連載小説「オボステルラ」 【第五章 巨きなものの声】 12話「声」(2)
12話「声」(2)
それから数日が経った。遺跡を拠点に探索しているが、なかなか巨大鳥を捉えることができない。
「空を飛んでいるのは見かけている気がするんだけどな」とゴナン。
夜。外での食事が終わった後、遺跡の中で輪になって座っている一行。眠くなるまで、各々、好きな作業や武器の手入れをやったり、本を読んだり、そしてこうやって話すのが恒例になっている。
「ゴナンは流石の視力だな。我らは、遠くを飛ばれると普通の鳥との区別がつかない」
「いっとき一緒にいて、巨大鳥の姿形や雰囲気を覚えたっていうのもあるけど……」
そう言うゴナンの隣にはミリアが座っている。今日も左手をさすってあげているのだ。もう痺れなんてすっかり治ってるはずだとナイフは気付いているが、何も指摘はしない。
「ルチカの羽も見かけるけど、やっぱりすぐ消えちゃうな。空を飛ぶのを追いかけるって、馬に乗っていたって難しい……」
「『巨大鳥を見た者には不幸が訪れる』って、『見る』はどの程度まで含まれるんだろうなあ……」
リカルドが腕を組んで思案する。

「それに、ずっと乗ってたミリアやゴナンには、そんなひどい不幸は訪れていないよね? 多分」
「……ええ、そうね。でも、わたくしの場合は、わたくしの方が強かったということだわ、きっと」
「強かった?」
「ええ、『不運の星』のことよ」
「いや、強い弱いとかの勝負ではない気が……」
そう、困って答えるリカルド。ミリアの横で、ゴナンは物憂げな表情をしている。
「ゴナン? 何かあった?」
「……俺、巨大鳥のことを、恨まないといけないのにさ…。あいつ、なんていうか、あんなに大きいのに、けっこう可愛い奴だった……」
「……!」
リカルドは興味深げにゴナンに尋ねる。
「可愛いって、どんな風に? メスだったってこと?」
「いや、それはわかんないけど……。俺がごはん食べないでいると、ゴンの樹を揺らして、俺が食べるまで何個も実を落としてきたり、魚を投げつけてきたり。腐ったらもったいないから、思わず食べちゃったけど……」
「へえ…。ふふっ」
「……俺が肉焼いてると、おねだりするような顔になって……。肉あげたら、嬉しそうな顔で食べてる気がしたし」
あの時の眼がミリアそっくりに見えた、と言おうとしたが、あまり喜ばれない気がしたので、それは胸のうちに収めるゴナン。
「……正直…、あいつと過ごすの、なんか、楽しくって…。仲間、みたいに、思っちゃって…。そんなこと、思っちゃいけないのに…。あいつのせいで、ミィは…。村は…」
ミリアの手をさするのも忘れ、ゴナンはそのジレンマにぐっとうつむく。リカルドはゴナンの正面に来ると、優しく頭を撫でた。
「……ゴナン。巨大鳥がいい奴だったんなら、それはそれでいいじゃないか。あの鳥は、きっと望んで不幸を振りまいているわけではないと思うよ」
「……」
「……その…、前提として、僕は『不運の星』なんてないとは思っているけど。でも、ミリアと同じじゃないかな。ミリアは自分の周りに不幸が起こると思っているけど、そのことと、ミリア自身がどういう人間かということとは、何の関わりもないだろう? あ、でも『不運の星』なんて気のせいだと僕は思っているけどね」
ミリアの「引きの悪さ」を十分に生かして巨大鳥の進路の予測をしたことを棚に上げて、そう繰り返すリカルド。
「……ミリアと、同じ……」
「ミリアもそうだった? 仲間みたいに思った? 鳥のこと」
リカルドが隣のミリアにも訊ねる。そうね……、と思い出すミリア。
「確かに、守ってくれているような、優しい感じはしたけれども、仲間、というのとはちょっと違ったかしら…。家来…、のような? 付き従ってくれる、そんな感じがしたわ」
「……つまり、ディルみたいな感じってこと?」
ナイフの質問に、ミリアは「それだわ」と閃く。
「そうね。空を飛ぶディルって感じだったわ」
「ふふっ」
その例えに、思わず吹き出すナイフ。
「お姫様から、随分、巨大な生き物だと思われているようね、騎士様」
「……それは、褒められると受け取っていいのだろうな?」
少し渋い顔をするディルムッド。しかしゴナンが「身体は大きいほうがいいよ!」と少しズレたところで熱弁してくるので、ふっと破顔する。
「ゴナン。成長痛の痛みは大丈夫か?」
「うん。これで大きくなるんだから、全然、我慢できる。もっと痛くったっていい」
「ふふ、痛みの強さが成長に比例するわけではないぞ」
「でも、ディルみたいに、1週間に何センチも伸びたい」
そう嬉しそうに言って、そして慌てて止めていた手を動かしミリアの手をさするゴナン。ミリアはゴナンの骨張った手を、じっと見つめている。そんなミリアに、ゴナンは言った。
「……そうだな…。鳥は、悪い奴じゃないんだな。ただ、おいしい水を飲んで飛び回りたいだけなのかもな。……そう考えると、巨大鳥が、少しかわいそうに思えてきた……」
「……わたくしも、かわいそう?」
ミリアは大きな深緑の瞳をゴナンに真っすぐ向ける。キョトンとするゴナン。
「え? ミリアの話じゃないよ。お前は関係ないよ。別に不幸をふりまいてないし」
「……」
淡い琥珀色の瞳で、深緑の大きな瞳をまっすぐに見て、心底不思議そうに答えたゴナンに、ミリアはまた目を伏せた。
↓次の話↓
#小説
#オリジナル小説
#ファンタジー小説
#いつか見た夢
#いつか夢見た物語
#連載小説
#長編小説
#長編連載小説
#オボステルラ
#イラスト
#私の作品紹介
#眠れない夜に
