連載小説「オボステルラ」 【第四章 狼煙の先に】 7話「毒と薬」(4)
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7話 「毒と薬」(4)
夜通しの治療のおかげか、翌日にはミリアは意識を取り戻した。それでももうろうとしていたが、1日、2日と経つうちに、何とか体を起こせるまでに回復してきた。
その間、青空学校も休みになり、一行も屋敷で過ごしている。ゴナンはミリアの容態が気が気ではなく、しかしベッドサイドで看病していてもミリアの痛々しい様子を見るのがいたたまれない。蒼白の顔色やベッドに沈むように寝込む姿を見ると、自分の手を握っていた妹のミィが静かに命の灯火を消した日のことが頭をよぎる。どうしようもなく、部屋を出たり入ったりとしていた。
そして3日後。
「ミリアさんが話せるようになったわ」
ダイニングで朝食を取っていた一行に、マリアーナが報告をしに来た。毒の影響か喉が荒れていて、なかなか言葉が出せなかったのだ。
「マリアーナ先生、とてもお疲れのようだわ。休んだ方がいいのではない?」
「ナイフちゃん、ありがとう。そうね、ミリアさんの容態が安定してきたから…」
そう憔悴した笑顔で応えるマリアーナ。ディルムッドはすっと立ち上がって尋ねる。
「マリアーナ殿。ミリア様に話を聞くことは可能だろうか?」
「ええ、先ほど目を覚ましたばかりだから、たぶん…。長時間は難しいかもしれないけど」
「承知した。先生は休まれてください」
「お、俺も行く…!」
ゴナンが卓上に残っていたご飯を一気に食べて、慌てて席を立ち上がった。とにかくミリアが心配でたまらない。ディルムッドは微笑んで頷き、治療室へと向かった。
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部屋に入ると、ミリアが体を起こしているところだった。
「…ミリア…。大丈夫…?」
「まあ、ゴナン。そんなに心配しないで。まだ少し体がだるいけど、もう大丈夫よ。ごめんなさい」
ガラガラ声だが、元気そうな口調でそう答えるミリア。やつれてしまってはいるが、ゴナンを安心させるように微笑むその顔色も、昨日までよりははるかに良い。ディルムッドは深く安堵の息をつき、そして気をつけをして、頭を下げた。
「…ミリア様…。私が油断したせいです。誠に申し訳ございません…」
「えっ?」
ディルムッドの謝罪に、なぜか驚きの表情を見せるミリア。
「謝るのはわたくしのほうだわ。これはわたくしの責任よ。先生方にも迷惑を掛けてしまったわ」
「ミリア様、また、不運の星のせいなどとおっしゃられるのでは? この事態は、毒を盛った者のせいです。そして、それを察知できなかった私の責任です」
「えっ? 毒を盛った…?」
ミリアは、少し慌てた表情を見せる。
「…その、不運の星のせいではないし、毒を盛られたわけでもないわ」
「? しかし、ミリア様は毒を吐く訓練通りの動作を行われていたかと」
「あ、ええと、そうなんだけど…」
「薬師であるマリアーナ殿が、あんなに劇症をもたらす毒はそうそうないと言っていました」
「…」
ミリアはそのディルムッドの言葉に、少し何かを考えるようなそぶりを見せる。
「ミリア様、率直に申し上げます。私はエレーネが何らかの方法で毒を盛ったのではないかと、疑っているのです」
「えっ?」
ミリアが、また戸惑いの表情を浮かべた。
「あの…、エレーネは、毒を盛っていないと、思うわ…」
「……? しかし、それでは、なぜ…」
「ええと…」
ミリアは視線を彷徨わせる。
「…その、わたくし、拾った草を、食べたの…。そう、拾い食いをしたの、憧れていたの、拾い食いに。だって、お城には、拾い食いできそうなものは全く落ちていなかったんだもの」
「拾い食い…」
首を傾げるディルムッド。
「…ということは、マリアーナ殿が持っている薬草の何かを、この邸宅内で誤って口にされたことになりますね…。マリアーナ殿に話を聞かねば…」
「え、あ…、違うの!」
さらにミリアは慌て、そしてゴナンを見て何かを思いついたような顔をする。
「?」
「あ、その、お庭でね。ああ、違うわ、お庭の外、誰のお家でもない場所で、前に本で見た、食べられる草に似たものを見つけたから、それをちぎって食べたの。お腹が空いて。それで、こんな目に。だから、誰のせいでもないの」
「…あの、短い時間にですか?」
「その…、事前に、草を拾って、取っておいたの。あなたがいなくなったから、こっそり食べたの…」
「……」
ディルムッドはゴナンと目を合わせた。王女のとても下手な嘘だ。ゴナンにもそうと分かるくらい、疑いようもなく明らかな嘘である。やたら言葉を重ねることで、さらに嘘らしい嘘になっている。エレーネをかばっているのだろうか?

「…それで、あの、エレーネと二人きりでお話しをしたいのだけど」
「なりません。私はあの者が犯人ではと疑っているのですよ」
「ディルムッド!」
ミリアがガラガラ声ながら強い口調でディルムッドに訴える。条件反射でピッと姿勢を正すディルムッド。
「ディル…。今の立場であなたに命令なんてしたくないのだけど、お願い。エレーネと話をさせて。大丈夫だから」
「……」
ディルムッドは眉をひそめ、はあ、と息をつく。結局、彼は王女の願いを聞かざるを得ない。
「…分かりました。ただ、私も部屋の近くに控えておりますので、何かありましたら、出せる限りの大声を出されてください。ゴナン、申し訳ないが、エレーネを呼んで来てもらえるか?」
「あ…、うん…」
「だから、大丈夫なのに…」
不満そうなミリアを残して、ゴナンは部屋を出る。喉は痛そうだが、ディルムッドとのおかしなやり取りに、普段通りのミリアが戻ってきている様子が見えて、ゴナンはほっと安堵し嬉しくなっていた。また、自分の手の届く場所で、小さな少女の命が失われるのではないかと恐れていたのだ。エレーネを呼びに行く足取りも、少し軽くなっていた。
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エレーネが治療室に入り、入れ替わりでディルムッドとゴナンが部屋を出た。ドアをパタンと閉め、ゴナンは自室へ戻ろうとしたが、ディルムッドが引き留める。
「ゴナン、お前は耳がとても良かったな。その、気は進まないかもしれないが、お願いしたいことが…」
「……」
ディルムッドは申し訳なさそうに、今閉じたドアを指さした。ゴナンはその意図を理解する。
「…大丈夫…。俺も、エレーネさんが毒を盛ったって思ってないから、それがハッキリするのなら」
「すまない…。頼む」
そう言って、二人でドアに耳を当て、中の声を盗み聞きし始めた。
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