連載小説「オボステルラ」 【第四章 狼煙の先に】 14話「そこはかとない、高揚感の中で」(3)
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14話 「そこはかとない、高揚感の中で」(3)
結局、翌日も巨大鳥の姿を捉えることはできなかった。
「いよいよ、違う地域に行ってしまったかなあ…」
夕方、集合場所でリカルドが呟き、腕を組む。次に行く地域を予測し検討しておくべきタイミングだが…。
(…僕は、あの遺跡を追いたい。もしくはエルダーリンドの街を…)
壁画には巨大鳥も描かれているから、鳥と全く無関係ということではないかもしれない。しかし、すでにその姿を捉えている巨大鳥自体を追うことに比べれば明らかに遠回りだし、向かう方向が異なってしまうだろう。
(…ゴナンを先生達に託して、エレーネに今後の巨大鳥の進路の予想を託せば、そこからは僕は1人で動いたって構わないはずだ。ゴナンがいないのなら、元の『1人』に戻れば良いだけなんだから…。でも、僕は1人では『あそこ』には行けない。ナイフちゃんには僕の方についてもらって…。ああ、でも、ゴナンがいないなら、ナイフちゃんに着いてきてもらう意味もなくなってしまう。ナイフちゃんにはお店があるから。そもそも、それでいいんだろうか…)
「リカルド? なんか、顔、コワい」
ゴナンがリカルドを見上げて、そう呟いてきた。ナイフも嘆息気味に続ける。
「リカルド? 何か余計なことを考えている顔ね?」
「……」
「ちゃんと話しなさいってば」
そう言いながらゴナンの肩にポン、と手を遣るナイフに、しかしリカルドは目線を合わせられない。不思議そうにするゴナン。
「…大丈夫だよ」
「な、に、が?」
「……」
そのまま黙りこくるリカルドに、ナイフは苛立たしげな目線を送るのみだった。
「そういえば、今夜から祭の準備を手伝って欲しいと、ジョージ殿に言われていたのだ。もう、戻るか」
ディルムッドが少しそわっとしながら、一同にそう提案する。平静を装っている風であっても、ディルムッドも祭を楽しみにしている様子だ。
「ああ、そうだね。櫓を組んだり出店を組み上げたり、力仕事が多いから、ディルとナイフちゃんは重宝されるはずだよ」
「あなたも名乗り出なさいよ」
「僕は頭脳派だから、ご存じの通り」
そんなこんなで少しソワソワしながら、一行は街に引き上げることにした。
* * *
クラウスマン邸に戻ると、マリアーナが楽しそうに出迎えた。
「明日のお祭用に、ゴナンさんとミリアさんのおめかしのお洋服を借りてきたわ。あと、エレーネさんに着ていただきたいドレスをピックアップしたから、サイズのお直しをしたいの。皆さん、試着してくださらない?」
「お、ディルさん。お疲れの所申し訳ないが、ちょっと休憩したら、マーケットの方に行ってくれないか? 会場設営に力を借りたいそうだ。晩飯はあちらでご馳走するそうだよ。もしよかったらナイフちゃんも行ってもらえると助かるが…」
ジョージも脇から、肉体派の2人に依頼する。快諾するディルムッドとナイフ。その脇でゴナンはミリアに申し出る。
「ミリア。おめかしをするのなら、髪を少し整えようか? 前髪も伸びてきているようだし」
「まあ、嬉しいわ、ゴナン。お願いしてよいかしら」
ミリアに快諾されてゴナンは少し嬉しそうな光を瞳に宿し、頷いて、マリアーナにケープがないか尋ねている。なんとなく、皆がワクワクとしている。まさに「祭の前」といった雰囲気だ。
「氷っ子、お前さんもおめかししてはどうだ?」
ジョージがニヤリとしながら、リカルドに声をかけて来た。
「先生。僕のこの黒い服はシンプルに見えますが、とてもいい織物で仕立てたものなんですよ。材料だって希少なコパの毛だし。正直、この街にはこれより質の良い服は、そうそうないと思いますが…」
「…そういう意味じゃねえんだけどな…」
少し切なげな表情でふっと笑うジョージに、リカルドは首を傾げる。
「…お前さんは、大学の文化祭なんかも全く楽しんでなかったからなあ。一応、義理で回るだけは回っていたようだが。薄っぺらい笑顔を浮かべて、つまらなそうにな」
「……正直、当時は時間の無駄だと思っていたので…」
「面倒くせえことは忘れて、ここでは祭くらい無邪気に楽しんだらどうだ? ほら、お小遣いでもあげようか、坊や?」
「先生…」
苦笑いするリカルド。が、そのジョージの言葉を聞いてハッとし、「そうだ!」と、ミリアの髪を切っているゴナンの元へと駆けて行った。
「…ゴナン! 明日は僕がお小遣いをあげるよ。それで、エドワードくんたちとお腹いっぱい食べ歩きしなよ!」
「え、大丈夫だよ。俺、自分のお金があるから」
「そんなこと言って、どうせほとんど使わないつもりだろう? これはね、保護者の務めなんだよ。他の子もみんな、親御さんからお小遣いをもらうんだ。お小遣いで食べ歩きやゲームを楽しむ、それがお祭なんだよ」
少し極端な祭の説明をするリカルド。その必死な雰囲気に押されて、ゴナンは渋々頷く。

「…うん…、祭がそういうものだっていうんなら…。…ありがとう…」
「ね、たくさん食べるんだよ。美味しい屋台がいっぱい出るよ」
リカルドは満足そうだ。そして、ゴナンの隣で少しうらやましそうにリカルドを見ているミリアに気付く。
「…ああ、ミリアにももちろん、お小遣いをあげるよ。ミリアもまだ未成年、子どもだからね」
「まあ、嬉しいわ! お小遣い。わたくしもたくさん、食べ歩きするわ」
懐にはアステール金貨を何枚も持っているはずのミリアだが、「お小遣いをもらう」ことがとても嬉しいようだ。ワクワクとして体が動き、ゴナンが「ミリア、ハサミが当たっちゃうからじっとして」と慌てる。そんな様子を、少し離れて見ているジョージ。
「…いや、割と楽しそうではあるかな?」
そう呟いて、ふっと微笑む。ちなみにリカルドは、2人にお小遣いとして5000アストという祭のお小遣いにそぐわない大金を渡そうとして「過保護が過ぎる!」とナイフにいたく叱られるのだが、それは翌日の話である。
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