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第14回「週刊ことさきく」:言葉は翻訳できない、だが心は翻訳できるーー心と言葉の翻訳への招待(すべての翻訳者への成瀬からのメッセージ)

「週刊ことさきく」ポッドキャストにもなりました!

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AI翻訳という「牛の大群」が押し寄せる非常事態にあって、翻訳に関わる私たちはどうすればよいのか?人間にしかできない役割、仕事とは? 翻訳者として生きるヒントになれば幸いです。

【内容(約8000字)】
 0:48 高橋
皆様こんにちは。
今週のテーマは「言葉は翻訳できない、だが心は翻訳できるーー心と言葉の翻訳への招待」です。
成瀬先生の本業である翻訳に今回はフォーカスしてお話いただきたいと思います。
成瀬先生、よろしくお願いします。

1:06 成瀬
今日のテーマの最初は「言葉は翻訳できない」です。
これは間違いありません。
これは翻訳不可能論といって昔から言われていることではありますが、私の場合は、特に翻訳を始めた20代のころから翻訳は不可能に近いと確信をしていました。
そして、そのなかでどうやって翻訳をしていくのかということをずっと考えてきました。
高橋さん、この「言葉は翻訳できない」という考え方、どう思いますか?

2:44 高橋
成瀬先生にサイマルアカデミーで習う以前は、そういうふうに捉えたことがなかったです。
でも、先生にそれを言われた時、すごい衝撃だったんです。
衝撃だったと同時に、ああ、やっぱりそういうことなんだ、という感覚がありました。
自分がぼんやりと、なんとなく感じていたことを明確にされた気がしました。
その前にも、辞書を使って言葉と言葉を1対1対応させるような翻訳でいいのか、ということは、ずっと考えてはいたんです。
ただ、その部分にフォーカスして解決に向けた努力を、自分はしなかった。
だから衝撃であると同時に、すごく納得しました。

4:09 成瀬
翻訳をしっかりとやってる人たちほど、言葉から言葉への翻訳はできないと思ってるはずなんですよ。
実際に本気で翻訳をやれば、わかるんですよ。
言葉から言葉への翻訳なんか、できるわけ、ないんですよ。

もちろん、英米人も日本人も同じ人間ですから、なにもかも違うということはありませんが、お互いの共同主観のあいだには、必ずなんらかの「ずれ」があるんです。
なので、1対1対応は、無理なんです。
これは、まともな翻訳者なら、誰もが分かることですよ。
けれども、この誰もが分かることを、みんな言わないんです。
なぜ言わないかというと、それをいうと、自分の商売が成り立たないからです。
それを言っちゃ、おしまいなんです。
なので、言わない。

5:57 
理由は、もう1 つあります。
翻訳ができないといってしまうと、日本という国が成り立たなくなってしまうからです。
日本は、翻訳で成り立ってきた国です。
外からの言葉を翻訳してそれを自分なりに作り替えて文明として成り立たせている、それが日本です。
そんな国ですから、言葉は翻訳できませんといった瞬間に全部が終わっちゃいます。

8:17
でも、1対1対応での翻訳をすると、やはり日本語としては、歪なところが目立ちますね。
そこで、その歪なところを後から手直ししてやる。
これを、私は「英文和訳プラス編集」モデルと呼んでいます。
日本は、この「英文和訳プラス編集」モデルを使って文明をつくりあげてきたわけです。
その第一線で働いてきたのが、翻訳者なんです。
翻訳者こそが日本文明を築き上げてきた先兵であるといって過言ではありません。

8:54
ところがこの5年、ついにAI翻訳がやってきたんです。
AI翻訳というのは「英文和訳プラス編集」モデルの究極の姿なんですね。
最終形態です。
「シンゴジラ」を見た人は分かると思うんですが、人類を滅ぼすゴジラの、あの最終形態であるわけです。
で、それがついにやってきた
そして、とてつもないスピードで進化を続けています。

10:11
そのなかで、私たち人間翻訳者はもう1回考えなくちゃいけないところに戻ってきてると思ってるんですよ。
で、戻るべき場所はどこかって言ったら、「言葉から言葉への翻訳はできない」と いうところに戻らないと、話は前に進まないと私は考えています。
もう一度、それをもうしっかりと言わないといけない。
言葉から言葉への翻訳はできないのだと。

11:10
そうしなければ、翻訳者はいらない、通訳者はいらないというふうに間違いなくなっていくと思います。
ところが、いやまだ大丈夫だ、AI翻訳だって完全じゃない、自分たち人間翻訳者にも、まだまだ出番はあると考えている翻訳者、翻訳会社も多いのではないでしょうか。
AIを「利用して」翻訳ビジネス、通訳ビジネスをしていくんだとの考えの人が多いんじゃないしょうか。
この考え方は、ダメなんですよ。
いままでと同じ考え方だと、AIにすべてが代替されてしまうんです。
AIは、これまでの翻訳ジョブのすべてを代替できるんです。
そんなことはない、という人がいていたら、ぜひ討論をしたいですね。
なぜ討論したいかっていうと、みんなに本当のことを伝えたいんですよ。
いままでの考え方のままだと、いままでのやり方だと、人間翻訳者に勝ち目はない、将来はない、ということです。
これは翻訳に限りません。
人間のすべての仕事に将来はないってことにつがるんです。
つまり人間のやることがなくなっていくことに繋がっていくんですよ。
AIとはそういう存在なんです。

13:47
現在の動きが進めば、結果的には、AIとAIに近いほんの一部の人間が他の人間を支配できる世の中になっていくと思います。
それでいいと思う人がいたら、それは間違いです。
そんなことになったら人間が人間じゃなくなる。豚になる。
だから私たちは人間の尊厳を守を守っていかないといけない。
人間の価値を守っていかないといけない。

14:26
私はこうしたこことをずっと考えていましたが、AIが本格的に出てきた5年ぐらい前から本当に真剣に考え始めています。
たとえばユヴァル・ハラリはAIによって人間が人間でなくなる可能性があるという強い危機感を持ってる。
私も同じ危機感を持っています。
そしてその最先端のところがいるのが翻訳者だと思います。
翻訳から人間が消えることは、それに続いて人間全体が消えることの象徴的な出来事になると思います。
私たち翻訳者は、ここでもう1回立ち戻って、人間としてやるべきことは何かを考えるべきだと私は思うんです。

15:29
前回の「週刊ことさきく」でいったように、この世界には英語の世界の共同主観があり、日本語の世界の共同主観があり、フランス語の世界の共同主観があり、中国語の世界の共同主観があります。
こうした数々の共同主観のあいだを行ったり来たりするのが翻訳であり通訳です。
それをただ表現の世界だけで繋ごうとすると言葉から言葉への翻訳になるわけです。
これは、膨大なデータを持ってるものが勝ちですよ。
つまりは、AIの勝ちです。
ようするに、このままでいけば、もう数年もたつと翻訳ジョブのなかで人間がやるべきことがなくなります。
もちろん通常社会全体はゆっくりと動きますから反応は遅いでしょうけれども、それでも5年先には翻訳の世界に人間の居場所はないです。
そのことを分かっていながら何もしないというのは良くないというのが今日のテーマなんです。

17:28
本当の翻訳は言葉から言葉のアプローチではできない、とまず言い切ろうということです。
そう言い切ることによってはじめて、AIにはできない何かが人間に残るというのが私の考えです。
残るものは何か。
それが「心」であると。

17:50
私たちは、言葉を通じて、他の人の心一体化できる。
そのように、「妄想」します

18:14 高橋
「妄想」ですか。

18:14 成瀬
「妄想」です。「妄想」なんです。

18:30 高橋
先生がよくいわれる、恐山の「イタコ」ですね。

18:40 成瀬
そうです。
ここに、本当のコミュニケーションとは何かという、大きな問題があります。
科学の世界であれば、こんな「妄想」は考える必要がない。
出てきたファクトを積み上げていって、そこから結論を出せばいい。
これがサイエンスです。

19:00
もう1 つの世界が、いわゆる「スピリチュアル」の世界です。
私たち人間同士は心の深いところで繋がることができると考えるわけです。
これを、そうだと思う人もいるでしょうし、一方で鼻でせせら笑う人もいるでしょう。
私は、この「妄想」を唯一の希望として持ってみよう、そういうギャンブルをしてみようと思っているわけです。
パスカルと同じです。神がいるかいないかはわからない、だが神がいるほうに賭けるとパルカルはいう。人間の心と心が繋がれるかどうかはわからない、でも私は繋がれるほうに賭ける、ということです。

20:00
私の「心と言葉モデル」は、その妄想の上に成り立ってるモデルです。
言葉を受け取ります。そして、ああ、この人はこういう人なんだ、この文章にそのありようが出ている、などと「妄想」します。
そうやって、その人の心を読んでから、その人の心と自分の心を一体化させます。
一体化させて、その人の代わりに、その人が属さない別の共同主観のもとの言語として表現します。恐山のイタコです。
もしこの人が日本人だったら(そんなことはないけれども―仮定法過去)、この文章はこんなふうに表現することだろう、それを私が書いてあげる、というのが、私の翻訳論の根っこなんですね。
その人が、私に乗り移るんですよ。すごく呪術的でしょ?
そういう生まれ変わりの世界なんですよ。
こうした考え方ですから、多くの人から受け入れがたいと言われると思うし、業界のなかでも学会のなかでも受け入れてもらえるところはないと思ってやってきました。

22:41 高橋
それは、学会が科学主義だからですか?

22:45 成瀬
そうですね。それに、私は大学に職がないでしょ。職業としての学問をやってるわけじゃない。
もう、何もないですよね。
そんな人間の言うこと、まわりが聞くわけない。
だから、そういう最初から負ける勝負はやる気がなかった。
最初からアウトサイダーとして一生研究をしていこうと思っていました。
だから別にこれまでほとんど何も言ってこなかったし、本も積極的に出そうとは思わなかったです。
自分の道を極めれられればそれで満足、みたいな感じの研究者でした。
けれども、ここに至っては、もうそうも言ってられない。
なので、積極的に発言していきたいというのが今の気持ちなんです。
今までの話、高橋はどう思いましたか。

23:45 高橋
先生の資料は結構読んでいるので。
なるほどって思いました。
だからこそ難しいんですけど。
つまり、答えがないわけですよね。「妄想」ですから。
これは、つらいです。
私は、答えが 1個であってほしい。
もう、なんかもう、これだって答えを1つに決めてもらいたい、誰かに。

24:19 成瀬
うん、本当だよね。
もう、本当にそうなんですよ。
サイエンスの世界は、ほんと、いいよね。

24:25 高橋
いいですよ。答えがきっちりと出るから。

24:40 成瀬
私がなぜこんなにも危機感を持ってるかって言ったら、このままだと人間がブタ化すると思ってるわけですよ。
妄想できない人間になるんじゃないかな。
妄想できることが人間の証だと思っているわけ。

価値というのは一元化できないというのが私の信条です。
資本主義の社会は価値をお金という一元化するわけじゃないですか。
あの人は年収が5000万あるので人間として価値が高い。
あの人は年収が200万しかないので人間として価値が低い。
そんなことで平気で言う人たちが、増えてきているでしょ?
いま私がこう言っても、そんなの当たり前じゃないかと思って聞いてる人いるかもしれないね。
まだ大勢ではないと思いますけど。
でも、それと同じようなことが、AIによってどんどん起こってくる。
資本主義、お金の話というのは形而下的な話なので、まだ人間の精神には行き届かないところがあるんだけれども、今回のAI革命は人間の精神そのものに食い込んできています
そのときの対抗軸、人間が人間であるための対抗軸がほしいんです。
そのぐらいの危機が、いま人間にやって来ていると、私は見ているんです。

26:31
もっと形而下的な話をすると、翻訳会社さん、翻訳者さん、あなたたち、5年後に仕事はないよ、本当に分かっていますか、見て見ぬふりしてるだけではないんですか、という話です。
5年後には、おそらく世界で数社のみが翻訳業界を支配すると思いますね。
10社は残らない。
そしてその数社とそれにダイレクトにぶら下がる連中が圧倒的なパワーを持つ。
そこから外れると、もう何もない。
こうした支配側のなかに日本の会社や日本人はいないでしょう。
私たちはみなアメリカと中国の数社に飼われる存在になる。
日本は弱いんです。
このままでいくと経済だけでなく言語も全部すべて米中に支配されます。

それでもいいじゃないか、金もくれるし黙って言うこと聞いていれば養ってくれるんだからいいじゃないか、あるいは自分はAIのことを良く知っているし、こっち側ではなく向こう側だと思ってる翻訳者もいるかもしれません。
それは勘違いです。
彼らにとって究極的には私たち日本人は役に立ちません。
飼う必要がありません。
そういうことを今みんなで考えないといけないと思います。

28:29 高橋
こういう状況をどうすれば押し返せるんですか。

28:38
翻訳の場合、その突破がどこにあるかというと、それは心だと私は思っています。
歴史的にみると、革命の時代には社会は数十年でひっくり返るんですね。でも今回のAI革命では、すべてがひっくり返るまで10年はかからない、数年でひっくり返ると私はみています。
そのなかで私たちは何をするべきか?
心に戻ろう、翻訳というものの見方を抜本的に変えよう、そういう方向性に向かおう、というのが私の主張です。

30:59
そうすることではじめて人の心を打つ言葉が再び生まれてくる可能性がある。
文章は人の心を動かすために書くんだと私は思ってるんですよ。
知識のみを伝えるためじゃなくてね。
こんなこと言うと文学者みたいだって言われるけれども、文学翻訳とか産業翻訳とかという壁はないんですよ。
そうじゃなくて、あなたが書いた何かが人間の心を動かしてくれる。
読み手の心を動かしてくれる。
知的に動かしてくれるのかもしれないし、情的に動かすのかもしれない。
あるいはそういうものの総合として人間の心を動かしてくれる。
人の心を動かすことが私たち翻訳者がやるべきことだという原点にもう1回戻らなければいけない。
高杯さん、どう思いますか?

32:09 高橋
実務翻訳者として伺いたいんですけども、いま私はエージェント経由で仕事をもらってるわけです。
で、そのエージェントがAI に頼るような方向に動いているときに、心の翻訳をしますから仕事をくださいっていうわけにはいきませんね。

32:35 成瀬
そりゃ、そうです。そうはいかない。

32:40 高橋
じゃあ、今この時代にプロ実務翻訳者としての私は翻訳エージェントに対してどういうふうに対処したらいいんでしょうか?

32:40 成瀬
たとえば、いま私たちは第二次世界大戦のど真ん中にいる、というイメージを持った方がいいと思うんですね。

32:56 高橋
いまは戦中っていうことですか?
非常事態のさ中にいると。

33:10 成瀬
そう、そう。
だから、その情勢に従わざるを得ないよね。
でも、心をすべて奪われてはいけないって、私は言いたいわけ。
流されてはいけない、ということ。
そういう状況のなかにいる自分を認識しつつ、でも自分を維持するような何か努力を自分でしなきゃいけないと。
例えば、エージェントさんからAI 使って翻訳してくださいと依頼がくるとします。
これを断っちゃたら、おまんまの食いあげになるになるから、仕事は絶対に断っちゃだめです。
それは、たんに無謀なだけですよ。
牛の大群がこちらに向かってやってきているのに、両手を広げて、止まれ!って言ってるみたいなもんですよ。

33:46 高橋
[笑い] そうですよね。
私、さっきからその図が頭のなかにずっと浮かんでいて。
じゃあ私はどうしたらいいんだろうと思っていた。

33:51 成瀬
そんなことしたら、死んじゃうよ [笑い] 。

33:55 高橋
ですよね。

34:00 成瀬
翻訳者としては、いまは第二次世界大戦のまっただ中にいるのと同じですよ。
そのぐらいの危機感を持つということが、まず大事です。
今のウクライナだって同じだと思うんですね。
イランでもそうだと思いますけれども。
どうしようもないですよね。
なぜこれほど発展した世界でなぜ戦争するのか、無意味な殺し合いをするのか。
理不尽もいいところですよね。
そう思いませんか?
でも、それは我々には、どうしようもないことじゃないですか。
で、先の大戦の時にも、そういう人たちがいっぱいわけですよね。
理不尽もいいとこですよ。

34:55
でも、そこで流されてそのまま行くのではなくて、『夜と霧』のフランクルじゃないけれども、そのなかでも自分の尊厳みたいなものを守らなければならない。
私が1番恐れてるのは、自ら感受性を放棄することなんですよ。
私が周りを見てると、そういう人が多くなってきている気がします。
いまの時代に感受性を持ってたら、辛い。
生きていくのが辛いじゃないですか。
感受性を放棄した方が楽なんですよね。

どうせ何もどうにもならないんだから、もう考えるのやめようと。
こういう思考停止というのが1番楽だと思いますよ。
戦時中と一緒ですよ。

36:07
私たちのような知的労働者は今回の戦争の最前線に立たされているわけです。
そんななかで、この戦争は是か非かなんて考えてる余裕なんかない。
でも、その時にこそ感受性を守りたいですよね。
そう思いませんか?
それをプライドというのか、何と呼ぶのか、自分の精神と呼ぶのか、そういったものを手放さないで 自分は何のために翻訳をしてるのか、何のために文章を書いてるのか、を考えたい。
もちろんどんな仕事でも仕事をするのは、それは金のためですよ。
当たり前です。
だけど、 それだけではないはずなんですよね。
そこの部分を、完全に手放すか手放さないか、です。

37:50
私自身は、もう自分でやりたいこと、やってきたから、
私と同じようにしなさいとは絶対に言いません。
そうではなくて、
1人1人が考える。
そして自分なりの結論を出していく。
思考することをやめない。
感受性を手放さない。
これが、今日言いたかったこと
ですね。
このビデオを何人の方に見ていただけるかどうか分からないけれども、
1 人でもいいから、そのことをちょっとでも考えてもらえれば、有難い。

では、翻訳者はいま具体的に何をすればいいのかといえば、
まずは仕事を大事にしてくださいね。
目の前の仕事を大切にしてください
なにしろ、仕事が減っていますからね。
そのうえで、もう一度、翻訳を通じて自分が何をしたいのかを自分自身に問いかけてほしいと思います。

(以下、略)


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