連載小説「オボステルラ」 【第四章 狼煙の先に】 13話「子ども達の姿」(1)
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13話 「子ども達の姿」(1)
翌日の午前中。
朝食後、他の者たちが巨大鳥探しに出るのを見送り、ジョージに道を教えてもらって、エドワードの家へと向かったゴナン。クラウスマン邸から約30分、広大なキィ畑の間を延々と歩いて、ようやく辿り着いた。いつもこの距離を通って遊びに来てくれていたのだと、ゴナンは実感する。
「…こんにちは…」
家のドアをノックし、おずおずと声をかけるゴナン。すぐに扉が開き、赤ちゃんを抱っこした女性が現れた。エドワードの母のようだ。くりっとした茶色の瞳と明るそうな表情は、エドワードにそっくりだ。
「はい? あら、あなた、ごめんなさい、どちらの子だったかしら…」
「…いえ、あの、俺、ゴナンといいます。この街の人間じゃなくて…」
「ゴナンくん?」
その名を聞き、エドワードの母の表情がぱっと笑顔になる。
「まあ! あなたがゴナンくん? エドがいつもあなたのことを話していたのよ! 街の外から来た人と友達になったって。ずっと会いたいと思っていたの。ほんと、エドが言うとおりハンサムさんねえ。でも、ケンカしちゃったってこの前言ってて、あの子、落ち込んでいたのよ」
しゃべり出すと止まらない母。この辺り、エドワードは母似のようだ。ゴナンは少し頭を下げる。
「…あの、俺、エドと話しに…、っていうか、謝りに、来ました」
「まあ、謝るだなんて、どうせうちの子が何か失礼なこと言ったんでしょ? あの子も『怒らせちゃった』って言ってたから。でも、きっとあなたが来てくれて喜ぶわ。エドは今、畑にキィの収穫の手伝いに出てるんだけど。呼んでくるわね」
「…あ、場所、教えてもらえれば、俺、行きます…」
ゴナンは母に、エドワードが作業をしているエリアを聞いた。家からまた10分程歩く。エドワードの家が持つ畑は、とてつもなく広い。半分は収穫され土が見えている。もう半分は穂の黄金の海。ゴナンは畑の間に整備されている水路や道などを興味深げに見ながら、歩みを進めた。
やがて、収穫作業をしている数名の人が見えてくる。その内の1人はゴナンの姿を見るや、作業中の穂をなげうって駆けてきた。「こら、エド!」としかる男性の声が響くが、お構いなしだ。
「ゴ、ゴナン…!」
「……」
エドワードは息を切らしてゴナンの前に立ち、そして名を呼び、口ごもる。ゴナンもうまく言葉を出せない。

と、エドワードの背後から男性が現れる。
「ゴナンくん? エドが怒らせちゃったと落ち込んでいた、あのゴナンくんか?」
「父ちゃん!」
エドワードの父のようだ。日にこんがり焼けた、40代くらいの男性。やはり明るい表情で、エドワードの頭をぐいっと下げる。赤茶のくせ毛は、父譲りのようだ。
「コイツがいらねえこと言ったんだろう? 悪かったな。一人っ子で甘やかしちまってな。でもまあ、妹が産まれたから、ちっとはしっかりして欲しいところだが」
「父ちゃん! 余計なこと言うなよ! 俺、家で話してくるから」
父をうっとうしがるエドワード。ゴナンの腕を引いて小走りでその場を離れた。そのまま、今ゴナンが来た道を一緒に歩いて戻っていく。
「……」
「……」
エドワードと話しに来たのだが、ゴナンは上手く切り出せない。エドワードも同じようだ。しかし、意を決したゴナンは立ち止まり、「エド」と声をかける。
「…?」
「…あの、…エド、お前の、お母さん…」
「? 母ちゃん?」
「……」
少し口ごもるゴナン。
「…お前の母ちゃん、なんか、目が、クルクルしてて、よくしゃべって…、いや、しゃべりやがって…」
「?」
「…お前の妹も、お前と同じ茶色のくるくるの毛で、ちっさくてかわ…、いや、なんか、その、猿みたいで…」
「…?」
「…お前の父ちゃんも、よくしゃべ…りやがって…、ちょっと、お腹出てて…、その…」
「……?」
ゴナンが何の話を始めたのか分からず、少し首を傾げるエドワード。しかし、すぐに気付いた。
「…もしかして、俺の家族の悪口を言おうとしてる?」
「……」
図星のようだ。
「…身近な人のことを悪く言われるのが嫌だろうって、それを俺に分からせようとしてる?」
「……」
少し困ったようにエドワードを見るゴナン。エドワードは思わず、グフッと吹き出す。
「…全然、わかんねーよ…」
「……!」
「…だって、お前、悪口、下手すぎ。全然悪く言ってない…! 父ちゃんの腹が出てるってとこくらいだよ…。でも、それも、父ちゃんが大酒飲みだから仕方ないし。…ふふっ、はははっ」
そう言ってこらえられず、大笑いしてしまうエドワード。計画がうまくいかず、ゴナンは少し恥ずかしそうにうつむいてしまう。しかしすぐに、エドワードは笑うのを止めた。
「…ゴナン。ごめんな。お前の大事な人達のことを、悪く言っちまって…。俺はあの人達が嫌いなわけじゃなくて、なんていうか、ゴナンともっと、腹を割って話す感じに、なりたかったっていうか…。そのダシにしちゃったっていうか…」
「……」
「…もっと、お前と、仲良くなりたかったんだよ」
「…俺の方こそ、ごめん。手、出しちゃって。その前に、ちゃんと話せば良かったのに…」
ゴナンも、エドワードのくりっとした瞳を見ながら謝る。エドワードは、淡い琥珀の瞳をじっと見返した。
「…多分、ゴナンは俺のこと、子どもっぽい奴だって幻滅しただろうなって思って。もう、俺のことなんて相手にしないかなって、諦めてた」
「えっ?」
そのエドワードの言葉に、ゴナンは驚く。
「何だよそれ。そんなこと、ないけど…」
「だって、お前、あんな大人の人達と一緒に旅して、よくわかんないけど何か動き回ってさ。この前だって、街に来た野蛮な奴に剣で立ち向かってた。友達になったつもりでいたけど、俺とは全然違う世界の人間なんだなって思って…」
「……」
ゴナンは、そのエドワードの言葉に、少し寂しそうな表情をする。また口ごもろうとしたが、自分自身の振る舞いに首を横に振った。これで黙ってしまっては、また、今までと一緒だ。
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