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連載小説「オボステルラ」 【第四章 狼煙の先に】  14話「そこはかとない、高揚感の中で」(7)


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14話 「そこはかとない、高揚感の中で」(7)


 ゲオルクは一行に尋ねた。

「ミリア…。…普通のミリア、と呼ばれていたか? 何だ? 『普通の』とは?」

「あ、ああ…、そっちか…」

 ホッとするリカルド。

「?」

「いや、ほら、彼女も貴族ではあるけど、街の女の子達と同じように遊びたいから、『普通のミリア』だと謙遜して名乗っていたんだよ。それが、女の子達の間で流行っちゃって」

 リカルドが薄い微笑みを浮かべてまた、取り繕う。すんなり納得するゲオルク。

「…まあ、あの年頃の子達の間では妙なことが流行るからな…。ん?どうした? ディルムッド殿」

「…あ、いや…」

 ディルムッドは、人混みの中に消えていったミリアの方が気になっている。が、今はエレーネの護衛のていなので、そちらに従うわけにはいかない。エレーネがそのことに気づき、尊大な態度を崩さないまま、すこし大仰に嘆きを見せ、ディルムッドに声をかける。

「ああ、あの子ったら、何歳になってもお転婆だから困ったものだわ。また突飛もない行動をしないかしら。心配だわ。ディルムッド、ちょっと様子を見にいってくださらない?」

「…! は、かしこまりました。ナイフ、エレーネ様をおまかせして良いだろうか?」

「ええ、もちろんよ」

 ディルムッドはゲオルクに「では」と会釈をして、そそくさとミリア達が去った方へと急ぐ。苦笑いする一行。エレーネのミリアに対する嘆きには、やや本音も含まれている気がする。

「…では、私達も行きましょうか? ナイフ、リカルド。私も祭りを楽しみたいわ」

「ええ、そうね」

「ああ、行こう。じゃあ、ゲオルクさんも楽しんで」

 そうゲオルクに挨拶をして、屋台街の方へと足を進める3人。ゲオルクも軽く手を上げて「では」と応じた。

「…ひとまず、大丈夫だったかな…?」

「…そうね…。まあ、そもそも、王女様がこんな場所にいるっていう発想が生まれないでしょうから、過剰な心配ではあると思うけどね」

「まあ、念には念を、だよ」

「にしてもエレーネ、あなた、本当に演技が堂に入っていたわ。流石ね」

「ふふっ、ありがとう。舞台の役者気分で、楽しいわ」

 ひそひそと話しつつ、作戦が無事に進んだらしいことに安堵した3人。秘密のミッションをやり遂げたかのような高揚感に包まれながら、自らも祭の雰囲気を楽しみ始めた。

*  *  *

 祭の人混みの中に消えゆく3人の後ろ姿を目で追いながら、ゲオルクはしばし、考えていた。

(…先ほどの女官とやら…。あの顔、名前…。あれは、ミリア王女その人ではないか? こんな場所にいるということは影武者か? しかし、兄王子と顔がそっくりだ…。髪色も瞳の色も…。何より、あの存在感というか、オーラ、只者ではない感じがする。おそらく、間違いない)


 ゲオルクは肉の串にがぶり、とかぶりつく。以前、リカルドが教えてくれたクックー肉の焼き鳥串だ。旨味が強く、美味しい。

(…もしそうだとして、彼らは王女の正体を知って共にいるのか? いや、流石にディルムッド殿が知らないはずはない。むしろ、彼が付いていることがその証か。あのエレーネと名乗った貴婦人…。あの尊大な態度…、王女を従えていると言うことは、どこかの盟主であろうか…。しかし、王国や帝国より大きな国は、この近辺にはない。あの所作は、どこの国のものだったか…)

 さらにモグモグと、串の肉を進める。あっという間に食べ尽くしてしまった。

(…あの我が国の愚か者共は、少女を追っていたと言っていた。もし、あの子を王女と知って追っているのならば、両国を動かしかねない大問題だが、そんな様子は感じられなかった。ただ、奴等は巨大鳥や卵の話を私に一言もしなかったし…)

 串を捨てるためにゴミ箱の在処を見回し、歩みを進めるゲオルク。つい、いつもの習慣で物事を深読みしようとしてしまうが、あれこれと考え出すとキリがない。

「…まあ、いいか。私は今はただの旅人だ。下手な詮索はよそう。そもそも、統治者が市井に偵察に出るなど、何も珍しいことではないし。……しかし、城に引きこもりっぱなしだと思われていたこの国の王族も、実は意外に活動的であったのだな」

 そう呟くと、この件は一旦、頭から振り払い、自身も祭を楽しむべく周囲を見回した。

 実はエルラン帝国では、皇帝や皇子皇女は市井の学校に通い一般市民と同様の学校生活を送り、幼少期から頻繁に「お忍び」のお出かけをする上に、そのことは国民に広く周知されている。

 それゆえ、ナイフ達の予想に反して、ゲオルクは王女がこの田舎街にいるという状況に何の違和感も抱かなかったのだ。ア王国人は予想もしない常識で、大きな誤算であった。

 かくして、リカルド達の悪知恵とミリアのメガネの”変装”とエレーネ渾身の演技は、いずれも全く意味を成さない結果となっていたのだが、彼らはそのことは知らない。

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