連載小説「オボステルラ」 【第四章 狼煙の先に】 14話「そこはかとない、高揚感の中で」(5)
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14話 「そこはかとない、高揚感の中で」(5)
「わあ…」
ゴナンは、その賑やかさに思わず感嘆の声を上げた。
マーケットの近くの広場が花や色紙などで華やかに装飾され、収穫祭の会場となっている。たくさんの屋台が並び、あちこちから良い匂いがする。会場の中央の方には大きな櫓が組まれ、その麓では楽団が音楽をかき鳴らしていた。
「…すごい、楽器、たくさん…」
北の村での『音楽』といえば、誰かが歌うのに合わせて手拍子や太鼓を叩く程度だったので、メロディを奏でる楽器がどれもこれも珍しくてたまらないゴナン。そんな様子を、エドワードは不思議そうに見ている。
「…本当に、何もない村から来たんだな、ゴナン…」
「…うん…」
「…何でも聞いてくれよ! 教えるから。わかんなかったら、誰かに聞きに行くからさ!」
少し表情を暗くしそうだったゴナンに、エドワードは明るくそう、声を掛けた。自分の感じる「当たり前」が決して当たり前じゃないということ、自分とゴナンとは『違う』のだということを、そしてその『違う』ことに上下や善し悪しはないのだということを、今はエドワードはよく分かっている。
「うん、でも、先に何か食べたいな。俺、今日の屋台が楽しみで、朝も昼も食べてないから」
「俺もだよ! 行こうぜ!」
エドワードが楽しそうにゴナンの腕を引いて、他の少年達と共に屋台の方へと急いだ。
祭の高揚感もあってか、ゴナンにしては珍しく、リカルドからもらったお小遣いをたくさん使った(それでも、過保護にも使い切れないほどの金額を渡されているのだが)。肉の串や果物やパンや甘味、何かの甘い飲み物、野菜を揚げたお菓子…。これまでゴナンが食べたことのないものも多く、つい、目に留まるものにあれこれ手を出してしまう。これではまるで、リカルドだ。
「はあ、お腹いっぱいだ…」
一通り屋台を巡った後、芝生広場にゴロンとなるゴナン。エドワードも横になる。
「ああ、今日だけ、胃袋が3つくらいに増えねえかなあ…。まだ食べたいヤツ、あるのに…!」
「俺も…。夜になったら、またお腹空くかな」
「そうだな、ひとまず、ちょっと昼寝でもしようぜ! 寝たら腹空くよ、きっと」

少年達は皆、満腹になって眠気を催している。そのまま青空に顔を向け、少しおしゃべりなどもしながら、皆、うとうとと昼寝のまどろみに落ちていった。
* * *
「ふふっ。みんな図体は大きくても、まだまだかわいいわね」
午後も半ば、ゴナン達に遅れて祭の会場にやって来たナイフ。そろって満腹になり昼寝する少年達の様子を微笑ましく見守って、隣のリカルドに声をかけた。
「…うん。そうだね。とっても楽しそうだ」
「……」
誰もがワクワクとしているこの場で、リカルドだけが少し表情が沈んでいる。ナイフは首を傾げる。
「そんなに私と一緒がつまらないなら、ゴナンを引っ張ってきましょうか? 一緒に回りたいんじゃないの?」
「えっ、そんなことないよ。ナイフちゃんでも大丈夫だよ。ゴナンは、あの子達と一緒に居た方がいいと思うから…」
「……」
ナイフちゃんでも大丈夫、と随分失礼な返答だが、また沈み込むリカルドの表情に、ふう、とナイフは息をつく。
「だったら、その辛気くさい顔はやめてくれない? 本当は私は、あの楽団の仲間に入って踊り狂いたいくらい、祭にワクワクしているのだけど」
「そうだね。ナイフちゃんは根っからのお祭女だもんね。夕方になるとみんな踊り始めるから、交ざると良いよ」
そう微笑むと、リカルドは遠くの方に目をやって、少し困ったような表情になった。
「…しかし、ちょっとあれは失敗だったかなあ…」
「そうね…」
ナイフも目線を遣ったその先には、ミリアとエレーネ、ディルムッドがいる。高飛車な貴族の雰囲気を全身から出しているエレーネに、一応、付き従うようにミリアとディルムッドが控えているが…。
「あの3人がとても目立つのだということを、すっかり失念していたよ」
「ええ。貴族オーラを増幅させる方向に工夫してしまっていたから、とにかく目立っているわね…」
「木を見て森を見ずとは、まさにこのことだなあ」
そもそもはミリアからにじみ出る王族オーラをなるべく隠して目立たないようにしようと努めていたのに、ゲオルク対策に注視しすぎた結果、すっかり逆効果になっていた。
きらびやかなオーラを放つ3人は、田舎街の祭の現場ではあまりにも異彩を放っていた。皆、チラチラと3人を見ている。いや、「高貴な人が現れた」と3人を見物するための人だかりすらできている。伊達メガネをきちんと掛けているミリアは、リカルドからもらったお小遣いを手に、早く屋台の食べ物を買いに行きたそうにしているが、なかなか進めずにいるようだ。リカルドはぼやき気味に呟いた。
「…そもそも、ゲオルクさんが現れてくれないと、ただ3人を目立たせるだけだったということになってしまう」
「ん? 私を呼んだか?」
と、突如、背後から声がした。慌てて振り返るリカルド。そこには、肉の串を手にしたゲオルクの姿があった。
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