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連載小説「オボステルラ」 【第四章 狼煙の先に】  4話「遺跡のリカルド」(5)


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第四章の登場人物



4話 「遺跡のリカルド」(5)



 と、その時…。

「!」

ディルムッドとナイフがハッと顔を外に向けた。

「…? エレーネ。ミリア様を頼む」

「? ええ…」

そのまま2人は外に飛び出す。そして周りの気配を探っている。

「どうしたの?」

ゴナンが慌てて遺跡から顔を出そうとするが、「ゴナン、来ないで!」とナイフが止める。

「……」

ディルムッドは抜剣し、ナイフも拳を構えてしばし気配を窺っていた。しかし、やがて警戒を解く。

「…どうしたの?」

リカルドも遺跡の入口から顔を出す。ディルムッドは剣を収めた。

「…ああ…、なにか、少し嫌な気配を感じたのだが…。すぐに消えてしまった」

「…!」

ナイフも首を傾げる。

「…一瞬だったわね。獣か何かと間違えたかしら」

「でも、2人が同時に反応したんだから、間違いではないような気がするけど…」

そう言いながら、リカルドは遺跡の外へ出てきてしまった。

「リカルド、念のため私がここで警戒をするから、貴殿は中で引き続き調査を…」

「ああ、ディル。僕もここにいるよ。ナイフちゃんは中に戻っていなよ」

「だから! 私が壁画を見たって仕方がないんだってば。わあ、鳥の絵だわ、大きい、キレイ、すごーい、で終わりよ。リカルド、戻るわよ」

「あ、馬に水を飲ませてあげないといけないね」

「……」

そう言ってリカルドは、馬と馬車を駐めている方へと行ってしまった。ナイフは肩をすくめる。

「…リカルドはどうしたのだ?」

「…わからないけど…、どうにも妙なのよね…。何としても壁画に近寄りたがらないというか…。しかも、無意識でそうしている感じ。本人も分かってなさそうだわ」

「…?」

「…あまり無理強いしすぎるとよくないかしら? 先生とエレーネに調査を任せるわね。ディル、警戒と、念のためリカルドの観察もよろしく」

「ああ、心得た」

そうディルムッドに依頼して、再び遺跡へと潜るナイフ。壁画の前では、ミリアとエレーネ、ジョージが大樹の絵について意見を交わしている。

「先生。この樹の絵が『大樹』だっていうのは、どうしてわかったのかしら?」

「ミリアさん、この樹の根元を見てごらん。小さく人が描かれているだろう? わざわざこの人の絵を加えているということは、これがとても大きい樹を描いているってことを強調したがっている絵だってことだろう」

「多少、大げさには描いている可能性はあるけど、実際の縮尺に近いのだとすると、とんでもない巨木ね」

そう良いながら大樹の絵を見上げるエレーネに、戻ってきたナイフが声をかける。

「大樹って言ったら、巨大樹の街の樹かしら? エルダーリンド」

「ああ、そうだなあ…。これだけの巨木といったら、国内外みても、あの街しか思いつかねえな…」

「巨大樹の街?」

ゴナンが興味深くジョージに尋ねる。ジョージは、リカルドの姿がないことに嘆息したのち、ゴナンにニコッと笑顔を見せる。

「ああ、ア王国内にあるエルダーリンドという街にな、樹齢何千年とも言われるでっかい樹があるんだ。街の名物になっている。本当にでっかいぞ。幹回りも何十メートルもあって、空までそびえるかのような高さだ」

「へえ…」

「でも、あの街はあの樹を観に来る観光客で成り立っているような場所よね。私も観光旅行で行ったことがあるわ。巨大鳥の伝承云々に関わりがあるような雰囲気には思えないんだけど」

ナイフの言葉にジョージは頷いた。

「そうだな…。そもそも、あの樹やその周辺は随分昔から相当に調べ尽くされている。王立第二大学があるシャールメールの街も近いしな。しかし、巨大鳥と関わりがあるような何かがあるという話は聞いたことはねえなあ…」

「ただ巨大だという共通点で、並べて祀られているだけかしら…」

エレーネも細かくメモを取りながら分析している。壁画の隅々まで、絵の詳細を見ているようだ。しかし、それ以上わかることはここにはなかった。ジョージは腕を組み、ため息をつく。

「まあ、こんなもんだな。氷っ子も飽きちまっているようだし、戻るか」

「飽きた…」

ゴナンがそう呟く。リカルドのあの様子は、「飽きた」という感じではないような気がするが…。

ともかく、一行はその遺跡の調査を切り上げることにした。

「あ、帰る? 帰ろうか。もう、お腹空いちゃったよ」

と、なぜか馬の世話を丁寧にしているリカルドが皆に声をかける。そわそわと早く帰りたそうな雰囲気だ。

「…氷っ子…。お前、エルダーリンドの街には行ったことはあるか?」

「ええ、もちろんありますよ。人気の観光地ですしね」

「じゃあ、巨大樹は見ているんだな?」

「いえ、見たことはありませんが…?」

「?」

一同はえっ?とリカルドを見る。

「おいおい、巨大樹を見る目的以外で、何の用があってあの街に行くって言うんだ?」

「え…。いや、ですから、研究のために…」

「研究…。お前は自然学も修めているだろう。それで巨大樹を見てもいないとは…。いや、そもそも、あの街に滞在して、あの樹が目に入らないというのは、逆に難しいぜ」

「…?」

リカルドは不思議そうな顔で、無言になってしまった。やれやれ…、とジョージは幌馬車の御者席へと進んだ。

「まあ、一通り用は済んだから帰るか。戻ったらマリアーナが昼飯を準備してくれているはずだ。帰りも私が御者をするよ」

そう言ってリカルドを幌馬車に押し込んだ。ゴナンとミリア、エレーネも続いて乗り、帰路へと出発する。

「…」

「何? ゴナン」

「…やっぱり、体調が悪いんじゃないかなと思って…」

リカルドの妙な挙動が気になって、心配そうにリカルドを見上げるゴナン。リカルドはそんなゴナンの目線に、なぜか嬉しそうに答える。

「僕を心配してくれてるの? ありがとう。でもほら、知ってるだろう? 僕は大丈夫なんだよ」

「ねえ、リカルド、帰りは横になりなよ? ここ」

そういって、自分の膝を指すゴナン。

「えっ? 膝枕…?」

「行きは結局、俺がリカルドの膝で寝ちゃってたから。交代…」

「いや、だから僕のことは心配しなくても…」

そこまで言ってリカルドは言葉を止め、そしてふふっと笑った。

(…でも、ゴナンに心配してもらうのは、なんだか嬉しいな)

そう心の裡で呟いて、「じゃ、お言葉に甘えて」とゴナンの薄い膝枕に頭を乗せるリカルド。といっても、眠りに着く様子はなく、ずっとニコニコ笑顔でゴナンに何やら話しかけている。そんなリカルドの様子を、ミリアとエレーネは呆れたような冷めた目線で見ていた。




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