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連載ファンタジー小説「オボステルラ」 【第三章】7話「大きな男」(1)


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第三章の登場人物



7話 大きな男(1)



 さて、話は、ゴナンが消えた日、ツマルタに到着して2日目の夜に遡る。

エレーネが先に宿に戻り、残りの4人で入った、少しガラの悪い、賑やかしい食堂。耳が良いゴナンは、多くの屈強そうな男達が大声で話す環境に驚いて、キョロキョロしていた。ストネでもなかなか見なかった光景だ。

(なんだか少し、怖いな…)

そう感じながらも、自身のことを考えていた。

 あの高価な寝袋を目の当たりにしたことをきっかけに、リカルドに与えられるばかりで、自分で何も生み出せない自身の情けなさに向き合っていたゴナン。リカルドが故郷のことで落ち込んでいるのに、それすらゴナンはどう支えてあげればいいのか分からないし、何もできない、何も与えてあげられない。

(…リカルドにあんまり心配や負担を掛けないように、せめて、自分でちゃんとお金を稼げるようになっておかないと…。いくらリカルドが裕福そうに見えたって、お金には限りがあるはずだし…)

実はリカルドには、ユーの民が思い思いに使うことができるユー村の財産という膨大な財布があり、金銭面を心配する必要はないのだが、ゴナンはそのことは知らない。

(それくらいできないと、みんなと一緒に旅をする資格が、俺にはない…)

 たくさんの知識を持っていて巨大鳥と卵をライフワークにしているリカルド、この国の王女であるミリア、そのミリアをしっかりと守りつつ巨大鳥の研究にも造詣が深いエレーネ、誰よりも頼りになるとリカルドが信頼するナイフ…。それぞれが、それぞれの価値を持っている。自分だけが何もない、何の役にも立たないのだ。今から体を鍛えようとしている自分が、なんとも呑気に思えた。

「リカルド。今日は自分のご飯代、自分で出すから」

ひとまず、今夜の食事代を自分で出す旨を申し出ると、リカルドはとても哀しそうな顔をした。リカルドにかかる負担をなるべく軽くしてあげたいだけなのだが、リカルドは違う風に受け取ったようだ。説明しよう、としたが…。

(……ん?)

ゴナンはまたキョロキョロする。今、確かに、聞こえたような…。

リカルドが全員におごるということになり、ナイフの勧めで牛乳を飲んでいるゴナン。そうしながら、耳をそばだてている。

(……あ、あの人達だ、やっぱり、あの話をしている)

ゴナンは目もいい。会話の主の席を、すぐに見つけた。視線の先に男性数名の姿がある。

「…ト、トイレに行ってくる」

その男性の内の一人がトイレに立つのが見えて、自分もそう声をかけて慌てて立ち上がった。ついさっきトイレに行ったばかりなのだが、何杯も牛乳を飲んでいる様子を見ていた一行は不思議に思わなかったようだ。

「…あ、あの……!」

ゴナンは、トイレを済ませて出てきたその男に、小声で声をかけた。身なりの良い服を着ていて、年齢は30代に見える。




「ん?」
「あの…、さっき、話しているのが、聞こえて……」
「……!」

ゴナンがおずおずとした表情で、その男に尋ねる。

「…力仕事をやってくれる人を、探しているって…。そんなに難しい仕事ではないけど、お給料はそこそこだって…、聞こえて…」

「あ、ああ…。どこにいたんだ? よく聞こえたな…」

男はゴナンの全身をじいっと見る。

「…だが、お前さん、力仕事って感じの体格には見えねえが…」

「お、俺…、学もないし、できることは少ないけど、難しくない力仕事なら、俺にもできると思って。お金を稼ぎたい…、んです。何日間か、とか、できるなら、働かせてもらいたい…です…」

「ふうん…?」

男は少し考える素振りを見せ、さらに尋ねる。

「まあ、若くて五体満足なら大丈夫かな? お前さん、年齢は?」

「じゅうご……、18歳です……」

「18歳?」

ストネの街で、夜の店は15歳では働けなかったことを思い出し、そう嘘をつくゴナン。男は少し違和感を感じたようだが、話を進めた。

「お前は一人で来てるのか? 家族は?」
「家族……」

ゴナンは遠い故郷を思い出す。

「…家族は、今、いないです。故郷はここから、うんと北にあって遠いから。俺は帰れないし…」

「でも、誰かと来ているんだろう?」

ゴナンは一行の方にチラリと目を遣ったが、すぐに視線を戻した。

「…はい、でも…、大丈夫です。俺がいなくったって、何の問題もないから」

『巨大鳥を探すのに何の問題もない』の意だったが、言葉少なにそう伝えたゴナン。男はそうか…、と少しだけ考えた後、軽くゴナンの肩を叩く。

「わかったよ。お前は運がいいぜ、人集めは一旦、今日までの予定だったんだ。集合場所に来てくれれば、仕事場へと紹介するよ」

「…あ、ありがとうございます…」

「ただなあ、明日は早朝から仕事になるから、集合が夜中になるんだ。来れるか? 場所は、宿屋街の西端の入口だ」

「……はい、大丈夫です…。場所も、わかります。何か、準備するものはありますか…?」

「そうだなあ…」

そう言って、男はゴナンの腰ベルトにつけてあるナイフを見る。

「武器になるようなものは邪魔になるから、持ってこない方がいいな。身軽に来てもらって大丈夫だよ」

「…はい、分かりました。頑張ります…」

ゴナンはペコリと頭を下げて、席へと戻っていく。

(どんな仕事かわからないけど、何日間か働かせてもらえば、少しは稼ぎになるかな。リカルド達はこの街に滞在して巨大鳥を探すはずだから、その間、俺だけ働けばいいんだ。どうせ俺は、鳥探しの役には立たないから)

力仕事だと言っていたから、今夜はご飯をたくさん食べておこう。牛乳も。リカルドに払わせてしまうのが申し訳ないが、きっと頑張れば十分に返せるはずだ。

 ゴナンは少し元気を取り戻し、ご飯をバクバク食べ、牛乳を飲む。その様子を、リカルドは少しホッとしたように眺めている。今夜から仕事に行くことを伝えようと思ったが、食事の場の雰囲気を悪くしてしまいそうな気がした。ミリアが無頼な真似をして、その似合わなさがおかしくて、みんなも笑っていた。この楽しい雰囲気を、なんとなく壊したくない。

(リカルドの家に帰ってから話せばいいか…)

今は楽しく食事をして、二人になってから話そうと決めた。

しかし、お腹いっぱいになると途端に眠気が襲ってきた。歩きながら寝てしまいそうだ。

(…だめだ…。帰ったらリカルドに、話さないと…。いや、もう今、話そうか…)

「ゴナン、おぶろうか? 寝てしまっていいから」

リカルドがそう、優しく聞いてくれる。またリカルドに面倒をかけてしまうことが気にかかったが、今夜、初めての仕事に出かける緊張で胸がモゾモゾとしていたゴナン。リカルドの背に乗って、その背中から安心感を得たい気持ちに覆われた。こくんと頷くと、リカルドは嬉しそうにしている。

「はい、乗ってきて」
「……ありがとう……」

そう礼を述べて、リカルドに背負われる。大きな背中、温かい。ほうっと安心したゴナンは、すぐに眠りについてしまった。



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