連載小説「オボステルラ」 【第三章】16話「彼方に誓う」(5)
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16話 「彼方に誓う」(5)
長く話している内にゴナンがまた辛そうになってきたので、ゴナンを寝かせるために解散になった。リカルドは例によって病室に泊まり込むようだ。ディルムッドは泊まらせてもらっているという警察の牢を引き上げ次第、宿に合流するという。
「ディル。ところで、警察には何と名乗っているの?」
「ん? 鉱山で名乗っていたドズという偽名のままだ。ただ、鉱山で働いていた者であるとしか述べていない」
帰り道、ナイフの素朴な疑問にディルムッドは答えた。エレーネがさらに尋ねる。
「警察に捕まったわけではないのよね? なぜ牢に寝泊まりを?」
「……私に相応しい寝床だからだ。願い出て受け入れてもらった」
「その髪や髭なんかの身なりを整えたり、新しい服はどうやって調達したの?」
「ああ。手持ちの金もないから困っていると、署の人々が快く準備してくれた。人の情とはありがたいものだな」
「……」
ナイフとエレーネは顔を見合わせる。
(……多分、この人がディルムッド・ショーンだということはバレているわね…)
そうでなけでば、あの風体でドズとだけ名乗る人物は怪しすぎる。軍に限らず、ショーン騎士はこの国ではある意味有名人なのだから。
大体、ドズという偽名もひねりがなさ過ぎるというか、偽名であることがあからさますぎる。すんなりその名前を受け入れるのはゴナンくらいだろう、と呆れ気味に思いながら、ナイフはさらに尋ねる。
「…ツマルタにある軍の支部には顔を出していないの?」
「ああ。秘密にしているわけでも身を隠しているわけでもないが、私が騎士団もショーン家も出ていることは公にはされていない。各地の軍に顔見知りも多いし、あまりややこしいことにはしたくないからな…」
「……」
ナイフはうーん、と腕組みをしてディルムッドをジロジロと見た。
「……? 何か? ナイフ殿」
「だから、その『殿』は止めてってば。ディル。あなた、髭を剃ってスッキリしたのはいいけれど、顎髭だけは伸ばしてみない?」
「? あ、ああ。それは構わないが…」
「髪は、騎士の頃も長髪だったの?」
「いや、短かった。これは鉱山で伸びっぱなしだっただけだ」
ナイフはさらに、じっとディルムッドを見る。
「…じゃあ、髪もそのまま長い方がいいわね。まあ、その目立つ体格だから、見る人が見ればかのショーン兄弟の片割れだとすぐにバレるとは思うけど、少しでも見た目を変えておいたほうがいいのではない? 『ショーン騎士がわざわざ警護しているとは、あの少女は何者だ?』ってなっちゃうかもしれないから」
「…確かに、そうだな…」
「服装なんかはリカルドに相談した方がいいわよ。こういうことには口うるさ…、こだわりを持っていろいろアドバイスしてくれるから。多分、お髭のお手入れセットなんかをあのガラクタ部屋から持ち出してくるんじゃないかしら」
「ああ…」
そう応えて、ディルムッドはじっとミリアを見た。

(……この髪は、願掛けにしよう。アーロン殿下にしてさしあげられなかったことを取り戻せたと、私自身が納得できるまで、この髪は切らない。これを、誓いの証にしよう…)
そうして、自身と同じ色の長い髪を一つにくくっていた弟の後ろ姿を思い出すディルムッド。
「どうしたの? ディル?」
「…あ、いえ…。ミリア様、そういうわけで、ひとまず私は警察署の方に戻ります。警察とのやり取りが終わり次第、牢を引き上げて、そちらの宿屋に合流しますので。それまでは引き続き、ミリア様を頼む。ナイフ、エレーネ」
「ええ、任せて。待ってるわよ」
ナイフがウインクをディルムッドに飛ばす。ディルムッドは少し破顔してそれを受け、一人別の道へと戻っていった。
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病室での会合から3日後に、ゴナンは退院した。
ケガの治療と同時に、熱と咳についても医師に詳しく診てもらったが、結局、原因はよくわからない。ストネの街の医師と同じような所見だった。とはいえ少しずつ快方に向かっているので、またリカルドの拠点で療養することになった。
相変わらずうっとうしいほどの手厚いリカルドの看護を受けて、ようやく咳も治まり、退院から2日経って熱も下がってきた。その間、エレーネとミリアは馬を出して水場を探索し、ナイフは飲み屋街で卵男やルチカを探してみたが、いずれも見つからないままだ。
そんな日の朝。
「大変よ! リカルド!」
そう叫びながら、ミリアがリカルドの拠点に飛び込んできた。
「ミリア。どうしたの? まさか、一人で来た…? と、エレーネがいたか」
玄関ドアの外には、慌ててミリアを追いかけてきたらしいエレーネが、やはり息を切らしていた。
「大変なの! リカルド。すぐに来て!」
「だから、どうしたんだい? 今日は、ディルが宿屋に合流する日だったよね。鳥でも見つかった?」
そうだとすれば、ミリアが率先して知らせに来るのは少し不思議な気もする。騒ぎを聞いて、何事かとゴナンも寝室から出てきた。
「違うの、鳥ではないの。大変なの、ナイフちゃんが、ナイフちゃんが…」
「……!?」
必死な様相でリカルドにすがりつくミリア。その報告を聞き、リカルドはゴナンを顔を見合わせた。
「…すぐ、行くよ。大変だ…」
「お、俺も行く…!」
ゴナンがいそいそと着替える。まだ体のあちこちが痛そうだが、それどころではない。非常事態である。すぐに一行は宿屋へと駆け出した。
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