連載小説「オボステルラ」 【第四章 狼煙の先に】 7話「毒と薬」(5)
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7話 「毒と薬」(5)
「ミリア…。よかったわ…」
エレーネは、体を起こし顔色もよくなったミリアの様子を見て、ホッとした顔を見せた。しかし、ミリアは少し気まずそうな表情をしている。
「…ミリア?」
「…あの、エレーネ。ごめんなさい…」
「…」
ミリアのその謝罪に、何かを察するエレーネ。
「あなた、まさか…」
「…わたくし、ほんの興味本位で、あなたのあの常備薬を飲んでみてしまったの…」
「…やっぱり…! どうして!?」
エレーネが、これまで見たことがないような慌てた表情でミリアに詰め寄る。その迫力にミリアは少したじろいだ。
「ごめんなさい…。だって、いつもどこからか伝書鳩がやってきて、それに託して、そしてマントを被った不思議な人が届けに来るでしょう? もしかしたら、何か神秘的なお薬なのかと、気になって…」
「それにしたって、どういうものか分からない他人の薬を、勝手に飲んでみるなんて…」
「『あなユラ』で、山の王が戦闘に勝利するために秘蔵の薬を得てパワーアップするシーンを読んだものだから、わたくし、つい触発されて…」
「山の王…、戦闘…? え、あれ、恋愛小説ではなかった…?」
エレーネは、はあ、と大きく息をつく。そしてミリアをじっと見た。
「…あれは、普通の人が飲んだら、一口でも死に追いやる毒なのよ!」
ものすごい剣幕で叫ぶように話すエレーネ。彼女がここまで取り乱す様子をこれまで見たことがなく、ミリアも、そして扉の向こうで聞き耳を立てるディルムッドとゴナンも驚く。

「一口で、死…?」
「……あなたに、あの液体が危ないということを話していなかった私の落ち度でもあるけど…」
そう言って、頭を抱えるエレーネ。
「何かの弾みでお茶に混入してしまったのかと思っていたのよ。…まさか王女様が自ら、人の物をこっそりつまみ食いするような真似をしているとは思わなかったから…」
「……」
「…ついでに言えば、この屋敷に来た日の晩、私のお酒を飲んだのも、わざとね」
「……!」
どきりと、分かりやすく動揺するミリア。ドアの向こうでは、「なに?」とディルムッドが頭を抱える。
「興味深げに私のグラスを見ていたような気がしたから。王女様が率先して、法律を破る真似をするなんて…」
ちなみにア王国では、お酒は18歳になってから。未成年の飲酒は法律で禁じられている。決して真似をしてはいけない。
「…ごめんなさい…」
ミリアは心底、反省した様子で頭を下げる。そして尋ねた。
「…でも、エレーネはなぜ、そのような毒を薬として飲んで平気でいられるの? いえ、あの薬を飲み続けないと体調が悪くなるって言っていたわね」
「……」
エレーネの表情が、少し硬くなった。そして、ミリアに伝える言葉を選んでいるようだった。
「…エレーネ?」
「…体調が悪くなるどころではないの。あの液体がないと、私は死んでしまうわ」
「え…!」
「…とにかく、そういうわけで、あれに手を出されると、いろんな意味でとても危険なの」
そう口にしてエレーネは一瞬目を閉じて、深く息を吐く。
「…あなたをこんな目に遭わせるなんて、……申し訳なかったわ。きっと私は、あなたにとっては得体の知れない人物でしょうし、今まではその辺りを何となくふんわりとさせてきたけど、こういうことが起こってしまった以上、私はあなたの傍を離れるべきね…。残念だけど…」
その言葉に、ミリアはハッと顔を上げた。
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