連載小説「オボステルラ」 【第四章 狼煙の先に】 13話「子ども達の姿」(2)
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13話 「子ども達の姿」(2)
ゴナンは、なんとか言葉を搾り出す。
「…それは、俺の方で…」
「?」
「…俺、自分のことをエドに全然話してなくて、それなのに分かってもらえないのが頭にきてて、それは、ダメだよね。ちゃんと話さないと」
「……」
エドワードは、畑から家へと向かう道の途中に放置してある荷車を見つけ、そこに腰掛けるように促した。二人並んで座ると、目の前には収穫を待つキィの畑が広がっている。風がふわりと走り、穂が日の光を受けながらうねるように波を起こしていた。風の音と穂のざわめきだけが聞こえる、静かな午前だ。ゴナンは話し始めた。
「…俺、故郷では6人きょうだいの5番目で、名前だって適当につけられてるし、そもそもその村も、発光石の照明も何もないような、本当に辺境の村で、食べ物もろくになくて、俺がいない方が食い扶持が減って他の家族が楽になるってくらい、本当にいてもいなくても、かわらない感じだったし…」
「……」
「…父さん、5歳の頃に死んじゃってて、俺、父さんの顔、覚えてないし、名前も思い出せなかったんだよ。だから、食べ物がいっぱいある街で、家族に可愛がられて、妹がいて、ひいおじいさんの名前をもらってるエドが…」
「……?」
「……その、うらやましくて…」
「……え?」
「…俺なんか、何もないし、何もできないし、それで今は、あの、すごい旅の仲間たちと一緒にいられるってことだけが、俺の自慢っていうか、俺の価値で。なのに、それで、悪く言われたから、なんか、頭に来ちゃって…」
「…」
エドワードは驚いた表情でゴナンを見ていた。田舎街のごくごく平凡な農家の家族の中で暮らす、ありきたりな名前のごく普通の自分を、この神秘的な少年が羨んでいるとは、想像もしていなかったのだ。

「……ごめんな、俺はお前の気持ちも考えずに、しゃべってた」
「…いや、俺も、話すのが下手で、うまく伝えられてなくて、ごめん。俺、エドが生まれて初めての友達だから…。ケンカも初めてだったし、どうやって仲直りすればいいか分からなくて…。もう、ダメなのかと思って。エドの近くにいる資格も、ないかなって」
「……!」
エドワードはゴナンのその言葉にハッとして、思わずゴナンの腕を掴む。
「…お、俺たち、友達だよな…!」
「…俺はそのつもりだったけど、…違った?」
「違わねえよ! それで、お互いごめんなさいを言ったから、もう仲直りだ! 友達はケンカするものなんだよ! なんてことねえよ、な!」
エドワードは嬉しそうにゴナンの両手を握り、ブンブンと振りまわす。その勢いに、少し痛そうにするゴナン。
「それに、お前自身に価値がないなんてことは、ないと思うぜ。この前だって、お前は剣で普通のミリアちゃんとあのキレイなお姉さんを守ってたじゃねえか。厳しい村で生きのびてきて、旅して、お前はすごいよ!」
「……」
いつものように自分を卑下し否定しようとしたゴナンだったが、エドワードにそう言われたことが誇らしく、少し嬉しそうにして目線を下げた。表情がわかりにくいゴナンの、その僅かな変化にエドワードも気付く。
「…な、お前はすごいヤツなんだよ。お前の生まれて初めての友達である俺が保障する!」
「エドほどじゃないよ…。俺、エドみたいになんでもしゃべったり、皆とすぐ仲良くなったりできないし」
「いや、別にそれは大したことじゃねえよ。俺、そういう性格ってだけだから」
「…そ、それに俺、まだ、エドに言ってないことや、嘘ついてることもある…」
「?」
ゴナンは再び意を決したような表情で、エドを見る。
「…その、最初、会ったとき、エドがすごくしゃべってくるから、おしゃべり男のことを思い出して、ちょっとやだなって思っちゃって…。お前はおしゃべり男とは関係ないのに…」
「おしゃべり男? …まあ、最初はちょっと素っ気なかったよな、お前」
おしゃべり男とは、ゴナンが攫われた鉱山で何かと嫌な感じに絡んできた男のことである。
「…それに、ディルがあんなに強いのに鎖で繋がれたのは、俺が騙されて攫われた先で、熱を出して使い物にならなくなったせいなんだけど、それも、自分が情けなくて、かっこ悪くて、言えなくて…」
「…騙され攫われって、何があったんだよ…。そこをちょっと詳しく聞きたいけど」
「あと、ディルが鎖を引きちぎったっていうのは、ちょっと大げさで。本当は、岩から鎖を引き抜いたんだけど…」
「いや、それでも十分すげえよ」
「あと、ディルが持つと、どんな鈍も伝説の聖剣になるってのも、ちょっと大げさで…。どんな鈍でも名剣になるんだ…」
「いや、だからそれも十分すげえって。でもまあ、そうだよな。いくらあの体の大きさでも、ゴナンを背負ったまま1人で兵士10人やっつけるってのは、流石に盛りすぎだよな」
「あ、それは本当だけど」
「…まじかよ…」
やっぱすげえな!とエドワードはまた興奮して立ち上がり、腕をブンブン振り回す。しかしゴナンはまだ、何か言いたそうだ。
「…まだ何かあるのか?」
「…あ、あと…」
ゴナンは、少し恥ずかしそうにうつむく。
「…その、キレイなお姉さん、エレーネ、さん、とは…。実は俺も、まだ緊張して、うまく話せない」
「…! そうだよな! なんか、すごいキレイで、近くに立つだけで緊張するよな。良い匂いするし!」
「…うん…。緊張する…」
エドワードはゴナンのその言葉を聞くと、わははは、と大きく笑った。
「何だよ、どれだけひどい嘘をつかれてたのかと思ったけど、どれもこれも、大したことじゃねえよ。お前、やっぱり面白い奴だな…!」
「…そう?」
「なあ、旅のこととか、もっと聞かせてくれよ。俺の部屋に行こうぜ!」
「農作業はいいのかよ?」
「今日はサボる! せっかくゴナンが来てくれたんだから、父ちゃんも母ちゃんも許してくれるよ」
そう言って立ち上がり、またゴナンの腕を引いて自宅の方へと急いだ。その手の力強さが、ゴナンは少し嬉しかった。
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