連載小説「オボステルラ」 【第四章 狼煙の先に】 17話「巨大鳥」(4)
17話「巨大鳥」(4)
しばし、無言の時間が流れた。
いつまで経ってもゴナンが何も話さないため、リカルドは恐る恐る、隣のゴナンを見る。すると、ゴナンはポロポロと涙を流していた。
「…えっ? ゴナン?」
その反応に驚くリカルド。ゴナンは唇を震わせている。
「…ごめん、リカルド…。俺、やっぱり足手まといだった…? 村からわざわざ追いかけてきて、熱出したり、攫われたり、面倒だけかけて、お金もいっぱい、かかって…。だから、大変だから、先生に預けちゃおうって…」
「えっ。違うよ! ゴナン、僕の話、聞いてた?」
ゴナンはリカルドをじっと見て、また涙をポロリとこぼす。
「…だって、お、俺……。エドのこととか、う、うらやましかった、けど…、そんなつもりで言った、わけじゃ…、なくて…」
そう口にして、しかし自分の気持ちを表すために何をどう言っていいのかが分からず、黙ってしまうゴナン。リカルドも、どう説明すればいいのかがわからない。
「…その、君がイヤになったとか、足手まといだとかじゃないんだ。でも、僕と一緒にいると、君は、君の人生が…、その…」
「……お、俺…」
ゴナンはすがりつくようにリカルドの腕を握る。
「…俺、昨日、あの、卵男と話してるときに気付いて…」
「卵男?」
「た…、卵男が…、に…、何の願いを叶えたいんだって、聞かれて…」
「……!」
(卵男が、そんなことを…?)
リカルドは、ゴナンの次の言葉をじっと待つ。
「…本当は、俺、もし、俺が卵を手に入れて、お願い事ができるようになったら、その時、大切に思ってる誰かのために使おうと思ってたんだ。でも、昨日、卵男に、自分のために願いを使うべきだって、言われて、それで、気付いて…」
「…?」
「…俺が、『一生、おじいさんになるまでずっと、リカルドと一緒に旅をしたい』って、そう願えばいいんだって。そしたら、俺の願いも、リカルドの呪いが外れるようにっていう願いも、両方同時に、叶うって…」
「……!」
リカルドはハッとして、そして、涙に溢れる琥珀の瞳を見る。しかし、ゴナンはリカルドの腕を離し、泉の方を向いて自分の両膝をぎゅっと抱えた。
「…そう思ってたんだけど…。でも、俺がそんなことを願っても、邪魔なだけだった…」
「ゴナン…」
リカルドはようやく、自分の考えがゴナンの気持ちとは大きく外れていたことに気付いた。そして、これまで自分の欲を持つことがなかったゴナンがようやく抱いた、とてもささやかな『自分のための願い事』に、胸がギュッと締め付けられる。
「ゴナン、ごめん、違うんだ…」
自分が間違っていた、これからも一緒に旅をしたい、リカルドはゴナンに、そう謝罪しようとした。

そのときだった。
-----バサッ。
もう何度か聞いた大きな羽音と共に、ふわりと風が巻き起こった。そして、2人がいる泉の対岸に、巨大鳥が降り立ってきた。
「あ…」
思わず立ち上がる2人。巨大鳥の鞍から少女が降り、そして巨大鳥は泉の水を飲み始めた。しかし、泉はさほど大きくはないため、少女はすぐに2人の存在に気付いた。
(あ、逃げられてしまう…!)
そう感じて、慌てて泉を回り、巨大鳥と少女の方に駆け寄るゴナンとリカルド。しかし、少女は鳥の何かを気にして、すぐに飛び立とうとはしない。そのため、2人は少女と鳥のすぐそばまで近寄ることができた。
「……」
少女は全身で警戒の姿勢を見せるが、近寄って来た人間の1人がゴナンであることに気づき、少しだけその気配を緩めた。鳥は、近寄ってくる人間のことなど気にせず水を飲み続けている。
(…?)
少女のその反応を少し不思議に感じつつ、穏やかに声をかけるリカルド。
「ねえ、今日は逃げないんだね。僕らとゆっくり、話をしてくれるのかな?」
「……」
逃げはしないが、言葉も返してこない。リカルドはまた、他愛もない話からしようと思ったが、きっと卵の話題になったとたん逃げられてしまうだろう。
(…そうだ、吹き矢も警戒しないといけない。僕は受けても大丈夫だけど、ゴナンが狙われないように…)
リカルドは周りを見回してみる。ナイフやディルムッドであれば、潜む者の気配を探れるのだろうが、残念ながらリカルドにそれは難しい。しかし、この泉は見通しが良く、一見、人が隠れられるような場所はないように思える。
そうやってリカルドが策謀を巡らせている横で、ゴナンは涙を拭きながら一歩、少女の方に近寄った。少女は警戒すると言うよりも、ドキリとゴナンに怯えたようだった。
(ああ、そういえば、前回会ったとき、ゴナンが凄い剣幕で叫んでいたから…)
ゴナンは、今日は静かに声をかける。
「…あの…。もしかして、鳥、矢でケガした? それで、上手く動けないの?」
その言葉に、少女はピクリと反応する。どうやら、その通りのようだ。だから今も、急には逃げないのかもしれない。ゴナンはペコリと頭を下げる。
「…ゴメン、その弓矢は、俺のなんだ。これ。射ったのは俺じゃないけど。俺じゃ、まだまっすぐも射てないし」
そう言って、自身にくくりつけている弓矢を見せる。だからといって少女はゴナンに敵意を見せることはない様子だ。
「…ミリアが、俺の服を縫うとき、針が指に刺さって痛かったっていってた。人間だって、あんな小っちゃい針でも痛いんだから、いくら鳥の体が大きくても、矢が刺さると、痛いよね…」
「……」
「…俺は…、不幸を振りまくお前達を、よくは思ってないけど、でも、ケガさせたいとか、弓矢で射ち落として殺したいとか、そういうのじゃないから…。ごめん…」
瞳を潤ませたままそう謝罪するゴナンを、少女は少し不思議そうに見る。何も話はしないが、耳は傾けてくれている。今が、チャンスだ。リカルドもゴナンの隣に一歩、進み出る。
「…ねえ、矢を向けてしまった立場でこういうのもおかしいけど、僕らはただ誠実に、話をしてみたいだけなんだ。もちろん、答えたくないことには答えないでいいし。どうだろう? 君の物騒な仲間にも、そう伝えてほしいんだけど」
「……」
少女は少しアゴを引いて睨むようにリカルドを見る。ゴナンのことは警戒していないが、リカルドに対してはそうではないようだ。リカルドは、努めて穏やかな笑顔を浮かべた。
そのまま、しばし膠着状態が続いたが…。
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