連載ファンタジー小説「オボステルラ」 【第三章】4話「ゴナンが消えた」(5)
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4話 ゴナンが消えた(5)
一方、ツマルタの街。
午後になり人気が出てきた飲み屋街に、ナイフの姿はあった。
お店によっては午後3時頃から営業を始めるところもある。工房で作業が行き詰まった職人などが早めに酒を始めることも多いのだそうだ。
「お久しぶり、マスター」
ナイフが立ち寄った一軒のバー。といっても奥の方は、『フローラ』と同じくラウンジになっている。女装した男性が接客する『フローラ』とは違い、ここでは接客するのは華やかに着飾った女性たちだ。カウンターの中から、がっしりとした体格の初老の男性が顔を出す。蝶ネクタイを巻き、白髪を綺麗になでつけており、バーテンダーの雰囲気がある。
「おお、ナイフちゃん。どうしたの、こっちに来て。お店は?」
「ちょっと事情があって、営業停止中。ついでに、知り合いの旅行に付き合ってるの」
そう言ってカウンターに座り、1杯オーダーする。奥のラウンジの営業はまだのようだ。
「でね、旅行に一緒に来ている男の子がちょっと、迷子になっちゃっててね。この付近で見かけてない? 明るい金髪で、頭にくたびれたバンダナを巻いてて、くったくたのベストを着てる男の子。15歳で体も細い子で、飲み屋街を歩いてたら目立つと思うのだけれど」
「うーん、俺は見かけねえなあ」
「もしかしたら、この付近で働きたがってる可能性もあるのよ。周りのお店に売り込みに来てるような話、聞いてないかしら?」
マスターは首を振る。そして、フラン酒のロックをナイフに出した。
「ナイフちゃんの店の子? ツマルタには、そっちの店はないからなあ」
「あ、でも、ノーマルの男の子よ。数日だけうちで働いたことがあるのはあるんだけど」

まあ、磨けば光る原石ではありそうなんだけど、とナイフは心の裡でつぶやく。マスターは自分の分の酒も注いでいる。
「ストネは、なんか大変だったんだろ? 伝説の巨大鳥が姿を現して、その呪いが振りまかれたって噂は聞いてるぜ」
「さすが、情報が早いわね。私も巨大鳥、この目で見たわよ。本当に大きかったわ」
マスターと乾杯して、さらに一口、フラン酒を飲むナイフ。
「店を閉めてるのも、その呪いのせいか?」
「違うわよ、ちょっといろいろあってね。まあ、いつもの感じの揉め事よ」
「ああ…」
ふふっと笑うマスター。
「そっちは巨大鳥で大変だなあ。こっちはこっちで、卵が現れたって噂なんだけどなあ」
「へえ、卵…」
そのままスルーするところだったが、はた、とナイフはマスターを見る。
「…卵? 卵って…」
「ああ、巨大鳥の卵だよ。幸せになる? いや、願いを叶えるってやつだっけか? あれを背負ってこの街をうろつく男がいるって噂なんだよ。実際に見た奴の話はまだ、あんまり聞かねえが。願いを叶えたいって躍起になって探している奴もいるぜ」
「巨大鳥の、卵が…?」
卵を背負う男と聞いて、まずヒマワリを思い浮かべたナイフ。ただ、あんなに手間を掛けてこっそり卵を盗みだそうとしていた彼だ。卵を手に入れて、そうと分かるように巷をうろつくようなことは、しないような気がする。
「なんだ、興味がある? ナイフちゃんも卵が願いを叶えるって信じてるのか?」
「いえ、そうではないんだけど…。…帝国の男達が卵を探し回ってる、なんて噂は聞かない?」
「帝国? この街にはあんまり帝国人は来ねえからなあ。そもそも、見た目だけじゃそこまで区別はつかないし。酒でも飲めば分かりやすいんだがな」
ア王国とエルラン帝国はどちらも複数の人種がいる国家で、両国民に人種の特徴的な差異はなく言語も同じ。ただ、それぞれ振る舞いや飲み方に特徴があるので、特に飲み屋街などでは帝国人は分かりやすいのだ。
「本当に卵が願いを叶えてくれるってんなら、俺はすぐに店を畳んで南東の避暑地で贅沢三昧だな」
「で、その避暑地での休暇に3日で飽きて、女の子集めてそこにまた店を出すんでしょ」
ナイフはふふっと笑ってフラン酒を飲み干し、酒代をカウンターに置いて立ち上がる。
「ごちそうさま。また、ゆっくり来るわね。もし、バンダナの男の子を見かけたら、私が泊まっている宿に知らせてくれる? 全く手がかりがないのよ」
「ああ、分かったよ。でもまあ、もう15歳の男の子だろう? そんなに心配しねえでもいいんじゃないか?」
「ま、普通はそうなんだけどね…」
ナイフは、少し物憂げにため息をついて、ひらひらと手を振りそのバーを後にした。
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