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【夫婦関係】 財布を見せない夫婦は、何を守っているのか

夫婦仲があまりよくないという話を聞いていると、
決まってお金の話が出てくる。

「私はこれだけ家に入れている。」
「向こうはもっと出せるはずなのに、出さない。」
「実際にいくら稼いでいるのか、よく知らない。」
「貯金がどれくらいあるのかも知らない。」

そんな話だ。

最初は、
単に家計の分担でもめているのだと思っていた。
しかし、そこが問題ではないと思い始めた。

問題は、家にいくら入れるかだけではない。
相手がどれくらい稼いでいて、
どれくらい持っているのかを知らない。
そこに、もっと大きな問題があるのではないか。


もちろん、財布が別だから夫婦仲が悪い、
という話ではない。
口座は別でも、
お互いの収入や資産をだいたい把握している
夫婦もいる。

家にいくら使うのか、
住宅や教育にいくらかけるのか、
大きなお金については
二人で話し合って決めている。

そういう夫婦なら、
財布が別でも、
実質的にはそれほど「別」ではない。

私が気になるのは、もう一つのタイプだ。
相手の収入を知らない。
資産も知らない。
家計には決められた金額だけを入れる。
残りについては、お互いに干渉しない。

こうなると、家計への負担をめぐる話は、
次第に単なる金額の話ではなくなる。

「本当にそれしか出せないのか」
「もっと持っているんじゃないか」
という疑いが入り込む。

そして、相手が趣味や自分の買い物には
かなりお金を使っているのが見えると、
「家族には出さないのに、
自分にはそんなに使うんだ」となる。

もはや、数万円の家計負担の話ではない。
私はこの人にとって、どれくらい大事なのか。
そういう話になっている。


ただ、財布を別にすることには、
別の見方もある。
お互いのプライバシーを尊重している、
とも言える。

「あなたのお金には口を出さない。
だから私のお金にも口を出さない。」

それは一見すると、
かなり成熟した関係にも見える。
相手を束縛しない。
何でも知ろうとしない。
それぞれが自立している。
確かに、そういう夫婦もいるだろう。

でも、それは本当に「尊重」なのだろうか。
お互いに遠慮して、
相手の深いところには踏み込まない。
その代わり、
自分の深いところにも踏み込ませない。
そうやって、
暗黙のうちに取り決めが
できているだけなのかもしれない。

お金は、意外にプライベートなものだ。
いくら稼いでいるのか。
いくら持っているのか。
何にいくら使っているのか。
そこまで相手に見せるのは、
自分のかなり深いところを見せることでもある。
だから、自分も見せたくない。
その代わり、相手にも聞かない。
「相手のプライバシーを尊重している」
というのは建前で、
実際には、自分も見られたくないから、
相手のことも見ない。
そんな関係になっていることもある。

そうすれば、表面的には平和でいられる。
でもそれは、深いところまで
踏み込まないことで保たれている
平和なのかもしれない。
夫婦には、相手の領域に踏み込まないことが
必要な場面もある。
ただ、踏み込まない範囲が大きくなるほど、
「尊重」と「遠慮」は近づいていく。


考えてみれば、
お金は夫婦にとって少し特殊な存在だ。
夫婦になっても、仕事は別々にする。
友人も別々にいる。趣味も違っていていい。
でも、お金はそう簡単にはいかない。
家を買う、子どもを育てる、病気になる、
どちらかが働けなくなる、老後を迎える
——結婚生活を長く続ければ、
お金の問題は必ず二人の問題になる。

それなのに、
「自分がいくら持っているかは、
相手には関係ない」という線を
強く引いたままにしている。
それは単なる家計管理の好みなのだろうか。
私は、そこにはその夫婦の関係が
少し表れているような気がする。


実際、お金の管理方法と
夫婦関係について調べた研究もある。

Gladstoneらの研究では、
家計をより共同で管理しているカップルほど、
夫婦関係の満足度が高く、
この関係を長く続けたいという
気持ちも強かった。
英国の長期追跡データでも、
財布を完全に分けていたカップルの方が、
その後に関係を解消する割合が高い傾向があった。

もちろん、これだけでは、
仲がいいから財布を一緒にしているだけかもしれない。
ただ、新婚カップルを共同口座を作るグループなどに
ランダムに分けて追跡した別の研究では、
共同口座を作ったカップルは、
その後も夫婦関係の質があまり下がらなかった。
お金を共同のものとして扱うかどうかは、
夫婦関係と無関係ではなさそうだ。


ただ、私がより気になるのは、
財布を一緒にすることそのものではない。
相手に、自分のお金の中身を見せられるかどうかである。

なぜ、見せたくないのだろう。
相手を信用していないからかもしれないし、
自分のお金は自分の判断で自由に使いたい、
という単純な感覚かもしれない。
いつか別れることになったときのために、
という打算が混じっていることもあるだろう。
あるいは、先ほど書いたように、
自分のプライバシーを守りたいから、
相手のプライバシーにも踏み込まないだけ
なのかもしれない。
理由は、一つとは限らない。

だから、「資産を開示しない夫婦は仲が悪い」
と決めつけるつもりはない。
ただ、一つだけ思う。
この人とずっとやっていく、
と本当に思っているなら、
自分の経済状態を完全に隠しておく必要が、
どれくらいあるだろう。


たぶん、財布は夫婦仲の原因ではない。
夫婦仲が悪くなったから、
お金を見せなくなることもある。
お金を見せないから、
疑いが生まれることもある。
どちらが先なのかは分からない。

でも、相手を信用できなくなると、
自分の財布を守りたくなる。
財布を守ると、中身を見せたくなくなる。
中身が見えないと、相手は疑う。
「本当はもっと持っているのではないか。」
「どうして家族には出してくれないのか。」
そうして、また信用が減っていく。

反対に、相手を信用していれば、
お金について話しやすい。
お金について話せれば、
二人で将来のことを考えやすい。
そうすると、ますます「自分」と「相手」ではなく、
「二人」で生活している感覚が強くなる。

財布は、夫婦仲を決めるものではない。
でも、どこまで相手の内側に入ることを許しているのか。
この先も二人でやっていくつもりなのか。
それを見る、一つの試金石にはなるような気がする。

夫婦の財布には、案外、夫婦仲が出る。


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