【成瀬 日本語・英語・翻訳講座】日本語編(49)日本語の音韻(3)音素のワナ
(↑のつづき)
【コラム】
中学の英語の授業のときのことだ。
先生が英語の発音について次のように説明してくれた。
「英語の音には、母音と子音があります。母音は、舌やくちびるを全然つかわないで出す音です。子音は、舌やくちびるを使って出す音です」。
ここまでは、なんとなくわかる。
ようするに母音というのはアイウエオのことであり、子音というのはそれ以外の音だということであると、中学生の私は理解した。

☆☆☆
問題はそのあとの説明だった。
「英語の発音は、この母音と子音とを組み合わせて行います。たとえば、子音のdと母音のoと子音のgを組み合わせるとdogという単語になります」。
先生は続けた。
「日本語との大きな違いは、子音が2つ、3つと連続することがあるところです。
たとえば、strongという単語はsとtとrという3つの子音を連続していってからoという母音をいいます。
そしてngという子音を続けます」。
こういってから、いいですか、こんなふうです、と先生は自分で発音をした。
ゆっくりと、はっきりとした調子で、/s/と/t/と/r/とを分けながらだ。
ところが、この/s/が私にはどうしても/su/にきこえる。/t/も/to/に/r/も/ro/にきこえる。
ようするに、「ス・ト・ロ・ン・グ」といっているようにきこえるのである。
ただし、スの/u/もトの/o/もロの/o/も全部ひそひそ声で(言語学的にいえば無声で)発声しているところが日本語とは違う。
/t/を発音するといいながら/to/を、/r/を発音するといいながら/ro/を発音するのであれば、子音というものはいったい何なのか……。
これでわけがわからなくなった。
そこで英語の発音というものは、とりあえずカタカナで発音しておけばいいのだと決めた。
子音とは何かという疑問が本当の意味で解けたのは30歳近くになってからのことだった。

☆☆☆
そもそも「アイウエオカキクケコ」といった音節文字だけに親しんでいてアルファベットやハングルのような音素文字[1]を持たない日本人の子供に向かって、最初から音素がどうのこうのと説明すること自体、無理筋ではないだろうか。
この説明で、dogやstrongが「キャ」や「ミュ」とおなじ「一つのオト」だということを理解するのは、かなり頭のいい子というか素直な子というか、そうしたタイプの子供だけではないかと思う。
私はそのどちらでもなかったから落ちこぼれたというわけだ。
そしてその後の15年ぐらい、この「音素のワナ」にはまり込んでいたのである。
いま考えてみると、この授業において決定的に欠けていたのが「音節」そして「拍」という「音韻」についての基本的な説明だった。
ひょっとしたら先生は実際には説明してくれたのかも知れないが、しかし私の頭のなかには残念なことに残っていない。
それよりも「母音」や「子音」というような近代言語学がつくりだした概念である「音素」ばかりが記憶に残っている
[1] 英語は音素表記だといったが韓国語のハングルのようなパーフェクトな音素表記ではない。ラテン語での音素表記であるローマ字を借用しているため、母音・子音とその表記にかなりの「ずれ」がある。
(つづきは↓)
☆☆☆
☆☆☆
「ことさきく|成瀬由紀雄の日英文章・翻訳教室」では、このほかにも日本と日本人、英語・日本語・翻訳その他に関するコンテンツを数多くアップしてあります。総数は2000本を超えています。
いくつものマガジンを設定していますのでぜひチェックしてみてください。
