連載小説「オボステルラ」 【第四章 狼煙の先に】 7話「毒と薬」(3)
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7話 「毒と薬」(3)
「あの、それで、ゴナン、何があったの?」
リカルドは、ミリアのことも心配だが、押し黙ったままのゴナンの様子もとにかく気になっている。ゴナンはリカルドから目線を外してぐっとうつむいた。
「…ケンカした…、エドと…。取っ組み合いになっちゃって…。それで、ディルが止めに来てくれて、でも、そのせいで、ミリアが一人になって…」
「えっ? まさか、君が?」
「そんなケガするまでに? どうして?」
リカルドとナイフは驚く。ゴナンは理由を語ろうとするが、上手く言葉にできない。代わりにディルムッドが説明を始めた。
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「…そんなことが…」
ディルムッドからの説明を一通り聞いたリカルドとナイフ。なんとも言えない表情で顔を見合わせる。
「ゴナンったら…。私は珍獣扱いされるのは慣れっこよ。女装バーなんて、それでお金をいただいているようなものだし。いくらア王国でもこんな田舎の街では特に仕方が無いわ。気にしないで笑い飛ばしていればいいのに。リカルドだって、うさん臭くてうざったいっていうのも、悪口と言うより事実じゃないの」
「でも…」
ゴナンは納得いかない表情でナイフをじっと見る。ナイフはふふっと優しく笑顔で包み込んだ。
「でも、怒ってくれて嬉しいという気持ちも持ってしまっているから、困ったものだわ。ケンカになってしまったのはよくないけどね。…ありがとう、ゴナン」
そう言ってぎゅーっとゴナンの頭を抱きしめるナイフ。「痛いよ、ナイフちゃん…!」とゴナンがあたふたする。
その横でリカルドは少し複雑そうな顔で黙り込んでいた。
「…リカルド?」
「ああ、ゴメン…。僕だってナイフちゃんと同じ気持ちだよ…」
そう言って、しかし困ったような表情を浮かべるリカルド。
「?」
「…いや、僕もハグしようかな」
「え、もう十分だよ」
ゴナンがそう口にして、リカルドはふふ、と笑った。しかし、戸惑った表情は消えない。
「…僕は、ミリアの様子をちょっと覗いてくるよ」
「…私も行こう…。ナイフ、ゴナンと少し話していてくれるか?」
「ええ、もちろんよ」
まだゴナンは落ち込んでいる様子だ。こういうときはナイフにフォローしてもらうのが最適だろう。そして、逃げるように部屋を去ったリカルドの妙な雰囲気が気になり、ディルムッドも続いて部屋を出た。
「リカルド? どうかしたか? 遺跡で何かあったのか?」
「ディル…」
廊下で呼び止められ、リカルドは肩を落としたまま振り返る。
「遺跡では…、まあ、大したことは起こってないよ。その…」
「?」
「…僕はね、仲が良いはずの友達や家族とケンカするとか殴り合いになっちゃうとか、そういう経験がないし、そういう風になる気持ちも分からないものだから、ゴナンにどう声を掛けていいのかも分からなくてね…。あんなに楽しそうに遊んでいた友達と、急にケンカで殴り合ったりするなんて…。僕が、保護者として、エドワードくんのところに謝りに行ったほうがいいのかなあ…」
「…ああ…」
普段は悠然としているリカルドが妙に気弱になるときは、
大抵ゴナンがらみだと、ディルムッドも理解しつつあった。ディルムッドはフッと笑う。
「まあ…。子ども同士のケンカにやたら大人が首を突っ込むのは良くないだろう。本人達に解決させるのが一番だ。きっとゴナンは乗り越えるよ。あの子は賢いし、エドワードもゴナンのことを好きなのだろうから」
「…うん」
「…リカルドは、ゴナンの話をただ、聞いてあげるだけでいいと思うぞ。あの子は普段から言葉少なだが、感情が高ぶると特に自分の思いを言葉にできなくなる。今回のケンカも、それも原因の一つにあるようだ。ゴナンの気持ちを引き出して、そして、彼の心の中をきちんと整理させてあげることが大事なように思う」
「…」
リカルドはじっとディルムッドを見る。
「…ディルは、本当に人生を何周か経ているような感じだな…。僕より年若いとは思えないよ」
「…いや、私は未熟者だよ。今だってこんなことを言いながらも、胸の裡では、ミリア様をお守りできない自分への怒りに打ち震えている」
そう言って、ディルムッドはギラリと瞳の奥を光らせた。
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マリアーナの部屋に入ると、ベッドの脇にエレーネがついている姿が見えた。ディルムッドはピリ、と警戒する。
「エレーネ…。ミリアの様子はどうかな?」
「ええ、今は眠っているわ。さっきまで全身にしびれが来て苦しそうだったけど、何とか落ち着いてきたみたい…」
リカルドは昏睡するミリアの様子を見る。顔色は蒼白で、ベッドに沈み込むように眠っている。今にも死の淵に落ちていきそうな危うさを感じてしまう。
「…大丈夫なんだろうか…」
リカルドが思わず漏らしたその問いに、マリアーナも憔悴した様子で答えた。
「…正直、分からないわ。このような劇症をもたらす毒、思い当たるものがないの…。ただ、初期にミリアさんが自分で毒を吐く動作をしていたようだから、それであまり多くの量を飲まずに済んでいるみたい」
「そうですか…」
「うちに誘ったばかりに、こんな目に遭わせてしまって、申し訳ないな」
横でジョージが、そう頭を下げた。
「いえ、先生のせいではありません」
「なんだ、氷っ子。慰めてくれているのか? いらぬ気遣いだよ。本当に申し訳なく思っている。もし、うちへの滞在に不安があるなら、今から宿に移動したほうがいいかもしれないな」
「先生、そんな必要はないわ」
エレーネが強い口調でそう言った。その声の大きさにジョージは驚く。

「……。ああ、わかったよ。ありがとう…。とにかく、ミリアさんの治療はしっかりと行うから、任せてくれ」
「……」
エレーネは軽く頷くと、そのまま部屋を後にした。確かに、少し普段のエレーネとは様子が違うようにも見えるが、ミリアのこの状態に動揺しているだけのようにも見える。
「……」
リカルドとディルムッドは、無言で目を見合わせていた。
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