幸せのパサランと不幸なケセラン | 人生のやることリスト#4
「ねぇパサラン。あなたどうしていつも楽しそうなの?」
『ケセラン、それは楽しいからだよ。世界は実に楽しい』
「そうなんだ。私は楽しくない」
『どうしてだい?』
「だって毎日夜が来る。世界は暗闇に閉ざされてしまうじゃない」
パサランは笑った。
『ケセランにはそんな風に見えているんだね』
「パサランにはどう見えるの?」
『夜のことかい?』
「うん」
『夜は美しい。天には星がまたたき、地では虫たちが愛のメロディを奏でる』
ケセランは首を振った。
「私は怖い。狼も出るし、真っ暗で何も見えないもん」
『暗いから星は輝けるのさ。昼は見えないだろう?本当はそこにあるのに』
「わかんない!」
ケセランは飛んでいってしまった。
・・・。
それから何年も経った。
ある夜。
パサランはひとりで空を見上げていた。
星は変わらず綺麗だった。
虫たちも鳴いていた。
だけど。
なぜだろう。
少しだけ寂しかった。
その時だった。
遠くの草むらから声がした。
「パサラーン!」
聞き慣れた声だった。
振り返ると、
そこには少し大きくなったケセランがいた。
『おや。久しぶりだね、ケセラン』
「ねぇ!パサラン!聞いて!」
『なんだい?』
「昔は夜が怖かった」
『うん。そうだったね』
「でもね!」
ケセランは空を見上げた。
「夜の空は素敵で、虫の声も心地よかった」
パサランは黙った。
ケセランは続けた。
「パサランの言った通りだったの!」
『そうかい』
「うん!」
けれど。
パサランはなぜだか少し寂しそうだった。
「どうしたの?」
ケセランは首をかしげた。
パサランは空を見上げたまま言った。
『僕は夜が怖くなった』
「どうして?」
『わからない』
「だって、夜は綺麗なんでしょう?」
『そうだね』
パサランは小さく笑った。
『でも、気づいたんだ』
「何を?」
『星が綺麗だと思えたのも』
「うん」
『虫の声が心地よかったのも』
「うん」
『夜が好きだったのも』
ケセランは黙って聞いていた。
『全部、君がいたからだったんだなって』
しばらく風だけが吹いていた。
やがてケセランは笑った。
「なーんだ」
『ん?』
「じゃあ大丈夫」
『どうして?』
ケセランはパサランの手を取った。
「これからは、私がいるから」
パサランは少し驚いた。
それから空を見上げた。
星は昔と同じように輝いていた。
虫たちも変わらず歌っていた。
けれど、
何かが少しだけ違って見えた。
『そうか』
パサランは笑った。
『じゃあ、夜はもう怖くないね』
ふたりは手をつないだまま、
しばらく星空を見上げていた。

ーーおまけーー
遠くの草原では、
一組の狼が月明かりの下を駆けていた。
昔のケセランなら、
きっと怯えていたことだろう。
けれど今夜は、
ただ楽しそうだなと思った。
完

