連載小説「オボステルラ」 【第四章 狼煙の先に】 6話「ふたたび、遺跡のリカルド」(4)
<<第四章 6話(3) || 話一覧 || 第四章 6話(5)>>
第一章 1話から読む
6話「ふたたび、遺跡のリカルド」(4)
発光石の照明を掲げながら、約1週間ぶりに遺跡の大空間へと下っていく3人。もちろん前回と変わりはなく、壁の一面に大壁画が鎮座している。
「さて…」
遺跡の中に入った途端、また室内の隅っこへと移動し壁の石積みの分析らしきことを始めたリカルド。もう、ここの石積みはさんざん見飽きてしまっているであろうに、ここまで徹底して壁画を避ける様は滑稽で、見ていて面白くもある。が、しかし今日の目的はそうではない。
「リカルド。こっちよ、さあ、しっかり見て」
そう言ってリカルドを壁画の大樹の前まで押し出し、壁画に向けて頭をぐっと固定するナイフ。
「あなたが来たいと言ったのよ。何か気付くことはある?」
「…う…ん…」
リカルドは必死に大樹の絵を見ようとする。しかし、その目線はボンヤリとしてきているようだ。
「リカルド…?」
「なんだか、思考が違うことに飛び散っていく感じで…」
「リカルド、頑張って。何か、あなたの中で変化を感じたりすることはない?」
「…ああ…、お…」
「……お?…」
「…お腹空いたね…。今日、お昼ご飯はどうする? 一応軽食は持ってきているけど、屋敷に戻ってしっかり食べる?」
「……」
やはり、これ以上は難しい様子だ。ナイフはふう、と息をついてリカルドを解放する。リカルドはまた、壁画から離れて室内をうろうろとし始めた。しかし、「リカルド、外に出てはダメよ」と留めると、素直に言うことを聞き出ていくようなことはない。代わりに、また壁の石積みを見つめて石を数えるなどしているので、いっとき放置しておくことにする。
「……で、あなたが気に掛かっていたことというのは何なの? エレーネ」
「ええ…。リカルドに関わることではあるんだけど…」
そう言って、壁画の右側の上の方に描かれている巨大な樹のふもとを指さす。
「ここ。この模様が、リカルドの体に入っているアザと似ているような気がして」
「えっ?」
リカルドとナイフが同時に声を上げた。そしてリカルドははた、と気付く。
「…あれ? 僕、エレーネにこのアザのこと、教えていたっけ?」
ユーの民の証である、上半身を纏うように入ったアザ。首にまで及んでいるアザをできる限り隠したくて、リカルドは常にハイネックの真っ黒な装いを身に付けている。野営の時ですら、水浴びも一人でするなど、ゴナンとナイフ以外にさらすことは極力避けていたはずだが…。
「…あ、ゴメンナサイ。やっぱりそのアザは隠しているのね。ツマルタでゴナンが行方不明になっているとき、あなたがボロボロに荒れてて、寝間着のままでボンヤリしていたでしょ? その時、首元から見えていて、目立っていたから気になっていたの」
「ああ…」
流石のリカルドも、寝間着は首元がゆったりした装いを着ている。
「このアザが何かは知ってる?」
「? アザはアザじゃないの? もしかして、火傷やケガの跡…? それとも、刺青とか…」
「…あ、いや、何でもないんだ。生まれつきで。君のいう通り少し目立つから、普段は隠しているんだ」
異国人だからか、エレーネはユーの民のおとぎ話のことは知らないようだ。それを確認したリカルドは、マントを脱ぎ、そしてトップスも脱いで、上半身のアザを露わにした。
「…僕はその壁画の柄を直視できないから、代わりに見比べてもらえるかな?」
「ええ、分かったわ」
リカルドは壁画に背を向けた状態でアザを見せる。本当は遺跡の出口へと進んでしまいたい気持ちが脳を支配しているが、すんでのところで踏みとどまっている。
「ねえ、ナイフ、この辺りなんだけど」
「…!」
と、ナイフがハッと外に意識を向けた。
「…ナイフ?」
「…ちょっと外を見てくるわ。…こら、リカルド、ちゃっかり着いてこないで。ステイ!」
この機に乗じて一緒に外に出ようとするリカルドを留めて、ナイフは1人、外へと飛び出し、周辺の気配を探った。
(…この前と同じ…? でもすぐ、消えた…)
ナイフはしばし警戒を続けたが、嫌な気配はもう感じられなかった。首を傾げながら、再び遺跡へと降りていく。
「ナイフちゃん?」
「…この前と同じ。なんか嫌な気配があった気がしたんだけど、何もなかったわ。エレーネ、どうかしら?」
「ええ…」
ナイフは、しゃがみこみ壁画の隅を確認するエレーネの隣へと行く。壁画の隅に小さく、しかし、しっかりと模様が彫り込まれている。確かにリカルドのアザと似ているようだ。
「…こんな隅っこの彫り、よく気付いたわね」
「…でも…。似ているけど同じではない、という感じね。この辺りの柄とか、リカルドのその右脇腹辺りと似ている気もするけど…」
「そうね…。何か、柄の組み合わせの法則なんかがあるのかしら? 不規則にも見えるような、規則的にも見えるような…」
リカルドは、意識が散漫になるのをなんとか留めながら、エレーネに依頼した。
「…エレーネ、申し訳ないけどその壁画の柄を、なるべく正確に模写してくれないか? 屋敷に戻った後なら、僕も見ることができるかもしれない」
「ええ、そうね。分かったわ」
そうして、エレーネはしばし、模様を紙に写す作業にとりかかった。その間、リカルドはボンヤリと考える。結局、何も収穫はなかったように思えるが、しかし…。
(やっぱり、僕のこの挙動はあまりにもおかしい…。それに、エレーネは「似ているけど同じではない」と言った。つまり「同じではないけど似ている」ということだ)
今まで、このアザに似ている柄なんて、見かけたこともなかった。自身が壁画をどうしても直視できない、意識することすら難しいという頑なさが、ユーの呪いの絶対性とリンクしているようにも思える。
(…もしかしたら、卵に祈る必要もなく、僕の呪いをどうにかできるヒントがあるのかもしれない…。もしそうできれば、卵の願いは、ゴナンに…)
リカルドの黒曜石のような瞳の奥が、暗く光った。

↓次の話↓
#小説
#オリジナル小説
#ファンタジー小説
#いつか見た夢
#いつか夢見た物語
#連載小説
#長編小説
#長編連載小説
#オボステルラ
#イラスト
#私の作品紹介
#眠れない夜に
