さて、2時間ほどが経った。

「できた」

ゴナンは満足げに、自身が書き上げた手紙を見ている。もう深夜0時を過ぎており、少し眠そうだ。

「できた? 明日、出すから、封をしてしまって。ああ、もう眠そうだね」

「リカルド、おかしくないか、読んでくれる?」

「えっ? 読んでいいの?」

リカルドが驚いてそう尋ねるのに、ゴナンは不思議そうに首を傾げる。他人宛の手紙を読むのはプライバシーを覗くようで、あまり良くないように思うが、ゴナンにはそんな概念はないようだ。いや、リカルドを信頼してのことかもしれない。

「…ゴナンが思うように書いたものだから、どんな内容でも大丈夫だと思うけどな」

「…でも、変な手紙になっていたら、いやだから…」

ゴナンは少しモジモジとしながら、リカルドを頼る目線を送ってくる。大好きな兄に、下手な手紙を送りたくはないようだ。リカルドはそれを察してふふっと笑い、ゴナンの頭を撫でた。

「…分かったよ。一応、読んでみるね。ほら、ゴナンはもう寝なよ。眠そうだよ」

「うん…」

寝ぼけ眼をこすりながら、ゴナンはうなずいてベッドへと入っていった。またベッドの隅っこに小さくなって寝ようとしている。後で自分が寝るときに、中央へ寄せてあげようと微笑ましく見て、発光石をテーブルライトだけにした。ゴナンはすぐに、スヤスヤと寝息を立て始める。

(…さて、ゴナン先生の初作品は、どのような出来かな)

少しワクワクした心地で、ゴナンの手紙を読み始めるリカルド。

+++++++++++

「……」

ゴナンの手紙を読み終わったリカルド。少し悩ましい表情になっている。

(これは…。どうしようかな…)

このままアドルフに送っていいのか、しばし悩むリカルド。

ゴナンの手紙を要約すると、

「門番のおじさんがとても親切だった」
「宿場町からは歩いてすぐにストネについた」
「ナイフちゃんという素敵な人物に会えて、彼女が営むお店で働きながらリカルドを待てることになった」
「そのお店に偶然、リカルドが部屋を借りていて、すぐ会うことができた」
「リカルドの巨大鳥の研究がすごくて、ミリアとエレーネという女性たちも合流することになった」
「ナイフちゃんも旅に来てくれることになった。次の街は、いろんな物を作っている街。楽しみだ。旅はすこぶる順調だ」

…そんな感じだ。

(街で野宿してナイフちゃんに拾われたこととか、ナイフちゃんが営むお店が女装バーで自分も女装して接客してたこととか、高熱を出して随分寝込んでいたこととか、卵を探す奴等の騒動に巻き込まれたこととか…、アドルフさんに心配をかけそうな項目が、何一つ書かれていない…)

随分、見栄っ張りな手紙だな、と、ベッドで眠るゴナンを見て微笑むリカルド。そしてもう一つ気になる点が…。

 ミリアは同い年の背の小さな少女で、どこかミィに似ている、と書いている。流石に彼女の素性については記していないが。

(…ミィちゃんに似ている? そうかなあ…?)

リカルドの記憶では、あまり似ている点はないように思える。そもそもミィは10歳の少女だったし、飢えのせいで年齢よりも年少に見えていた。顔かたちもまったく共通点がない。不思議である。

それは置いておいて、続いてのエレーネの紹介。

「…あんなにキレイな女性は、北の村では見たことがないから、びっくりした。背が高くてすらっとしていて、髪の毛はキレイな金髪で、真っ青な瞳もキレイで、肌がツヤツヤで、こんな女の人見たことがない。近くに立つと、とてもいい香りがする。瞬きをするだけでもキレイで、何か話をするだけでもキレイ。何を食べたらあんなになるのか、すごく不思議」

この通りである。エレーネに関する記述がやたらと長く饒舌なのだ。

(……)

 エレーネとゴナンが会話しているところをほとんど見たことはないし、話してもゴナンは緊張モードで一言二言で終わってしまう。その心中で、こんなにもゴナンの気持ちが盛り上がっていたのかと思うと、なんだか愉快だ。そして、この手紙を恥ずかしがることなくリカルドに見せてくるあたりが、また不思議ではある。

(…まあ、それはともかく…)

もちろん文章などに何の問題もないが、この見栄っ張りな手紙だけを送っていいものか、リカルドはしばし悩む。リカルド宛のアドルフの手紙では、ゴナンの体調の事なども気に掛けていた。これはこれとして、ゴナンの身に何が起こっていたかを、きちんと知らせてあげた方がいいかもしれない。

(…ただ、ゴナンの手紙を書き換えさせるのもなんだから、僕が補足の手紙を添えるか…)

この手紙はゴナンのアドルフへの気持ちだ。それを否定してしまうのはよくない。ただ、情報をきちんと添える、リカルドはその選択をした。




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