連載小説「オボステルラ」 【第三章】11話「その男の正体」(5)
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11話 その男の正体(5)
「…おい、ミリア。お前、どうした……!?」
「?」
ゴナンのその言葉に、皆はルチカの後ろにいるミリアを見た。思わずルチカも振り返る。ミリアは、ルチカの右手にある機械を凝視し、顔面蒼白になって、ブルブルと体を大きく震わせていた。
「ディルムッド、ディルムッド……」
ミリアはまだ、うわ言のようにディルムッドの名を呼び続けている。
「ミリア様? 私はこの通り、無事です。落ちついて」
「ディルムッド!」
ミリアは小さな体を体を大きく震わせながら、悲痛な声を挙げた。
「…ミリアさん、の影武者?さん、どうしたの…」
声をかけるルチカを、ミリアはギッと睨み上げる。
「ディルムッド! この男を…、ルチカを殺して!」
「!」
突然、そう激しく叫ぶミリア。
「この機械が、お兄様を、キールを殺した! こいつが殺した! ディルムッド、殺して……!」
「…え……?」
声を枯らすほどの叫び声を挙げるミリア。見開いた両目からは涙が溢れている。
(兄…、王子と、キール…、王子の影武者だったというショーン家の三男の名だ。殺した…?)
リカルドはミリアから聞いた名を思い出し、ハッとルチカを見る。まさか、やはりルチカは殺人鬼なのか…? しかし、そのルチカも戸惑いの表情を浮かべていた。
「…? 待って。お兄さんのその事件は、王都の往来でのことでしょ? 私はその日は城内にいたから…」
「触らないで。ディルムッド、お願い、殺して! ルチカを、この機械が……」
「ミリア様、落ちついてください」
ディルムッドは慌てて立ち上がる。
「ミリア様。この者は違います。犯人は私が捕らえたではないですか。それに、武器も似て見えますが仕組みが違う。ルチカのものは、引き金を引いて何か空気の圧のようなものを飛ばしているようだ。威力はなかなかだが、当たると痛いだけです、そして少しびっくりするだけです。連射もできない」
「…え、初見でそこまで、わかるの? こわっ」
ルチカがぼやくように呟く。
「兄君とキールの命を奪った武器は、火薬で鉄の玉を何発も連続して打ち込める仕掛けのものでした。形も微妙に違うし、使われた凶器はすでに軍で押収している。同じものではない。全く違う武器です。どうか、落ちついてください」
「ディルムッド…、殺して……」
ディルムッドの言葉がミリアの耳には入っていないようだ。そのまま跪き、体を震わせていたが、次第に呼吸が荒くなり、発作のような症状になった…。
「…ミリア……!」
ゴナンがミリアの元に、ふらつきながら飛び出してきた。ルチカは無表情になって武器を収め、無言でそっと身を引く。ナイフとエレーネも駆け寄った。
「…ミリア、ミリア…、しっかり……!」
ゴナンがミリアの背中をさする。息がうまくできないようだ。苦しんでいる。
「…過呼吸ね。ミリア、落ち着いて」
ナイフがミリアの横で、優しく語りかける。
「ミリア。苦しいわね、大丈夫よ。心を落ち着けて。まずは息をゆっくり吐いて、ゆっくり……」
「………」
ナイフの導きで、少しずつ呼吸を取り戻すミリア。いつも泰然として品のある言動を崩さないミリアが、これほどまでに荒々しい言葉遣いで取り乱す姿は、衝撃的だった。それに…。
リカルドは、ミリアを心配そうに見つめるディルムッドに、小声で話しかける。
「ディルムッドさん…。僕らは今、とんでもないことを耳にしてしまったような気がするんだけど…」
「……」
ディルムッドは、周囲の気配を気にする。表の道には少しずつ人通りが増えてきているようだ。念のため、周りを警戒しながら小声で答える。
「…聞いてのとおりだ。…ミリア様の兄君と私の弟は、殺された。それも、もう1年前のことだ」
「……1年…!? そんなに、前なのか…」
「…ああ。だが貴殿らが、その、兄君の死を知らないということは、未だ公にはされていないようだな…。恐らくミリア様の父君、の、ご意向だ…」
(ミリアの父、つまり国王の…。それに、『死んだ』ではなく、『殺された』…)
「…リカルド殿。分かっていただいているとは思うが、これは内密に願いたい。ここにいる他の者も…」
「ああ、そうだね。トップ中のトップシークレットのようだ…」
その秘密の重さに、リカルドは頭を抱える。
しかし、ずっと疑問に思っていたことが一つ、腑に落ちた。この聡明な王女がなぜ、突如、巨大鳥で家出をするという暴挙に出たのか。自身の不運を嘆いているというだけでは、説明がつかないと感じていたのだ。この兄の死、未来の王の死、そして自身がいずれ女王になるという事実が影響していると思えば、合点がいく。
「……ヒマワリちゃん……、いや、ルチカだっけ? 君もこのことを…」
と、ルチカに尋ねようとしたリカルドは、はっとして周りを見回した。ルチカはいつの間にか姿を消していた。この路地に追い込まれた状態でどうやって…?
「…本当にとんでもないことを、聞いてしまった…。参ったな…」
まだ、時間は朝。
霧が晴れて明るくなった空を、リカルドはふう、と見上げた。
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ミリアの状態が落ちついた後、リカルドとゴナンは拠点へ、そして他の3人は宿へと戻ることにした。とにかく、いろんな事が起こりすぎた。ゴナンとミリアを休ませるのはもちろん、大人達も流石に休養を必要としたのだ。
ディルムッドは、ひとまず警察に鉱山の件を報告するために別れた。
「……ミリア様が『漏らした情報』について、あなた方へ詳しく話す義務があるように思う。追ってまた、宿を訪ねる。もう少しこちらに滞在していただきたい。そしてくれぐれも、他言無きよう…」
そう言って1人、警察の方へと歩いて行ったディルムッド。あの風貌に足枷、鎖付きのまま、しかも、恐らく長い期間水浴びもしていないのだろう、体臭もなかなかである。警察を訪問して、まず自身が不審者として捕まらないかが心配ではあるが。
ディルムッドを見送り、リカルドは熱でフラフラしているゴナンの前にかがむ。
「ゴナン、もう、きつそうだよ。拠点まで僕が背負うから」
そう言って差し出された、大きな背中。ゴナンは無言で頷いて、その背中に乗った。自分の方が熱が高いはずなのに、リカルドの背中がとても温かく感じる。ゴナンはリカルドにギュッとしがみつくかのようにして、体を預けた。
(また、体が軽くなっているな…)
リカルドは背中のか細く熱い体を、そして自分にしがみつく腕の力の強さを、じっくりと感じながら、歩みを進めた。
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