【超短編小説】らぶこめが、はじまるね!
本文:
遅刻する……。
そう思いながら、私は、パンを咥えて道を走っていた。
いや、本当なら、パンを咥えて走る必要なんてなかった。
家から学校までは徒歩七分だし、朝食を食べる時間も十分にあった。
でも、今朝は、どうしてもそうしなければならない気がしたのだ。
「ちこく、ちこくー、もぐ!」
わざわざ口に出してみる。
慌てて、パンを落としそうになり、手で戻す。
誰もいない住宅街の細道に、自分の声が間抜けに響いた。
曲がり角に差しかかった、その瞬間だった。
「うわっ!」
「きゃっ!」
男子生徒とぶつかった。
私は、尻もちをつき、パンが地面へ落ちた。
「あ、ごめん!」
「こっちこそ……」
顔を上げる。
知らない男子だった。
少し長めの黒髪で、ちょっと彫りの深いカッコイイ感じの男子だった。転校生だろうか?
彼も私を見つめていた。
じっと見つめ合う――一秒、二秒、三秒。
しかし、何も起きなかった。
「何……?」
「いや」
男子が首を傾げた。
私も、首をかしげた。
その時、足元から音がした。
「キュイ」
落としたパンだった。
パンの中央が、ぐにゃりと盛り上がった。
「え?」
焦げ目が左右に裂けた。
中から、青白く光る巨大な眼球が現れた。
「キュイイイ」
「パンが鳴いた!」
「そこなのか!?」
男子は、叫んだ。
パンは触手のようなものを生やし、ぺたぺたと道を歩き始めた。
私達が硬直していると、窓の外から小さな光が飛び込んできた。
拳くらの大きさでの生き物だった。
丸い頭。大きな目。半透明の身体をしている――そう、どう見ても宇宙人だった。
宇宙人は、パンのようなナニカを確認すると、空中に文字を表示した。
『接触イベント:成功』
「接触イベント?」
私は、その文字を読み上げた。
宇宙人が嬉しそうに拍手した。
「すばらしい!」
声だけは、妙にアニメの小動物みたいな声で、可愛かった。
「ここから、あにめの せかいに、しょうたい、しよう!」
「は?」
宇宙人が手を振った。
次の瞬間、周囲の空間がねじれた。
赤、青、黄色、紫――絵の具を混ぜたような渦が広がっていく。
「待って待って、意味分かんない!」
「逃げるぞ!」
男子が、私の手をつかんだ。
その瞬間、私は少しだけドキッとした。
まずい――この展開はまずい、と思った。
でも、もう遅かった。
私達は、渦へ吸い込まれた。
* * * 気がつくと、桜が舞っていた。
空は、不自然なほど青い。
校舎は輝き、窓には光がきらめいている。
「な、なに?」
私は、自分の手を見た。
線で描かれていた。
「えええええっ!」
髪が風になびくたび、さらさらと効果音が聞こえる。
向かいを見ると、先程の男子も、二次元になっていた。
しかも、現実より、よっぽどイケメンだった。
「お、お前……」
「な、何よ?」
彼の頬が赤くなった。
なぜか、私の頬も勝手に赤くなる。
桜の花びらが絶妙なタイミングで二人の間を横切った。
空中に巨大な文字が現れる。
『らぶこめが はじまるね!』
「始めるな!」
私は、叫んだ。
すると、先程の宇宙人が現れた。彼(?)も、アニメ的な姿になっている。
「どうして?」
「どうしてって……私たち、今日初めて会ったのよ!」
「だから、いい」
宇宙人は、宙返りした。
「あなたたちのせかいでは、こいが、へっている」
「恋?」
「出生率、婚姻率、交際率、全部、低下している」
突然、宇宙人の背後にグラフが出た。
急に生々しいと思った。
「われわれは、研究した」
宇宙人は、続けた。
「にんげんは、なかなか、りそーすふるな、しゅぞく。ぜつめつするのは惜しい」
「ぜ、絶滅……?」
その言葉と二次元のギャップに、思わず両手の拳を握って、口の前に持ってくる。
……って、何年前のポーズだんだ、これ?
「げんじつでは なかなか こいをしない。しかし――」
そんな様子も気にせず、宇宙人が指を立てた。
「――らぶこめでは、する」
「えー、それって、フィクションよ!」
「だから、げんじつを、フィクションにした」
「え……?」
思わず、男子と顔を見合わせた。
ものすごく雑な解決方法だった。
「待って!」
男子が言った。
「つまり、俺たちは、人類を恋愛させる実験台なのか?」
「ちがう」
宇宙人は首を振った。
「あなたたちは だい一ごう」
嫌な予感がした。
「第一号?」
宇宙人が空を指さした。
そこには、巨大な数字が浮かんでいた。
『変換進行率 0.00000001%』
遠くの街が、じわじわと二次元へ変わっていた。
「まさか……」
「ちきゅうぜんぶを、らぶこめにする」
宇宙人は、満面の笑みを浮かべた。
「そうすれば、みんな、しあわせ!」
「……ならないから!」
私達は、同時に叫んだ。
宇宙人は不思議そうに首を傾けた。
「でも、ちきゅうじんは、ずっと、いっていた」
「何を?」
「げんじつより、にじげんのほうが、いい、と」
「それは……」
反論できなかった。
その瞬間――道の先から声が聞こえた。
「お、お前のことなんか、べつに好きじゃないんだからね!」
「幼なじみのお姉ちゃんと結婚するって約束したよね?」
「せ、先輩! 私と付き合ってください!」
世界中で、何かが始まっていた。
宇宙人は、嬉しそうに両手を広げる。
「らぶこめが、はじまる!」
私は、隣の男子を見た。
すると、男子も私を見た。
また、頬が勝手に赤くなる。
背後で桜が舞った。
「ところで……」
私は、尋ねた。
「この世界、失恋したらどうなるの?」
宇宙人の笑顔が止まった。
「…………」
「おい」
男子が眉をひそめた。
「まさか、考えてないのか?」
宇宙人は、慌てて空中のマニュアルをめくった。
「えーと……」
……そして、小さな文字を見つけた。
「何?」
宇宙人は読んだ。
「『しつれんしたキャラクターは、つぎのシーズンから とうじょうしないことがあります』」
私たちは、空を見上げた。
地球の変換率は、もう一パーセントを超えていた。
その日、人類は初めて知った。
二次元が現実より優しいなんて、誰も保証していなかったのだ。
(了)
あとがき&日記:
……という感じで、またショートショートです。最近、Codexでアニメを作ったりゲームを作ったりしていたんですが、その『空を飛ぶ夢』のゲームをちょこちょこ直していたら、一週間分の使用量がまた切れてしまい――15日まで使えなくなりました……。
ということで、Bionicもっとがんがれ! と、今度は、ローカルのComfyUIを操作させるべく、昨日の夜にV100を別PCに入れて、ついでにRTX3050も移し……別PCのV100のLLMを使ってBionicでまた短編アニメをComfyUI MCPで作らせようと、↑のようなものを書いてみた訳なんです。
……ところが、エラーを吐きまくって、残念ながらComfyUIを使ったローカルの映像生成には、まだ成功しておりません……。いかにChat GPTのAstraが、PC操作の点で優秀かというのがよく分かりました。なんか、非常に使えるんで、最近、Pro加入者が激増している、というのがよく分かりますね(苦笑)。まあ、趣味なので、そこまでお金かけられないんですが(更に苦笑)。
そんな感じで、それでは、また!
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