連載小説「オボステルラ」 【第四章 狼煙の先に】 6話「ふたたび、遺跡のリカルド」(5)
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6話「ふたたび、遺跡のリカルド」(5)
ウキの街の少年・エドワードは、この1週間余り、かつてないほど楽しい日々を過ごしていた。
突如、先生の家に現れた、同い年の旅の少年、ゴナン。物静かで無愛想で、でも怖い感じや嫌な感じはしない。最初はちょっと迷惑そうな顔をされたが、話してみるとやっぱり、いい奴だった。
故郷で『遊び』をしたことがないとか、ウサギなんかを獲るのが得意だとか、この田舎街では会ったことがない、変わったタイプの人物だ。自分は親に言われてイヤイヤ来ている『学校』だが、ゴナンはとても楽しそうにしている。あの体がとてつもなく大きな男性とよく剣の鍛錬もしているようだ。表情や佇まいがたまに大人びていて、エドワードには彼がどこか神秘的にも感じられた。
(でも、俺たちと遊ぶときは、普通に同い年の感じに思えるもんな…)
エドワードはこの友人をとても好きになっていた。そして、もっともっと彼のことを知りたいと、さらに興味を持つようになっていた。
ゴナンが病み上がりと言うことで、遠出せずクラウスマン邸の庭で遊ぶことに決めた少年達。今日はエドワードを含めて、近い年齢の少年4人で遊びに来ている。他の少年もゴナンには興味津々なのだ。
「ふう、ちょっと休憩しようぜ」
ボール遊びなどを一通り楽しんだ後、庭の木の麓で休む一同。エドワードは、遊び疲れて木にもたれかかるゴナンに尋ねる。
「そういや、『ゴナン』って珍しい名前だよな? 何か特別な由来でもあるのか?」
「え? いや、別に、ないよ。俺、上に兄ちゃ…、兄貴が4人いて、5番目だから、ゴナンってだけだよ」
「え、五男でゴナン?」
エドワードは驚いて聞き直す。
「そんな訳ないだろう? きっとお前の父ちゃんと母ちゃんは照れ隠しでそんなことを言って、本当はちゃんとした由来があるんだよ」
「…」
エドワードはゴナンを励ますようにそう言った。しかし、両親や周囲の愛情を当たり前にたっぷりと受けて健やかに育った少年の、ごく無邪気な励ましは、ゴナンにチクリとしたものを与えてしまう。
「…ていうかゴナン。お前、妹もいるって言ってたよな? 何歳?」
「…俺の5つ下…」
「なあ、かわいい? お前に似てたらかわいいんだろうな。お前は無愛想だけど、顔はなんか整ってるから」
「……」
「俺はずっと一人っ子だったんだけどさ、俺にもこの前、妹が生まれたんだよ。15歳も下の妹だぜ。まだ小っちゃすぎて、お猿さんみたいだけどな。かわいいかどうかも、よくわかんねえや」
「……」
ゴナンは言葉に詰まる。この快活な雰囲気の中で「自分の妹は飢えて死んだ」なんて口にできない。飢餓とはまったく無縁に思える土地で育ったエドワードにとって、そんな状況は想像もしないだろう。
「…妹は、俺にはあまり似てなくて母さん似だけど、かわいいよ」
「そうか! 今度会わせてくれよ」
「……」
「ちなみに俺はひいじいちゃんと同じ名前なんだぜ。父さんの方のな。だから、ありきたりな名前なんだ。もっとスペシャルな名前がよかったなあ…」
そう言ってまた無邪気に笑うエドワードに、ゴナンは無言でうつむく。エドワードはその表情の変化に気付いた。
「…ごめん、無愛想って言ったこと、気にしたか?」
「…えっ? それは違うよ、大丈夫だよ」
「それも、お前の個性っていうか、チャームポイントだと思うぜ」
「うん、ありがとう…」
そう言いながらも、ゴナンが少し不機嫌になった雰囲気を感じたエドワード、話題を変える。
「…でも、あの、一緒に旅をしている人達? あの人達は家族じゃないんだよな? みんなバラバラだもんな」
「うん…。旅の、仲間…」
「なんであんな変なメンバーで旅してるんだ?」
「……」
聞かれてゴナンはまた、無言になる。この、ただ明るく幸せに暮らす少年に鳥や卵の話をしたところで、共感してもらえるとは思えない。
「その、いろいろあって…」
「あのお嬢様、普通のミリアちゃん? 可愛いよな。背の高い女の人もすげえ美人。俺、緊張して話しかけられない」
「…へえ、そうなんだ」
他の少年達が「そろそろ、何かして遊ぶ?」と声を掛けてくるが、「俺はまだゴナンとしゃべってるよ」とエドワード。しかし、ゴナンはやはり、あまり会話に乗ってこない。
「…あの体の大きい人、めっちゃ強そうだよな。カッコいい」
「…うん。すごく強いよ。力持ちだし、1人で10人くらいの兵士をあっという間にやっつけてた。しかも、俺を背負ったままで」
「へえ…、すげえ!」
「鎖につながれていたのに、それを引きちぎって脱出したし、自分の武器を持ってなくったって、敵のを奪ってそのままやっつけちゃうし」
「すげえな!」
「ディルが持つと、どんな鈍でも伝説の聖剣になっちゃうんだよ」
「俺もそんな風になりてえ…!」
ディルムッドの話をすると、ゴナンの表情が少し生き生きしてきた。興奮して立ち上がり、腕をぶんぶんと振り回すエドワード。が、ふと動きをとめる。
「…え? 鎖につながれてた? 兵士をやっつけたって…。…あの人、犯罪者?」
「ち、違うよ! 俺のせいで、ていうか、その、悪い奴に捕まって…」
「あんな強そうな人が?」
「……」
状況を説明しようとしたゴナンだったが、自分が騙されて攫われたことまで知られてしまうのが嫌で、また口ごもってしまった。この新しい友人に、自分のみっともない面を晒したくなかった。
そうして押し黙ってしまったゴナンに気を使い、またエドワードは話題を変える。
「あの、肌がブロンズ色の人も強そうだよな」
「ナイフちゃん? うん。すごく強いよ。武器は使わないんだけど、蹴りとか突きとか締め技で、悪い奴をやっつける」
「へえ、すげえな! じゃあ、武器使えばもっと強くなるのにな!」
「…」
「それに、女みたいな服装で女みたいな話し方なのに、体はめっちゃ男なの、すごい変わってるよな。体格だけなら、そこら辺の男の人よりもよっぽど男らしいし。どっちかにすればいいのに。もっと全部、男っぽくすれば強くなるんじゃないかな。あの人、結局、男? 女? なんで『ちゃん』付け?」
「……」
その無邪気な質問に、今度はゴナンはあからさまに不快感を露わにした。その態度に、エドワードも少しむっとする。
「だって、俺、あんな人見たことないし、どっちかじゃないとわかりにくいじゃん。どう話せばいいかも困るし。変、ていうか、気持ち悪いよ」
「…ナイフちゃんは、ナイフちゃんだよ…」
ゴナンの胸のうちに渦巻いた想いはたくさんあったが、ようやくそれだけを口にできた。そのまま黙りこくるゴナンに、エドワードは何か反応が欲しくて、さらに続ける。
「あの黒い服の人もさあ、なんか、笑顔でも目の奥が笑ってないっていうか、ちょっとうさん臭いよな。昨日もゴナンは大丈夫って言ってるのに、無理矢理休ませるし」
「……」
「あの人と同じ部屋みたいだけど、平気なのかよ、ゴナン。うざったくないか?」
エドワードにしてみれば、自分が「うちの母ちゃんうぜー」というような感じで身内をさげすむ感覚だったのだが、そう言われてゴナンは何かいいたげな表情になる。
「…な、なんだよ…。なんか言いたいことがあるなら…」
「……」
自分の思いを上手く口にできず、ゴナンはじっとエドワードを見た。

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