連載小説「オボステルラ」 【第三章】12話「1年前」(4)
<<第三章 12話(3) || 話一覧 || 第三章 12話(5)>>
第一章 1話から読む
12話 「1年前」(4)
「君、例のものを」
アーロンは横に控えるミリアの女官に合図をした。すぐに部屋の外から、果物をすりおろしたものが持ちこまれる。
「食欲がないと聞いたよ。僕が食べさせてあげよう」
「……」
ミリアは少し照れくさそうにしつつも、嬉しそうな表情を浮かべた。
「自分でも、食べられるけれど……」
「遠慮しないでいいよ、ほら」
そう言ってアーロンが差し出すスプーンを、ミリアは口にする。美味しそうにして、大きな深緑色の瞳でじっと次の一口を催促するミリア。アーロンはまた嬉しそうにスプーンを差し出す。

「本当に食欲がないのか? パクパク食べるじゃないか」
「今日のは特別、美味しく感じるの」
「ああ、もう食べちゃった。あっという間だなあ」
名残惜しそうに、空になった食器をメイドに渡すアーロン。この王子はとても妹を可愛がっているのだが、それにしても溺愛が過ぎるのではないかと、ディルムッドは少し呆れ気味に見ている。
「そうだ、明日は公務で城下町に下るんだ。ついでに、何か美味しい果物を見繕ってこようか」
「そんなことをなさらなくても、お城にはたくさんの食べ物があるのでしょう?」
「それはそうなんだけどね」
そう言って、またミリアの頭を撫でるアーロン。
「ミリアには僕が選んだ果物を食べてから元気になってほしいじゃないか。それに、お前に城の外の空気を感じて欲しいんだよ。お前はまだまだ、あと4年もお城に軟禁状態だからね」
「まあ、お兄様」
グチじみたアーロンの言を聞き、ミリアはベッドの上ながらスッと背筋を伸ばした。
「お兄様、そのような言い方はよくないわ。この国の定めを批判しているように取られてしまいますわよ」
「ミリアに怒られてしまった」
そう言いながら、また嬉しそうなアーロン。
「お前は本当に、頼もしい妹姫だよ」
「あ、そうだわ。あれをお願い」
ミリアは隣の女官に指示する。デスクの引き出しから取りだしてもらったのは、刺繍が入った小さな袋。
「刺繍のお稽古をしていたのだけど、思いのほか上手にできたから、小袋に仕立て上げてみたの。お兄様に使っていただきたくて」
「わ、上手だね。フユウソウの花じゃないか。僕の好きな花だよ。よし、これに果物を買うお金を入れて、明日は出かけようかな」
小袋を受け取り、また嬉しそうにミリアの頭を撫でるアーロン。2週間前にユラリアの花の刺繍のハンカチをミリアに贈られたときは、「ユラリアが僕の好きな花だよ」と言っていたようにディルムッドは記憶している。
「さ、もう休みなさい。明日、城下から戻ったら、また様子を見に来るから。果物を持ってね。毒味が済んでからになるから、少し遅くなるかもしれないけど」
「ええ、楽しみにしているわ。お気を付けて」
そう言ってミリアはまた、横になる。その姿を見届けて、アーロンとディルムッドは部屋を出た。
「早く元気にはなって欲しいけど、そうなるとミリアに果物を食べさせてあげられなくなるなあ…」
「それにしても、殿下はお好きなお花が多いのですね、流石です。2週間前はユラリアの花が好きだとおっしゃられていたかと」
そう頭を下げるディルムッドを、アーロンは呆れたように見つめる。
「…?」
「いや、武人とはまことに情緒がわからないものだな」
「…は……」
アーロンの皮肉に、ディルムッドは首を傾げるばかりであった。
と、正面から、廊下を護衛と女官を引き連れた一団がやってくる。その中央に居る少女は、アーロンの顔を見ると嬉しそうにニッコリ微笑み、上品にお辞儀をした。
「『お兄様』」
「やあ、『ミリア』。君は元気そうだね」
アーロンも優しく微笑む。ミリアの影武者・サリーである。「本物のミリア」と同じように王女として育てられているが、同時に自身が影武者であることも言い含められている存在だ。
幼少期からそのような態度を徹底されていて、とても難しい立場だろう。しかし彼女は完璧にこなしている。もともとの顔立ちはミリアとはあまり似ていないが、顔の骨格が近かったことが幸いして、女官の驚くべき化粧技術でよく似せられている。髪の色は王妃と同じ金髪のため、地毛のままだ。世の中には様々な技術を持っている者がいるのだと、アーロンも感心している。
「ええ、わたくしは大丈夫。でも、あちらのミリアのお見舞いに行きたかったのだけど、感染るとよくないからと止められてしまって」
「そうだね、王女が2人とも寝込んでしまうと、王城の中がしんと暗くなってしまうよ。僕がさっき様子をみてきたけど、元気そうだったよ」
「そう、よかったわ」
ホッとしたように微笑むサリー。明るく覇気のある雰囲気の彼女。性格だけをみると、サリーの方がアーロンに似ているように思える。そして、ミリアとサリーは、本当の姉妹のように仲が良い。自分とキールもそうだった。過去には、影武者同士や本物との確執で、様々なドロドロとした事件もあったそうだが…。
「それでは、失礼します」
そう頭を下げるサリーを、アーロンは笑顔で見送る。ミリアほどではなくとも、この影武者のこともアーロンはとても可愛がっている。自分の心の柱を持って自らの使命を全うしようと励む、そんな覚悟を持った人間が、彼は大好きなのだ。
↓次の話↓
#小説
#オリジナル小説
#ファンタジー小説
#いつか見た夢
#いつか夢見た物語
#連載小説
#長編小説
#長編連載小説
#オボステルラ
#イラスト
