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連載小説「オボステルラ」 【第三章】18話「彼方星の向こうから」(4)


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第三章の登場人物



18話 「彼方星の向こうから」(4)


 そうして、午後。

ゴナンとリカルドは、エレーネ達が椅子を残してきた泉へ向かって、馬で駆けていた。ゴナンはまだ馬を操れないので、二人乗り用の鞍を借りリカルドの後ろに乗っている。

「うわあ…」

ゴナンはリカルドにしがみつきながら、その爽快さに感激していた。

「すごいね、馬、速い。今まで荷馬車に運ばれてばっかりだったから、俺」

しかもその半分以上は、攫われ縛られて運ばれていたんだよな、と心の中で振り返るゴナン。

「ディルの背中に乗っていたときも、同じくらい速かったんじゃないかな?」

リカルドは笑いながら話しかける。この距離を一晩で走破したというディルムッドのすさまじさを、馬で駆けながら改めて実感するゴナン。

「俺も馬に乗れるようになりたいな」

「手綱を操るだけなら、すぐできるよ。泉に着いたら、練習してもいいね」

「……うん…」

ゴナンが何かをしたがることが、リカルドも無性に嬉しい。弾む心で手綱を操り先を急ぐリカルド。

 草原を抜け、荒野へ。一気に緑から茶色の世界になる。心地よい疾走感に身を浸しているうちに、やがて、前方にこんもりした緑色の一帯が見えてきた。エレーネに教えてもらったオアシスだ。

「さあ、ついたね」

「わ……」

馬から下りたゴナンは、声を挙げる。水が美しい泉の周りには、草が生えちょっとした木々が生えている。鳥の鳴き声も聞こえているようだ。

「……北の村の、泉に似てる……」

「えっ? そうかな?」

「…あ、リカルドと掘った泉じゃなくて、その前にあった、涸れてしまった泉」

「ああ…」




リカルドは、古い泉に水が満ちていた姿を見たことはない。土の色と枯れ木しか見えない、大きな窪地だったあの場所を思い出す。

「そうか。あの場所も、涸れる前はこんなに緑豊かだったんだね」

「うん…」

村のことを思い出したゴナン。少し沈んだ様子で、泉の縁に佇む。リカルドは忘れ物の2脚の折りたたみ椅子を見つけて、その上にたまっていた枯葉を叩き落とし、ゴナンの元に持ってきた。二人で椅子に座る。泉の水面を眺めながら、しばし沈黙。リカルドは優しく話しかけた。

「…まだ、故郷から逃げてきてしまったって、思ってる?」

「それはそうだよ。……でも、俺は自分にできることを、しないといけないし…」

「……」

ストネの街を出るときは、ゴナンは何か吹っ切れていたように思えていたが、やはりまだ後ろ暗さを抱えたままのようだ。

「……暗くなる前に、御飯の準備をするよ」

 何かを振り切るように、ゴナンは立ち上がった。そしてキョロキョロ見回しながら、草むらの奥の方に姿を消す。リカルドは不思議に思いながら、立ち上がって自身はテントの設営などを始めた。

と、すぐにゴナンが戻ってくる。手には2匹のチビー。

「……えっ? もう捕まえたの?」

「うん。この辺りはチビーが多いみたいだね。すぐ見つけられた」

「……」

「すぐさばくね」

「あ、ああ、うん。僕は火をおこし始めておくよ」

ゴナンは腰のナイフを抜いて、テキパキとチビーをしめにかかる。リカルドははっと思い立ち、ゴナンに声をかけた。

「…ねえ、ゴナン。僕もチビーの血を飲んでみたいな。このカップに注いでくれる」

「? うん。いいよ。すぐ飲まないと毒がついちゃうって、ディルがいってた」

今日はナイフがあるので、鉱山で行ったときよりもはるかに簡単に処理ができる。カップに注ぐと、すぐにさばく作業に入ったゴナン。リカルドは早速、飲んでみる。

「うーん…」

「…どう?」

「…飲めなくはないけど、おいしいものではないかな」

ゴナンと全く同じ感想を口にするリカルド。ゴナンは思わずクスッと笑った。

「…ねえ、全部飲みきれないから、ゴナンも飲んでよ」

「うん、いいよ」

ゴナンはリカルドからカップを受け取り、残りをぐいっと飲み干し、そして微妙な表情。口周りを真っ赤にしたまま作業を続けようとするのを、リカルドは笑って止める。

「ほら、拭かないと」

「あ、ほんとだ」

リカルドがゴナンの口周りを布で拭う。そうしてゴナンの頭を撫でて、ニコニコしてまた、自分の作業に戻った。そのご機嫌な様子にゴナンは首を傾げつつも、自身もまたチビーの処理に戻る。

(……よし…)

 リカルドは、胸の中で深く頷いていた。ディルムッドとの『義兄弟の盃』の件で、「自分もゴナンとそういうことをしたい」とちょっと嫉妬しての大人げない行動だったのだが、その思惑をリカルドが口に出すことはない。



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