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【連載小説】銀色のシェイカー 第8回「くしゃくしゃの笑顔」

全13回・完結
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翌朝、慌ただしく朝食をすませ、制服に着替えて家を出る。
良い天気だが、とても寒い朝だった。
たかばあちゃんを家まで迎えに行き、葬儀場に向かう。
少し早く着いたので、控室でお茶を飲んでいると、
カレーライスの匂いがしてきた。
 
葬儀場にカレーライスがあるわけないし……
僕は不思議に思い、控室を出ようと靴を履いた。
祭壇の前に安田さんが立っている。
そして、祭壇のお酒やお菓子の横に、
分厚いお肉の入ったカレーライスが見えた。
 
本当にあった!何故ここにカレーライスが?!
僕が驚いているのを見て、安田さんが、
「美味しそうだろう?
おじいちゃんの好物が、お肉とかカレーライスって、
おばあちゃんに聞いたから、僕が作ったんだ」
と言ってきた。

ますます意味が分からない。
僕が唖然としていると、
「こう見えて、料理も得意なんだ」
と言ってきた。
 
得意なのは、いいとしてもさ……
お葬式でカレーライスをチョイスしてくるこのセンス……
思わず笑いそうになってしまったことは、
ここだけの秘密にしておこう。
 
あとから母に聞いた話だが、
お通夜の打ち合わせ中に、おじいちゃんの好きな食べ物の話になり、
「じゃあ僕がカレーライスを作ります」と安田さんが言ったから、
「お任せします」と答えたらしい。
 
断る選択肢もあったと思うけど。
何かこう……もっと上品な、
匂いの出ない料理にしてもらうことも、
出来たと思うんだけどなぁ……


お葬式は、ぴったり10時に始まった。
今日もお坊さんはいないから、読経はない。
お焼香が終わり、エレクトーンをずっと聴いていた。
昨日は落ち着かなかったが、この環境にも少し慣れてきた気がする。

しばらくして、安田さんが僕に声をかけてきた。
いよいよ僕が、カクテルを作ることに……

立ち上がると、会場の後ろのほうにテーブルが用意され、
白いテーブルクロスがかかっていた。
氷とお酒と牛乳。そして、あのシェイカーが並べてあった。

「皆さんどうぞ、近くで一緒に見てあげてください」
スタッフの声で、皆が後ろに集まってきた。
エレクトーンの音楽は、いつの間にか昭和歌謡から、
ジャズに変わっている。

安田さんの指示を受けながら、シェイカーにお酒や牛乳を入れる。
こぼさないように……
一滴でもこぼしたら、白いテーブルクロスが赤く染まってしまう。
緊張が走る……

シェイカーの振り方は、安田さんが手本を見せてくれた。
握り方もきっちり教えてもらい、とりあえず持ってみる。
全員が僕を見ている。
僕は恥ずかしくて、なんだかよく分からなくて、がむしゃらに振った。
その姿が滑稽だったのか、一瞬、皆がふわっと笑顔になった。

安田さんが
「もう少し、角度をこう……」と、僕の手の位置を少し変えてくれた。
おかげで、さっきの安田さんと同じような感じで振ることができた。
シャカシャカシャカッと軽快な音がして、すごく気持ちが良かった。
すかさずカメラマンが近づいて、
パシャパシャパシャッと僕の写真を撮っている。

まるでモデルにでもなった気分だ。
思わず、口元がゆるんでしまう。

「OK!じゃあ、こっちに注いで」
安田さんから差し出されたのは紙コップだった。
なんでグラスじゃないんだろう?
不思議には思ったが、言われたとおり、紙コップにカクテルを注いだ。

僕以外が全員、椅子に戻ったので、僕は紙コップを持って前にすすんだ。
祭壇にそっと置く。
紙コップの隣に、安田さんがシェイカーを置いてくれた。

キラリと光るシェイカーを眺めていると、
背の高い安田さんは少しかがんで、僕の耳元に顔を近づけた。
「なかなか、サマになっていたぞ。大活躍だったな」
と、小さな声で言った。

僕は照れて笑いそうになりながら、おじいちゃんの遺影を見上げた。

とたんに、顔が熱くなる。
あれ……? なんだろう?
僕は戸惑った。
気がついたら、涙がじわっとあふれそうになる。
さっきまで笑っていたのに?
いや、今も笑顔のはずなのに?
僕は顔をくしゃくしゃにして、一生懸命、笑顔を作った。
涙が床に、ボタっと落ちる。
僕は慌てて、制服の袖でゴシゴシと顔を拭いた。
そのまま、しばらく動けなかった。
こんな顔、親に見られてたまるかよ……

そんな僕の気持ちを察してか、
安田さんは黙ったまま、ずっと僕の隣にいてくれた。

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