連載小説「オボステルラ」 【第四章 狼煙の先に】 14話「そこはかとない、高揚感の中で」(2)
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14話 「そこはかとない、高揚感の中で」(2)
「よし、これで、多少はごまかせる」
その日の夕方、クラウスマン邸に戻った一行。リカルドはマリアーナに依頼して、あるアイテムを借りていた。
「あらあら、ミリアさん。とってもお似合いよ」
「わたくし、別人のよう? とても勉強家な方に見えるのではないかしら」
ミリアもキャッキャとはしゃいでいる。ミリアと見た目がよく似た兄・アーロン王子の実物を見たことがある、元帝国軍人ゲオルク。彼もこの街の収穫祭が目当てだと言っていた。彼に姿を見られた場合に素性がばれる確率をなるべく下げられるよう、ミリアに伊達メガネをかけさせることにしたのだ。
「祭の日は、子ども達はみんなおめかしするのよ。ミリアさんとゴナンさんのお洋服も、誰かから借りてこようかしら」
「まあ、おめかし! 楽しみだわ」
お城では、国で最も高級なドレスに毎日、身を包んでいたはずだが、「おめかし」という言葉にさらに楽しそうにするミリア。マリアーナがその様子を微笑ましく見ている。
「今年は街の女の子達はみんな、お祭では、貴族のドレスのようにスカートをふんわりさせた装いをしたがっているそうよ」
「へえ、どうしてですか?」
マリアーナの話にリカルドが尋ねる。マリアーナはふふ、と微笑んでミリアを見た。
「『ごきげんよう』と挨拶して、『わたくしは普通の○○よ』と名乗るのが流行っているんですって」
「ああ…」
リカルドは少し驚いてミリアを見る。これも王族オーラの成せる技なのだろうか。彼女自身の装いはドレスではないし、青空教室でただ一緒に学んだだけで特に何をしたというわけでもないのに、なんだか影響力が強すぎる。
「まあ、皆さん、丁寧なごあいさつを覚えてくださって、嬉しいわ。もう立派な淑女ね」
ミリアはミリアで、少しズレているところで感激しているが、やはりどうしても「一般人とは違う」感じがにじみ出てしまうのが心配だ。
「…ディル…。ミリアに祭を楽しんでほしい気持ちはとてもあるんだけど、連れて行って大丈夫かな? 眼鏡だけで、あの鋭そうな御仁をごまかせるものだろうか?」
「ああ…」
問われてディルムッドは腕組みをし、しばし思案する。通常の王族護衛の業務であれば、多くの人がにぎわう中に交ざるなど、難易度がかなり高く、ディルムッドですら胃に穴が空きそうだ。しかし、状況は全く違うし、ミリアに祭を楽しんでほしいという思いは、ディルムッドも強い。
「…まあ、ミリア様の素性が知れ渡っているわけでもないし、ゲオルクの件も『念のため』の措置ではあるから、そこまでの警戒をしなくてもよいだろう。もちろん私は、しっかりと警護を行う」
「……」
祭を楽しむミリアの背後にこの大きな男がずっと小難しい顔で立っているのかと思うと、リカルドは少しおかしかった。思わずふきだすリカルドに、ディルムッドは首を傾げる。
「…そうだね、あと、もう一つ手を打てるとすれば…」
そう言ってリカルドは、エレーネを見た。
「? 何?」
「…エレーネ。君も、おめかしをしない?」
「え?」
「あらあら、いいわね。エレーネさんに映えるドレスがなかったかしら。丈は…、ちょっと直せば、なんとかなるわね」

マリアーナが張り切って自身のクローゼットへと向かう。戸惑うエレーネ。
「え? どうして?」
「いや、小手先のごまかしにはなるんだけど、ディルムッドが警護している貴人はエレーネってことにしてはどうかな?と思って。幸い、まだゲオルクにハッキリと自己紹介していないだろう?」
エレーネがゲオルクと顔を合わせたのは、帝国人風の男達が街を襲ってきた日だけだ。それも遠くから見たのみ。
「で、ミリアはそのお付きの女官。行儀見習いの貴族の令嬢が、高位な家に女官で入ることも、まああるだろう?」
「まあ、それは良いわね! わたくしは眼鏡をかけた普通の行儀見習いのミリアね。任せて」
ミリアがまた変な方向に張り切ろうとしている。リカルドは「まあ、ほどほどにね」と苦笑いしながら、エレーネに微笑みかけた。
「そういうわけで、すごく偉そうな貴族っぽい雰囲気を出してもらいたいんだけど…」
「…善処するわね…」
エレーネもふふ、と微笑みで返した。『毒の薬』の件の謎は残ったままだが、やはり、心の安定した頼れる女性である。
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