連載小説「オボステルラ」 【第四章 狼煙の先に】 14話「そこはかとない、高揚感の中で」(6)
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14話 「そこはかとない、高揚感の中で」(5)
突如、姿を現したゲオルクに、リカルドは慌てて取り繕った。
「あ、ああ。あなたが祭りを楽しみにしていると聞いていたから、いないのかなあと思っていたんだ」
「ご心配ありがとう。昨晩、1人酒が過ぎてしまってね。先ほどようやく起きたところだ。何のためにこの街に来たのか、分からなくなってしまうところだったよ」
そう笑って、華やか3人組を見物する人だかりに気づくゲオルク。そのままディルムッドへと声を掛けに近寄った。
「やあ、ディルムッド殿。この方があなたの雇い主かい?」
そう、エレーネを指しながら話しかけてきたゲオルクに、ディルムッドは頷いた。
「…ああ、異国からお忍びで来られている。貴殿と同じように、異国の庶民文化に興味があられるご婦人だ」
ディルムッドはエレーネに目線を遣り、「以前お話しした、エルラン帝国の元大佐のゲオルク・シュナイダー殿です」と紹介をする。この辺りのやり取りも抜かりなく打ち合わせしているようだ。エレーネはお辞儀をした。
「初めまして、エレーネと申します。今日は楽しい1日ですね」
普段の雰囲気とは打って変わって、雅びな笑顔を浮かべ、少し高飛車な雰囲気の口調だ。あまりにも堂に入っており、ゲオルクの背後から見守るリカルドとナイフも「意外に演技派…」と感心する。
「…ああ、少し遠くの国から来られたのですね?」
ゲオルクはエレーネのお辞儀の所作を見て、そう話しかけた。確かに、ア王国の礼法とは違う動きだった。本当に抜かりがない。こう見えて、エレーネはこの『変装』にかなり乗り気なようだ。
「ええ、お互い、物好きなことですね。私の母国を探るような無粋な真似はされないでね。内緒でここにいますので」
「ああ、もちろんです。良き出会いに感謝を」
ゲオルクはそう頭を下げる。反応を見るに、ひとまず作戦の第一段階は成功だと、リカルドとナイフはホっと胸をなで下ろした。あとは、ミリアが目立たなければ…。

「あっ、普通のミリアちゃん、来てたの?」
と、エレーネの脇で頭を下げ大人しくしていたミリアに、街の女子達が声をかけて来た。つい応えてしまうミリア。
「ええ、皆さんもおそろいなのね。わたくしも、お腹が空いてしまって」
「ねえ、一緒に回りましょうよ。…あら、今日は眼鏡なのね?」
きゃっきゃとはしゃぐ少女達を、ヒヤヒヤと見守るリカルド。エレーネは態度を崩さず、ミリアに声をかけた。
「ミリア。今日はもう、私のお世話はよいから、お友達と遊んでらっしゃいな。せっかくのお祭だもの。でも、羽目を外しすぎないようにね」
その言葉に、演技も忘れ嬉しそうに微笑むミリア。
「ええ! 行ってくるわ…、…行ってきますわ、エレーネ様」
そうしてゲオルクに「失礼いたします」とお辞儀をして、あっという間に街の少女達と消えていくミリア。ディルムッドがゲオルクに補足する。
「…エレーネ様に付いてこられている女官殿だ。行儀見習いも兼ねて同行されている」
「ああ、なるほど…。だが、完璧なア王国の礼であったな…」
「…! あ、ああ…。随分と、この国の礼を練習されていたようだから…」
「…しかし…、ミリア…?」
「…!!」
首を傾げるゲオルクの背後で慌てるリカルドとナイフ。やはり、王太子の実物を見たことがあるゲオルクには、すぐにバレてしまっただろうか。せめて偽名のサリーを名乗れれば良かったが、先に街の少女達が名前を呼んでしまっていた。ディルムッドも平静を装いながら内心、焦っている。
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