【連載小説】銀色のシェイカー 第9回「兄弟とともに」
全13回・完結
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銀色のシェイカーを見ていると、だんだん気持ちが落ち着いてきた。
後ろで何か音がして、振り返るとスクリーンが用意されている。
今日はビデオではなく、おじいちゃんの写真を映すらしい。
安田さんは小声で僕に
「大丈夫?戻れるか?」と優しく聞いた。
「……はい」小さく答えると
彼は背中をそっと押してくれた。
椅子に戻ると、照明が静かに落とされた。
少し淋しげな音楽が流れ、スクリーンに写真が映し出された。
おじいちゃんと、たかばあちゃんの若い頃の写真だった。
僕の知らない写真が、たくさんあった。
おじいちゃんは若い頃、こんなにスラッとしていたのか……
驚いて見ていると、小さい女の子が二人、おじいちゃんと写っている。
おねえちゃんと母の、子どもの頃の写真だった。
ひいじいちゃんや、ひいばあちゃんの写真もあった。
ふたりとも、僕が産まれる前に亡くなっているから、会ったことはない。
おじいちゃんの兄弟たちの写真もあった。
親戚の集まりだろうか?
お料理とお酒がたくさん置かれた御膳を囲み、
兄弟たちが楽しそうに笑っている。
僕の知らない、若いおじいちゃんが、そこにいた。
しばらくすると、僕の知っているおじいちゃんの顔が映った。
これは……遺影の顔と同じ写真だ。
その写真のおじいちゃんが膝の上に抱いていたのは、
産まれたばかりの僕だった。
僕の初節句の写真もあった。
お気に入りだったパンダのぬいぐるみと一緒に、
おじいちゃんの膝の上に、ちょこんと座った僕がいる。
突然、隣に座る母が、頭をガクッと下げた。
僕がびっくりして母を見ると、慌ててハンカチを出して目を押さえ、
しきりに鼻をすすっている。
上映が終わって照明がついても、母は鼻をすすっていた。
安田さんから
「よろしければ、お父さんの思い出の歌など、皆さまで歌ってみませんか?」
と提案があった。
昭和歌謡のCDがあるようだ。
母が『美空ひばり』を選び、
『川の流れのように』という曲を歌うことになった。
僕も聞いたことがある。
おじいちゃんの愛車、プリウスに乗せてもらうと、この曲がよく流れていたからだ。
僕はあんまり分からなくて、ほとんど口パクだったけど、
おねえちゃんは綺麗なソプラノ声で歌っていた。
安田さんは、大きな低い声で歌っていた。
母は泣きながら歌い、歌いながら泣いた。
お葬式が終わり、棺にたくさんの花を入れた。
お菓子も入れた。社交ダンスの衣装も入れた。
最後に安田さんが、さっきの紙コップを僕に渡した。
こぼさないように……僕はそおっと紙コップを棺に入れた。
……ああ、だから紙コップだったのか。
グラスは一緒に燃やせないから……
そして安田さんがお酒の入った紙コップを、追加で3つ持ってきた。
先に天国へ旅立ってしまった、おじいちゃんの兄弟の分だと言う。
向こうで酒盛りできるようにと、彼の優しい配慮だった。

そのあと荷物を持って会場の外に出ると、入口に霊柩車が停まっていた。
おじいちゃんの棺も、車の前に置かれている。
「男性陣、一緒にお願いします!」
安田さんの呼びかけで、男性スタッフと父、はるくんおじちゃん達は、
棺の周りをぐるっと囲んだ。
まるで事前に打ち合わせをしていたかのように、みんなの動きが早かった。
僕はどうしていいか分からなくて、その場で立ち尽くしていた。
安田さんが
「みんなと一緒に棺を持って」と、小声で囁き、
僕の背中をそっと押した。
棺を持つのは初めてだ。
みんなで棺を霊柩車に入れる。
僕は少しだけ……大人になったような気がした。
想像していたよりも、ずっしりと重かった。
あのときの感触は、今でもよく覚えている。
