連載小説「オボステルラ」 【第四章 狼煙の先に】 14話「そこはかとない、高揚感の中で」(4)
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14話 「そこはかとない、高揚感の中で」(4)
さて、いよいよ祭当日。祭の会場に出店が出始めるのは午後からだ。正午過ぎに、クラウスマン邸の玄関で元気な声が響いた。
「お邪魔します! ゴナン、来たぜ!」
そう言って、エドワードが歳の近い少年数人と共に訪れてきた。ゴナンはちょうど、着替えを終わらせたところだ。
「お、ゴナン! カッコいいじゃねえか。おぼっちゃまみたいだぜ。俺よりもよく似合ってるよ! サイズもピッタリだったな!」
「うん…」
ゴナンの「おめかし」は、エドワードが2年前に着たものを借りたという。「同い年なのに…」とゴナンは少し複雑な気持ちになったが、普段と違う装いに少し落ち着かない様子だ。
「少し動きにくいな…。それに、バンダナがないと、なんか落ち着かない…」
「でも、その服装にバンダナは合わねえよ。すぐに慣れるさ!」
心地悪そうにして少し目を細めるゴナンの腕をエドワードが取った。
「もう、出発できるか? 行こうぜ」
「あ…、うん…」
ゴナンはリカルドの方をチラリと見た。ニッコリと頷くリカルド。
「行っておいでよ。お小遣いはちゃんと持ったね」
「うん」
「僕も後から行くから、どこかのタイミングで合流しよう。楽しんでおいで」
「うん…」
少し申し訳なさそうな表情を残して、ゴナンはエドワードの方へと駆けていく。寂しそうに見送るリカルドを、ナイフはまた苛立たしく睨んだ。
「…と、こちらも準備できたわね?」
ナイフは、奥からやってくるミリアとエレーネの姿を見て、そしてほう、と惚れ惚れとした。
「まあ! やっぱり流石の王女様にご貴族様ね…」
ミリアは、フリルがたくさん入ったブラウスに、キュッとウエストが絞れてふんわりとしたジャンパースカート。首元と髪飾りにリボンもあしらっている。城で着ていた高価なドレスに比べれば普段着にもならない程の装いであろうが、ミリアのスッとした立ち姿で、「令嬢」感がかなり増している。
そして、エレーネ。
「私のお古で申し訳ないけど、やっぱり着る人が着れば、こんなにも素敵になるのね…。丈はスカートの裾をレイヤーで足して、ウエストは随分と絞ったのよ、ふふっ。コルセットは大丈夫?」
「ええ、ありがとう。コルセットを着けるのは随分久々だから、少しきついけど…」
マリアーナもうっとりとエレーネを見る。襟の立った長袖に、体にピッタリとしたラインのドレス。襟と袖はレース仕上げだ。きれいに結い上げた金髪と白い肌が、アッシュブルーベースのドレスに良く映える。
「すっかり見慣れてしまっていたけど、こうやって改めて見ると、やっぱりエレーネは美しいわね…。ね、リカルド」
「…ん? ああ、そうだね」
ナイフの問いにリカルドはあっさりと答える。脇でジョージが呆れ顔だ。

「ゴナンのおめかしにはあんなに大はしゃぎだったくせに…」
ゴナンがエドワードから借りたおめかし着に着替えるときは、「格好いい」「似合うよ」「貴族の子息みたいだよ」と五月蠅いほどにもてはやしていたリカルド。
「相変わらず、女性の美醜に興味を持たねえ男だな。こんな美女を前にしても、これだとは…」
「はあ…。いや、素敵だと思うよ、エレーネ」
「ありがとう。それで、今日はミリアと一緒に行動して、とても貴族っぽく偉そうにしていれば良いのね?」
エレーネは淡々と、今日の計画を確認する。
「ああ。この小さい街でのお祭だから、ほぼ間違いなくゲオルクに会うと思う。君はディルが警護している異国から来た貴人で、名は明かさないけど、どことなく偉そうな感じで…」
「言葉は? 外国なまりがあったほうが良いかしら?」
「へえ、外国語もいけるの?」
「ええ、母国語はア王国と同じ帝語だけど、北方と西方の言葉は日常会話程度なら…」
「……」
ア王国やエルラン帝国の公用語である帝語を話す国や地域はとても多い。それで、彼女の出身国を特定するのは難しそうだ。
「まあ、うっかり外国語なまりが出ちゃった、程度なら、信憑性が出ていいかもね」
「一応、どの辺りの国から来た貴族なのか、設定を考えておくわね」
普段の冷静さはそのままだが、エレーネも妙に乗り気である。ミリアと打ち合わせながら、あれこれと細かな設定に余念がない。このやる気も、祭の雰囲気がもたらすものだろうか。
(…祭って、なんだか、いいものなんだな…)
リカルドは、皆が少しだけ違う感じになっているのを見て、改めてそう実感していた。
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