連載小説「オボステルラ」 【第四章 狼煙の先に】 11話「やはり」(1)
11話「やはり」(1)
夜、ゲオルクとの飲み会に参加してきたディルムッドとナイフ。
「やっぱりあの人は、例の連中とは関係なさそうよ」
翌朝の朝食の場で、ナイフがそう報告してきた。ディルムッドも横で頷く。
「そうか…。ナイフちゃんもそう言うのなら、間違いないかな?」
「ディルも言ってたけどね、もしゲオルクが本気でミリアをどうこうしたり、卵を奪おうって言うのなら、もっと隙のない手段でやっていると思う。相当な人物よ。今は軍を休んでて、人が好きで見て回ってるっていうのも、ある意味、この国を探られているようにも見えて、どうにも油断ならない気もするけど…」
「…」
リカルドは少し冷や汗をかく。しかしそうなると、襲ってきた帝国人風の男達の素性が益々わからない。軍属であることは間違いないはずだが。
「でも、なんだか楽しかったみたいだね」
昨晩、上機嫌で帰ってきた様子の二人を思い出し、ゴナンは2人に尋ねた。ふっと微笑むディルムッド。
「そうだな。お互い、話せることと話せないことはあるが、やはり戦乱中の話などをしていると、なかなか盛り上がったな。互いの上官のグチを言ったりな」
「私なんか、どっちの軍の雰囲気も知ってるからね」
「へえ…」
決して戦争に憧れているわけではないが、ゴナンが到底知り得ない世界を経験している2人のそんな素振りが、ゴナンには少し目映く、いつもの何倍も大人に見えた。
「…さて、今日はどうしようか。今は曇りだけど、雨は降ると思いますか? ジョージ先生」
「そうだな。小雨程度だがすぐに降り始めそうだな。ただ、雨は今日までだろう」
その予報に、リカルドは今日動くべきかを少し考える。ナイフは昨日のルチカの言葉を思い出していた。
「…雨宿りする巨大鳥を探すなら、小雨なら絶好の日のように思うけど」
「そうだね…。うーん」
そう言って腕を組むリカルド。
「…ただ、僕らはその雨宿りの場所を予測できているわけではないから、彼が言うほど簡単な話ではない気がするな…。ここは無理をせず、今まで通り、雨が上がった後で空を飛んでいるのを追った方が良い気がするね」
「じゃあ、今日も街に滞在して…。あ、そうだわ!忘れてた!」
と、ナイフが何かを思い出した。
「『卵男』! 昨日飲んだお店の店員さんからね、卵男っぽい男の子が、この街に現れたらしいって話を聞いたの」
「えっ!」
夫妻以外の一同は、驚き声を上げる。
「…まあ、ツマルタでのことを考えると、巨大鳥が飛び回る近辺の街に卵男が現れるってのは、あり得ることではあるけど…。ルチカも毒矢を受けたと言っていたしね。毒矢にやられている街の民はいないのかな? ディル」
「いや、そのようなことは起こってはいないらしい。卵男を見たというのも、そう多くはないようだ」
「なんだ? 卵男って?」
妙な呼称に、ジョージが興味を持つ。
「ええと、巨大鳥の卵のようなものを背負った少年がいるんですよ。卵を狙っている人を引き寄せて、体を動けなくする毒矢で狙うっていう、厄介なやつで」
「なんだ、そりゃ…。卵を狙ってほしいのか狙ってほしくないのか、よく分からねえな…」
「はい…、目的が不明で…」
「まあ、この田舎街でそんな妙な余所者が来たら目立つし、すぐに噂にはなるだろうな」
ディルムッドは腕を組んで思案し、リカルドに提案した。
「…今日は街中を回って、卵男を追うか? 街の人々を毒矢から守る必要があるようにも思う」
「そうだね。見かけても追いかけないように皆に周知しておくと、間違いが無いね」
「わかったわ! 今日は街中を探索ね」
ミリアはそう、張り切って背筋を伸ばしたが、ディルムッドは首を横に振った。
「いえ、ミリア様は大人しく、この屋敷で『あなユラ』を読んでいただきたい」
その言に、ミリアは不満そうにじっとディルムッドを見る。
「…あ、いえ、ミリア様を足手まとい扱いしているのではなく、毒矢の危険があるため、近づいていただきたくないのです。それに、常に卵男を追っていたルチカが現れる恐れもあります。彼奴はあなたを攫いたがっているのですから」
「ルチカは、一度、わたくしがお話をすればそれで済むように思うのだけれど…」
「そうかもしれませんが、そうではないかもしれません。万が一があってはならない。ミリア様には御身を大事になさっていただきたい。あなたはこの国にとって大事な方なのです。…それに、念のため、ゲオルクには姿を見せてほしくないのです…」
「……」
そう説き伏せられて、流石にミリアは引き下がる。少し、というかかなり不満そうな瞳ではあるが。
* * *
と、ジョージはマリアーナと目を合わせて、困ったような表情を浮かべた。
「…ところで氷っ子…。もう、いい加減、あれだから言わせていただくが…」
「…?」
「…お前さん達、私達にミリアさんの素性を隠す気、あるのか…?」
「…!」
そのジョージの言葉にハッとする一同。
「…あ…、先生…。お気づきで…」
「最初は内緒にしようとしていた様子だから知らんぷりをしていたが、もう、いくらなんでもお気づきになるだろう。毒殺を当たり前のように恐れる貴族の令嬢ってのも妙だったが、ディルさんがディルムッド・ショーンだと分かった時点でほぼ決定的だったし、ミリアさんの礼儀作法はア王国貴族の模範的な所作で異国人だというのに違和感もあったし、それ以外にも、まあいろいろと、ご丁寧に私たちの前でと話してくれて、いろいろと脇が甘すぎるぜ」
「…」
目を見合わせる一同。なんとなく夫妻も仲間のような気になってしまっており、ディルムッドやナイフですら気を抜いてしまっていた。
「…まあ、まさか、御名そのままで、その身を忍ばれているとは思わなかったがな」
そう言って、やや呆れたようにミリアを見るジョージ。
「あの、先生…、実は事情がいろいろあって…」
「ああ、待て待て!」
何かを説明しようとするリカルドを、ジョージは手で制した。
「私は詳しい話は聞かない。聞いてしまうと責任を取らないといけなくなるか、もしくはどこかに報告をしないといけなくなる。それはお前さん達にとっては、望まない状況だろう…」

「……」
「特に『ミリアさん』への対応や言葉遣いを変えたりもしない。とはいえ、まあ、すでに、身も震える思いではいるが。ただ、気付いたということだけは伝えておく。お前さん達もいちいち、私達に気を使いながら話すのも大変だろうからな」
「…はあ、すみません…」
申し訳なさそうなリカルドに、ふっと吐き出すように笑うジョージ。
「…そういうわけで、ミリアさんが今日は屋敷にいるというのは、私も賛成だ。お前さんが我が身を省みない行動を取ってしまうと、多くの人に影響を与えてしまうんだ。ミリアさんが望まずともな。『拾い食い事件』で懲りただろう?」
「…ええ、わかったわ、先生…」
ミリアはそう、素直に頷き、しかしすっと背筋を伸ばす。
「でも、先生、一つだけよろしい?」
「ああ、どうぞ?」
「素性が知れてしまったからにはお伝えしておきたいのだけれども、わたくしは、実は王女の影武者である普通のミリアなの。そのように振る舞っていただきたいわ」
「ん?」
一度で意味が理解できないジョージ。マリアーナも目をぱちくりとさせるが、目を合わせて、そしてうーん、と一瞬考えた。
「…ああ、そうか、分かったよ」
そう口では言いつつも、このことについては深く考えることを諦めたようだった。
↓次の話↓
#小説
#オリジナル小説
#ファンタジー小説
#いつか見た夢
#いつか夢見た物語
#連載小説
#長編小説
#長編連載小説
#オボステルラ
#イラスト
#私の作品紹介
#眠れない夜に
