第13回「週刊ことさきく」:金谷武洋先生に聞く 日本の魅力、日本語の未来
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今回は素晴らしいゲストとして第5回にご紹介した『日本語が世界を平和にするこれだけの理由』の著者である金谷武洋さんをお迎えして1)日本の外から見た日本、日本人、日本語、日本文化について、2)日本語には世界を変えて世界に貢献する力があることの2つをテーマとして、お話をしました。 以下、その内容です。
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0:50 高橋
本日は素晴らしいゲストをお迎えしました。第5回にもご紹介した『日本語が世界を平和にするこれだけの理由』の著者である金谷武洋さんです。
簡単に金谷さんのプロフィールをご紹介すると1951年北海道生まれ、函館ラサール高校から東京大学教養学部卒業。ラヴァル大学で言語学の修士号、モントリオール大学で言語学の博士号を取得されました。専門は類型論、日本語教育で、2012年までモントリオール大学東アジア研究所日本語学科科長を務めていらっしゃいました。カナダでの25年にわたる日本語教師の経験から、日本語の学校文法が、いかに誤謬に満ちているかを訴え、新しい日本語文法の構築を提唱されています。著書に『日本語の主語はいらない』『日本語は滅びない』などがあります。金谷さん、簡単に自己紹介をお願いできますでしょうか。
2:00 金谷
はじめまして。今年75歳になりまして、カナダでの生活が50年を超えました。カナダは本当に住みやすいところです。観光にもよいところですのでぜひきてください。
私は東のケベック州に住んでいますが、ここはフランス語が公用語です。私は函館ラサールの出身なんですが、そのラサール会の本拠がここでして、その縁で、こちらに留学することになりました。最初はケベックにいたんですが、その後にモントリオールに移ってそこで私のキャリアが始まりました。
そこで日本語を教え始めたんですが、学生たちの質問にうまく答えられませんでした。そこで日本語の文法を勉強しはじめたんですが、そこで日本の学校で教えられている日本語文法がおかしいことに気づきました。ようするに英文法を真似ただけものであり、だから主語があるわけです。
それに大反対したのが三上章という研究者です。私の師匠にあたる人でして、その三上さんの評伝『主語を抹殺した男』という本も書きました。そのときに三上さんの妹さんにもインタビューをさせていただき、本当に忘れられない、いい思い出です。
6:00
三上文法で教えると、日本語が学生の頭のなかにすっと入っていくんですね。そんなことで、本も10冊ほど出版することができました。2012年にリアイアして、いまは毎日が日曜日の生活です。
私はずいぶんと学生を日本に送りました。その教え子たちがいろいろなところで活躍してくれています。彼らは、日本語、日本、日本人の素晴らしさを何度も何度もいってくれます。私は胸が熱くなって、ああ、いい仕事をしたな、と思っています。
7:00 高橋
ありがとうございます。
本日のテーマは2つありまして、ひとつは日本の外から見た日本、日本人、日本語、日本文化、もうひとつは日本語には世界を変え、世界に貢献する力があるです。
最初のテーマとして、カナダ人が日本、日本人、日本語、日本文化に対してどのように考え、どのように受け止めているかということをお話いただけますでしょうか。
7:40 金谷
ひとつ印象的だったのは、教え子を含むカナダ人が日本と中国の両方にいって、カナダに帰ってきてから日本と中国の比較をするわけです。そうすると日本が素晴らしくて中国がダメだと評価なんです。中国人は声が大きくて乱暴、日本人は静かで丁寧で、相手に対して気配りをしている、やさしいと。
わたしはこうしたことを日本語を通じて教えられると思います。私が、私が、と主語を出さない、いっしょに同じ方向を見る、「富士山が見える」「音楽が聞こえる」です。私もあなたも出てこない。「は」と「が」のあり方もそうです。「は」と同じ働きをする語がケベックのフランス語にもあるんです。La, laというんです。
留学生として日本にいってきた学生たちは、帰ってくると人が変わるんです。とても静かになって、そして日本のことを絶賛してくれます。そのとき、こんな仕事につけてなんて幸せなんだろうとなんども思ったことです。これを一般化してもいいと思います。
じつは先月、私はカナダの総領事館から日本の世界への普及に貢献したということで表彰されました。とても感激しました。
10:50 高橋
おめでとうございます。
10:50 金谷
ありがとうございます。
12:30 高橋
日本語を学ぶことでカナダの人の性格が変わったというのは、とても面白いと思います。金谷さんが書かれている「共視」がそのベースにあるのでしょうか。
13:00 金谷
そうです。ただ日本人はそれを当たり前と思っていますから。「富士山が見える」という日本語には、Iもyouも出てきませんね。英語だってもともとはそうだったんですけれど、だんだん自己中心的な言語になってきたんです。『英語にも主語はなかった』という本にそのことを書きました。日本語はIもyouも出てこない、俺が俺がではない、昔のかたちを守っていると思っていい。
そしてそれが世界平和のためには必要だと思うんです。このまま日本人の若い人がこの感性を持ち続けてくれたら、それが世界平和につながると私は思います。
14:00 高橋
その一方で、いまは世界での日本の影響力が、特に「失われた30年」のあいだに経済の面ではすごく落ちているといわれています。それが日本文化を含めた日本全体の評価の低下につながっているのではないかという危機感も一方にはあるんですが、金谷さんはどう思われますか。
14:40 金谷
おそらく少子高齢化などのいろいろな問題で日本の経済力が落ちていることはあると思うんですけれども、やはりお金だけで測ってはいけないと思うんですね。それとは異なるものの見方というのが日本にはある。
日本語を勉強したいという学生は非常に多くなっています。日本と日本文化に少し触れるだけで人を引き寄せる力が日本と日本文化には残っていると思います。
マンガやアニメなどで日本に惹かれてもそれはあくまできっかけであって、実際に日本にいけば日本の良さがわかると思います。
ただ、日本人は自分たちのことをアピールしないので、それが苦手な部分かと思います。けれども底力というのは失われていないと私は思います。失ってほしくないし、失われないと思っています。
私はヨーロッパなどにも講演で幾度も呼ばれたんですけれども、そうした点からも日本と日本文化と日本語の素晴らしさを世界に広めることに貢献できたかなと思います。
19:00 高橋
では、私たちのような日本に住む普通の日本人が日本文化を世界にアピールする方法としてどのようなものがあると金谷さんはお考えでしょうか。何をしたらよいのかを、私はいつも考えています。
19:40 金谷
成瀬さんの活動などを少し拝見させていただいて素晴らしいなと思っています。もっと広がっていけばよいと思います。
これからAIの時代ですし、ネットを通じての日本と日本語と日本文化を普及させる仕事を成瀬さんのほうにバトンタッチして、これからも頑張っていただけたらと思います。
やはりこちらからもっと発信をしなければいけないと思います。その意味でこの「ことさきく」というムーブメントを続けていただいて影響を広めていただければと思います。日本語の魅力を知ってもらう機会になるかと思います。
私たちは手段は違うけれども同じ方向に向かって進んでいたと思います。応援していますので、どうぞよろしくお願いします。
20:30 高橋
ありがとうございます。それでは2つめのテーマに移りたいと思います。日本語が素晴らしい、という話です。
日本語には世界を変える力がある、ということですが、具体的に世界にどのように貢献していけばよいのか、これについて突っ込んでお話していただけると有難いです。
21:30 金谷
たとえば、広島の原爆記念碑の「過ちは繰り返しません。やすらかに眠ってください」という言葉が象徴的だと思うんです。そこでは「誰が」過ちをしたかが書かれていない。私たちは被害者なんだけれども罪を一緒に引き受ける。誰がではなく過ちは人間全体によるものだということですね。
私は人類がいまだに戦争をやっているということが信じられません。日本語的な発想はそうした状況を変える力があると思います。英語やその他の西欧言語は「誰が」を必ず決めなければいけない「主語病」にかかっていると私は思っています。
私は日本語の控えめなアピールがこれからも続いていくと思います。日本語を学びたいという学生が増えていますので、それが力になると思います。またネットなどを通じて日本語の力についての情報を広めていくことで、世界を変える力になると思います。
日本語のようにみんなが同じ方向を見ることができれば、Iとyouとの対立がなくなれば、戦争がなくなると思います。同じ方向を見ること、相手のいうことを聴くということが、大切です。日本語はそれを体現している言語です。
日本語の「あのー」は、同じ方向を見る時に使う言葉ですが、これと同じニュアンスを持つ語がケベックのフランス語にあって、la, laといいます。学生たちに、la, laと日本語の
「あのー」は同じだと教えると、喜びます。
27:20 高橋
ありがとうございます。その一方で私自身が感じるのは、主語がないということが、共感をベースとしていることが、弱さに通じるのではないかということです。コミュニケーションをするもう一方の人たちが、強烈な自己主張をする人たちですから。
両方が同じレベルにいないと、共感は気づかれにくいと思うんです。たとえば、広島のあの言葉についても、一部には、誰が過ちをしたのかが明確になっていないという批判もあります。
主語がないという「弱さ」を私はときどき感じることがあります。それについてはどう思われますか。
28:10 金谷
私は日本人の持つ共感・共視の姿勢、思いやりの心、やさしさは「弱さ」ではなく「強さ」だと思っています。ただ、それをどのように相手に伝えていくかは、難しい。
その日本人の良さを伝えるために使えるのが、日本語を教えることだと私は思っています。日本語を教えるなかで、日本の良さ、主語が要らない世界の良さ、共感・共視の世界の良さを伝えられると思っています。
もともと西欧の言語にも主語はいらなかったんです。それが必要とされたことが現在の世界のあり方につながっています。
30:40 高橋
そうすると、日本語は古い昔の世界のあり方をいまも残しているということでしょうか。
31:00 金谷
そうです。西欧言語のなかでもスペイン語などは今でも主語がいつも必要ということではないですね。英語やフランス語が主語を必要とするのは人類が悪い方向へ向かってきた終着駅のようなものです。中国語も英語と似ています。やはりオレオレ主義です。
そんななかで日本語が広まってくれるといいんですが、日本人は発信が下手ですから、わかってもらうというところに、日本語のファンを増やしていくために、どういうふうに工夫をすればいいのかが課題です。
32:30 成瀬
質問ですが、「は」と「が」に関してなど金谷さんが話されたことは三上章が80年以上も前に明快に解決されたことだと思います。専門家でも意見はすでのほぼ一致しています。であるにもかかわらず、学校で教えられる日本語の文法、国文法は依然として変わらない。そのため、ほとんどの日本人は日本語には主語があり、「は」も「が」も主語を表すものだと、いまも思っています。なぜ、これほど日本の学校の日本語教育の状況が変わらないのでしょうか。その原因はどこにあると思われますか。
33:10 金谷
やはり政治的な問題でしょう。アメリカやヨーロッパの言葉と日本語とを同列に扱っておきたいということではないでしょうか。とても残念なことで、やはり敗戦と明治維新の影響が大きいと思います。明治維新と敗戦が日本語を弱くしたと思います。学会もしっかりしていない。学者たちも自分が気づいた地位を保ちたいと思っている。この状況を変えるには、三上文法を広めていくために、みんなが力を合わせてやっていくしかないですね。
41:40 成瀬
ひとつずっと気になってるのが、日本語をベースとする思考、つまり自他の対立のない共感な世界での思考を持つ私たちが、いかにして西欧ベースの思考、つまり自他の対立を前提とする世界での思考と持つ人たちと有効なコミュニケーションをとっていくか、ということです。
三上さんはハーバード大学に招聘されてそこで向こうの学者たちと議論をしましたが、結局、彼らからの賛同を得られずに帰国してしまいました。私たちは日本語の論理を伝えようとするけれども、彼らは西欧の論理一辺倒ですから、私たちの論理を受け付けようとしません。ここをいかに乗り越えるか、どうすればこの壁を乗り越えられるのか、を私はずっと考えています。
そして金谷さんは、その壁を実際にケベックで実践として乗り越えられてきた。金谷さんの学生せんは金谷さんの影響で変わったわけです。私からみると、金谷さんは日本人として稀有な存在なんです。同じことができた日本人がほかにほとんど見当たらないんです。高橋さん、そう思わない?
43:30 高橋
そうですね。外国にいって、そちらのほうに染まってしまう人が多いですね。
43:40 成瀬
では、金谷さんの場合、何が金谷さんを成功に導いたのでしょうか。
43:50 金谷
両親のおかげだと思いますね。父親は教師でして、北海道の過疎地域の小さな学校の校長をしていて、そこがつぶれると次の学校にいくといったかたちで、住む場所をてんてんを変えていきました。関西出身の母親はいじめられたといいますが、それを乗り越えて、私がカナダにいくといったときにも応援してくれました。私はいまでも祖母と母親の写真を持ち歩いています。それがはげみになります。
また、教えているなかで学生が喜んでくれたというのもはげみになりました。私自身もカナダ人のようになりそうだったんですが、それを日本人のままに押しとどめてくれたのは、教え子だと思います。私と一緒に育ったくれたんだと思います。一緒に戦ってくれました。それが底力になったと思います。
46:00 成瀬
なるほど。そうした一人一人の深い思いが、通じる原点にある、ということですね。
46:15 金谷
そう思います。
(以下省略)
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