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確定を待ちながら、準備は先に進める――令和9年度概算要求×経営OS、10日間の総括

1.前回の続き――利益計画から、シリーズの総括へ

前回は、投資計画を設備一覧ではなく利益計画にする必要性を扱いました。10日間を通して、宣言、投資、省力化、賃上げ、M&A、資金、税制と、令和9年度概算要求の各論点を経営OSに接続してきました。最終回は、これらを一度つなぎ直し、年末までに何を確認し、今から何を始めるべきか、を整理します。実務面は、姉妹編のブログをご覧ください。

このシリーズを通じて一貫して守ってきたのは、要求段階の情報を決定事項として扱わないという姿勢と、その状態でも経営判断を先送りにはしないという、2つの態度の両立です。この両立が可能なのは、確定を待つべき対象と確定を待たずに進められる対象を、常に分けて考えてきたからです。最終回でも、この2つを分けたまま総括します。

2.10日間で見てきたことを、8つの課題に戻して整理する

このシリーズは、前シリーズ「8つの分野横断的な課題×経営OS」の続きとして始まりました。10日間の内容を8つの課題に戻して整理すると、新技術立国とスタートアップは4日目・5日目の成長投資とAI・省力化、金融は8日目の資金設計、労働市場改革は5日目の省力化と人員配置、賃上げ環境整備は6日目の原資設計、そして、サイバーセキュリティは5日目のルールOSの議論に、それぞれ対応しています。

人材育成と家事等の負担軽減は今回のシリーズでは前面には出しませんでしたが、5日目のヒトOS、6日目の採用力の議論の中に含まれています。8つの課題は独立した論点ではなく、令和9年度概算要求という1つの予算の中で、互いに連鎖して現れています。

この対応関係を確認する意味は、単なる前シリーズとの整合性チェックではありません。8つの課題は業種や規模を問わず中小企業が向き合う経営課題として整理したものであり、令和9年度概算要求は、その課題群に対して国がどう予算を配分しようとしているかを示す資料です。8課題という切り口を持っていれば、来年度以降、予算の名称や制度設計が変わっても、自社にとっての論点が、どこに移動したのかを見失わずに済みます。制度名は年度ごとに変わりますが、経営課題そのものは、そう簡単には変わりません。

3.概算要求は「補助金一覧」ではなく、企業行動の設計図である

10日間を通して確認してきたことは、成長投資、規模目標、賃上げ、報告・検証が別々の制度としてではなく、私には、一体化する方向へ向かっているように見えるという構造です。

100億・10億・1億の各規模宣言、賃上げの前提条件化、M&A・グループ化税制による規模確保、これらが重なることで、補助金の性格は設備投資への補助から、規模と賃上げの約束に対する対価へと移りつつあると私は読んでいます。これは政策資料から確定できる制度事実ではなく、10日間の分析を通して私が至った構造的な解釈です。

この解釈が正しいとすれば、令和9年度以降、投資計画、規模目標、賃上げ計画をばらばらに用意している企業は、どの制度に対しても、説明力を欠くことになります。

逆に、この3つを1本の中期経営計画としてまとめられている企業は、複数の制度に、同時に対応できる土台を持つことになります。

制度活用は目的ではなく、経営計画を実現するための手段です。制度ごとに個別の書類を作るのではなく、1つの経営計画から必要な部分を制度ごとに切り出して提出できる状態を目指すことが実務上の効率にもつながっていきます。

この解釈を踏まえると、読者に持ち帰ってもらいたいのは、事業名や制度名を覚えることではありません。持続化補助金という名称のまま、対象が成長志向の宣言者を含む方向に広がったように、事業名と実際の対象は一致するとは限りません。対象、要件、KPI、実行体制を、名称ではなく中身で確認する姿勢が、10日間を貫く一貫した方法でした。

この姿勢は、制度が確定した後にも引き継がれます。公募要領が公表された時点で事業名を見て「自社には関係ない」と読み飛ばすのではなく、対象、要件、評価軸を実際に確認する作業を毎回省略しないことが重要です。

3日目で扱った通り、私には、政策の重心が成長志向の事業者へ寄っているように見えており、今後の制度設計次第では、対象範囲が変化する可能性があります。読み飛ばした事業の中に、実は自社が対象に含まれる制度が紛れていることは、十分にあり得ます。

4.自社の現状維持は、本当に持続可能か

1日目で示した4条件価格、原価、人件費・生産性、市場・顧客に立ち返ります。価格転嫁ができないままで人件費だけが上昇する状態が続けば、現状維持は成立しません。3日目で扱った通り、顧客数や受注件数が少ないことは、商品、工程、営業モデルの再現性を弱め、規模がなければ検証も改善も進みにくくなります。

これらの4条件は、1日目に扱った時点では、企業単位の診断として提示しました。しかし10日間の議論を経た今、この4条件は、企業単位だけでなく、事業セグメント単位、取引先単位でも当てはめて考えるべきものだと分かります。同じ企業の中でもある取引先との関係では価格転嫁ができていても、別の取引先との関係ではできていない、ということは珍しくありません。

4条件を粒度を変えて繰り返し当てはめることが、現状維持の実態を、より正確に把握する方法です。

ここで、7日目で確認した論点も接続します。進路判定は、企業全体で1つに定まるとは限らず、事業セグメント毎に異なる進路を歩むことがあります。現状維持を選んでいるつもりの事業が、実際にはB守り固めとして能動的に原価と価格を守れているのか、それともC再構築を先送りしているだけなのかは、セグメントごとに数字を分けて見なければ判別できません。

全社の売上高だけを見て現状維持を判断すると、好調な部分が不振な部分を隠してしまうことがあります。

複数の事業や取引先区分を持つ企業ほど、この確認は重要になります。主力事業が横ばいでも周辺事業が緩やかに縮小していれば、全社の数字は横ばいに見えたまま、内実は徐々に痩せていきます。

逆に、主力事業が縮小していても、新たに立ち上げた事業が伸びていれば、全社の数字は改善しているように見えても、主力事業の縮小に対する手当てが遅れることがあります。

全社の合計だけでなく、事業単位、取引先単位で数字を分解して見る習慣が、現状維持の実態を正確に把握する前提になります。

5.経営OSの5ステージと進路判定で、優先順位を決める

経営OSの5ステージ、時流、アクセス、商品性、経営技術、実行に沿って、自社の次の課題を特定します。

時流は、今回の概算要求のような政策・市場・技術の変化を捉えられているかです。アクセスは、資金、技術、人材、販路、供給、信用の、どこが不足しているかです。商品性は、顧客が求め、支払可能な商品を提供できているかです。経営技術は、複数年度の投資とKPIを管理し、政策の言葉を自社の言葉に翻訳できているかです。実行は、責任者、期限、資金、現場運用まで落とし込めているかです。

進路判定では、Aの成長を選ぶなら成長投資、販路、供給能力、人材の拡張が課題になり、Bの守り固めを選ぶなら価格、原価、キャッシュ、業務標準を整えることが課題になり、Cの再構築を選ぶなら不採算事業、顧客、商品構成、組織の入替が課題になります。

Dの承継・売却、Eの計画的撤退は、これらとは別の出口設計として扱う必要があります。7つの有事OS、現金、原価、ヒト、AI、ルール、連鎖、環境のどこにリスクが集中しているかも、進路によって変わります。

これら5ステージと進路判定を組み合わせると、自社が次に着手すべき課題の優先順位が見えてきます

時流とアクセスに問題がなくても、商品性が定まっていなければ投資は空回りします。商品性と経営技術が整っていても、実行の体制、つまり誰が期限と資金を管理するかが決まっていなければ、計画は計画のまま止まります。5つのステージのうちどこが最も弱いかを特定し、そこから手をつけることが、限られた時間と資金を有効に使う順序です。

6.年末までに確認すべきこと、今から始める準備

年末までに確定を待つべき事項があります。令和9年度予算の最終額と個別事業への配分、基金・単年度補助・国庫債務負担のどの形式が採用されるか、10億・1億宣言の正式な名称と登録・公表・取消の要領、賃上げ要件の水準と対象期間、雇用者ゼロの企業の取扱い、省力化・デジタル化・AI関連制度の統合の有無、税制改正要望の採否と控除率、適用期間です。これらは、12月の与党大綱・政府大綱、翌年の法案成立を経て、順次確定していきます。

一方で、確定を待たずに始められる準備もあります。90日でできることは、自社の課題、売上目標、投資候補、賃上げ原資、相談先の整理です。

1年でできることは、投資の実行、採用、業務標準化、価格改定、金融機関との対話の実行です。

3年でできることは、売上規模、粗利、付加価値、人員、供給能力、承継や再編の目標を検証することです。

公募要領が公表された時点で、自社の投資仮説をその要件に当てはめられる状態を、先に作っておくことが、10日間を通して繰り返し伝えてきた実務上の備えです。

この90日、1年、3年という時間軸は、それぞれ独立した計画ではなく、入れ子の関係にあります。

90日で整理した課題と相談先が1年での投資実行や金融機関との対話の土台になり、1年での実行結果が、3年後の売上規模や供給能力の検証材料になります。年末に大綱が固まり、翌年に公募要領が公表された時に、この一連の準備が既にできている企業と、その時点から準備を始める企業とでは、動き出しやすさに差が生まれます。制度の確定を待つ期間は何もしない期間ではなく、確定した瞬間に動ける状態を作るための期間です。

7.今日の結論――確定を待ちながら、準備は先に進める

10日間繰り返し確認してきたのは、要求額を決定額と誤認しないこと、令和8年度運用中の制度を令和9年度確定制度として扱わないこと、未確定の制度名称や統合方針を断定しないことです。同時に、これらの原則は、経営判断を先送りする理由にはなりません。補助金の採択そのものではなく、自社の採算性、実行力、成長可能性を中心に置き、政策の方向を、自社の経営OSと中期計画に翻訳することが、このシリーズを通した一貫した姿勢です。

この姿勢は、令和9年度概算要求という今回の題材が過ぎ去った後も、変わらず使えるものです。予算は毎年編成され、制度は毎年見直されます。その都度、新しい制度名を覚え直すのではなく、時流、アクセス、商品性、経営技術、実行という5ステージ、進路判定、7つの有事OSという枠組みを自社の中に持っておけば、どのような制度が出てきても、自社にとっての意味を同じ手順で読み解くことができます。制度は変わっても、経営の型は繰り返し活用できます。

本シリーズは、今回で完結します。年末の政府予算案、税制改正大綱、令和9年度の公募要領が公表された段階で、確定した内容を改めて確認する続編を検討しています。

政策の方向を読み、自社の経営計画へ翻訳し、制度が確定した時点で改めて適用可否を判断するという、3つの姿勢をこのシリーズを通じて持ち帰っていただきたいと思います。

【今日の3つの問い】
①自社はA成長、B守り固め、C再構築のどの進路にあり、今後90日で、何を決めるべきか。
②令和9年度の制度が成立しなくても、現在の投資、賃上げ、承継計画等は成立するか。
③年末までに確認する情報と、今すぐ自社で始める準備を分けて整理できているか。

10日間、お読みいただきありがとうございました。

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