連載小説「オボステルラ」 【第四章 狼煙の先に】 7話「毒と薬」(6)
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7話 「毒と薬」(6)
「きっと私は、あなたにとっては得体の知れない人物でしょうし、今まではその辺りを何となくふんわりとさせてきたけど、こういうことが起こってしまった以上、私はあなたの傍を離れるべきね…。残念だけど…」
しかし、エレーネが言葉を最後まで言う間もなく、ミリアはハッと顔を上げて、強く拒絶した。
「それは絶対ダメ! いやよ!」
「…『いや』って…」
ミリアの予想外の反応に、驚いた表情を見せるエレーネ。ミリアはすっと背筋を伸ばし、ガラガラ声で凛と話を続ける。
「今回の件はわたくしの自業自得で、あなたには何の責もない。あなたがはっきりと素性を語らない怪しい女性だっていうのも、そうとわかってずっと一緒にいてもらっているのだから、今さらだわ。わたくしだって、王女という身分を隠して、影武者の普通のミリアとして世を忍んでいるのだから」
(エレーネが怪しい女性という認識はお持ちだったのか…)
ミリアが王女の身分を隠していることと比べるべき事情ではない気がするが、ディルムッドはミリアが意外に現実を見ていたことに少し安堵する。
「…それなのに、わたくしの元を離れるだなんて、ひどいわ」
「ひどいわって、あなたね…」
「…もし、あなたが、わたくしと一緒にいるのが嫌になってしまったのなら、別だけど…」
そう言ってミリアは、じっと多弁な瞳でエレーネを見つめる。その視線を受けて、エレーネはふう、と息をついた。
「…言ったでしょう? 巨大鳥を追うためには、できればあなた達と一緒にいたいって」
「だったら問題はないわ。今までと変わらず、このままよ」
そう、ベッドの上で背筋をまっすぐ伸ばして、エレーネを見つめるミリア。エレーネは少し呆れたように、嘆息した。
「…本当に困った王女様だこと。騎士さんの苦労が伺えるわね…」
そう言ってふふっと笑う。和らいだ雰囲気を感じて、ゴナンとディルムッドは聞き耳を解除し、部屋から少し離れた。
「…やっぱり、エレーネさんじゃなかったね…」
「ああ、そのようだな」
嬉しそうな光を瞳に宿すゴナンに、ディルムッドも微笑みで返す。ただ…。
(…しかし結局、エレーネの肝心な部分はわからないまま、というか、むしろ謎は深まったのだが…。ここでミリア様にすら、その身を明かさないということは、今までと変わらず自身の素性を隠し続けるつもりでもあるようだし…)
人を一口で死に追いやるほどの劇薬を飲み続けなければならない身。ミリアはその辺りを気にせずスルーしていたが、これはかなり特異な存在だ。どこぞかの国のなにがしかの貴族、という身分も、正直、嘘か誠か分からない。
(ただ、ミリア様が信頼されている以上、私もそれに従うだけだ。警戒だけは、怠らず…)
なぜかホッとして嬉しそうなゴナンの横顔を見つつも、ディルムッドはじっと瞳の奥に光を宿していた。
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ゴナンとディルムッドが扉から離れた後、エレーネが部屋を出ようとしたとき、ミリアはその背中に尋ねた。
「ねえ、エレーネ。あなたが卵を追っているのは、道楽だなんて言っていたけど、本当は、その、毒の薬が必要な体質と関わりがあるの…?」
「……」
エレーネは少しだけ足を止めて、ミリアに話す言葉を少し思案した。
「…まったく関係がないというわけではないけど…。あなたが国を背負っているように、私にも背負わされている使命があるの」
「使命…」
「…それに、前にも言ったけど、私は卵には興味がない。追っているのは巨大鳥のほう」
「巨大鳥は不幸をもたらすのよ」
「ええ、だから必要なの」
そういって、エレーネは振り返らないまま、抑揚を抑えて言葉を続ける。

「…もし、あなたの『不運の星』が本当だったら、私は巨大鳥ではなく、あなたを攫っていきたいところだわ。でも、そちらのほうは、まだわからないから…」
「…!」
「リカルドが言ってたでしょう? ただ奪おうとしてくる人より、いい顔をして恩を着せて取り入って、後であわよくば…、という輩のほうが数倍、厄介だって。気を付けた方がいいわよ」
「…ええ、気をつけるわ」
そう答えたミリアに、エレーネは振り返り少し寂しそうな笑顔を返す。しかしミリアはさらに続けた。
「でも、わたくしは、あなたがそうだとは思っていないけれども」
「……とにかく、私があなたと卵を取り合うようなことにはならないから…」
そう言い残して、エレーネは治療室を出た。
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