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売上規模はなぜ問われるのか――100億・10億・1億「宣言」の正しい読み方(令和9年度概算要求×経営OS 3日目)

1.前回の続き――数字の構造から、宣言の構造へ

前回は中小機構運営費交付金6,980億円という数字を入口に、補正予算中心だった大型施策を、当初予算へ束ねようとする構造を確認しました。数字を鵜呑みにせず、内数、基金、後年度負担という区分を分けて読む姿勢が必要だと述べました。

今回は、同じ姿勢で、もう1つの重要な論点を読み解きます。100億・10億・1億という3つの数字です。これらは、令和9年度概算要求のあちこちに登場しますが、同じ制度の階段だと誤解されやすい論点です。今回は、この3つが何を意味し、何を意味しないかを整理します。実務面は、姉妹編のブログをご覧ください。

この論点を扱う理由は、単なる制度の混同を防ぐためだけではありません。規模目標をどう扱うかという問題は、前回で扱った複数年度の投資計画や、次回以降で扱う、成長投資、賃上げ、承継といった論点すべての土台になります。自社がどの規模を目指すのかが定まらないまま、個別の補助金の是非だけを検討しても、投資の判断軸は定まりません。

2.100億・10億・1億は、同じ制度ではない

100億宣言は、売上高100億円を目指す中小企業が現状、目標、課題、具体策等を宣言し、ポータルで公表する現行制度です。

令和8年3月27日時点で、公表件数は3,000件を超えています。中小企業成長加速化補助金の対象は、原則として売上高10億円以上100億円未満で、100億宣言の公表等の条件を満たす企業です。

10億宣言(仮称)は、新事業進出・ものづくり補助事業の令和9年度要求資料に成長志向型の中小企業をより多く創出する観点から、売上高10億円を目指す宣言を原則として要件化する、という記載があります。

1億円は、持続化補助金の要求資料に、例えば1億円を目指すなど、売上規模を拡大し成長志向の経営計画(仮称)を宣言する者を含む、という記載があります。

ここで押さえるべきは、この3つが同じ性質の制度ではないという点です。100億宣言は運用中の制度で、既に3,000件を超える実績があります。10億は令和9年度要求上の方針であり、1億は例示にとどまります。10億宣言、1億宣言という名称も、正式名称、登録要領、開始時期は、いずれも現時点では確定していません。100億・10億・1億を、1つの法定認定制度、または自動的な昇格制度とみなす根拠は、現在の資料からは確認できません。

ただし、10億・1億についても、令和9年度以降の方針として既に言及されている以上、国が成長志向の企業を支援するとういう方針を明確に持っていることは確かです。この方針を踏まえると、今後の制度設計で、申請に必要な要件、加点要素、優遇措置等が段階的に付加されていく可能性は十分にあると考えます。

100億宣言が、現行制度として先行している背景には、中小企業成長加速化補助金という具体的な補助制度と結びついている事情があります。成長加速化補助金の3次公募は、原則として売上高10億円以上100億円未満で、100億宣言の公表等の条件を満たす企業を対象とします。

つまり、100億宣言そのものは規模を目指す企業の意思表示ですが、実際の補助制度と結びつくことで、宣言に実務上の意味が生まれています。10億・1億についても、今後同様に具体的な補助制度と結びつく可能性は十分考えられます。

3.「宣言」が求められる背景は、売上規模そのものにある

なぜ政策が、規模の宣言を求めるのでしょうか。売上規模が大きくなると、仕入単価のスケールメリット、固定費の吸収力、投資に回せる絶対額、採用力が変わります。同じ利益率でも、売上規模が違えば、投資できる金額も、採用できる人数も変わります。

もう1つ、あまり語られない観点があります。それは、売上は、顧客からの回答の集積だという点です。1件の受注は、顧客が自社を選んだという1つの回答です。件数が少なければ、自社の商品やサービスが本当に選ばれているのか、たまたま選ばれたのかを見分けにくくなります。

件数が増えれば、価格設定や商品設計の仮説を検証し、再現性のあるモデルへ近づけることができます。売上目標は見栄のための数字ではなく、投資、組織、供給能力を設計するための基準です。

なお、売上を追うよりも利益を追うべきだという考え方も、経営の現場ではよく語られます。ただし、この考え方は、既に一定の規模を作った企業が、規模の追求から効率の追求へ軸足を移す局面で有効な考え方です。まだ規模を作れていない企業にそのまま当てはめると、検証件数が増えないまま効率だけを追い、モデルの確立が進まないことがあります。

具体的に考えます。受注件数が年間十数件にとどまる企業と、年間数百件の受注がある企業では、価格設定や商品構成の見直しに対する検証の精度が、まったく異なります。件数が少ない企業は、1件の失注や1件の値引き要請が、経営判断そのものを左右しかねません。件数が多い企業は、一部の顧客の反応にぶれても、全体の傾向から仮説を検証できます。規模を追うことの意味は、この検証の母数を確保することにもあります。

もちろん、やみくもに採算を度外視して売上・件数だけを追え、という意味ではありませんが、一定の売上があってこそスケールメリットの実現や次の投資の財源も捻出しやすく、顧客の反応を蓄積して、ビジネスモデルの確立を行うためには、やはり売上規模は一定額あった方が望ましいと言えます。

また、国や地域、事業者同士で見ても、売上規模が大きいことは、それだけ多くの経済的波及効果、雇用や賃上げに繋がりやすいことから、一定規模の売上を目指す成長志向の企業を国も支援しよう、という流れには必然性及び合理性があると言えます。

4.補助金は「投資への補助」から「約束への対価」へ移りつつある

100億・10億・1億の宣言に共通するのは、規模目標の宣言と経営計画や成果の確認を重視する方向性です。この方向性が意味するのは、補助金の性格が、設備投資そのものへの補助から、規模と賃上げの約束を重視する方向へ移りつつあるのではないか、ということです。

この見立ての根拠は、100億宣言、10億の要件化方針、1億の成長計画の例示という3つの記載に共通して、成長目標や経営計画を重視する方向性が見られる点にあります。単に設備を導入して終わりではなく、規模目標に向けた進捗を経営計画の中に位置づけることが意識されているように見えます。

賃上げ要件についても、中小企業庁の資料には早期の賃上げに向けた補助金の見直しという記載がありますが、増加率、対象期間、扱いの詳細は示されていません。したがって、令和9年度公募での具体的な要件は、現時点では未決定です。

一方で経済産業省の概要資料では既存事業について10億宣言や中長期計画、金融機関の姿勢を審査項目にする方向性が示されています。審査の視点が、単年度の収支だけでなく、複数年度の計画と金融機関との関係性にも広がりつつあるという傾向は、読み取ることができます。

5.「持続化」という名称だけで、対象を判断してはいけない

持続化補助金という名称から、この制度を小規模で現状維持を目指す事業者向けの制度だと理解している経営者は少なくありません。

しかし、令和9年度の要求資料には成長志向の経営計画を宣言する者を含むという記載があります。名称は持続化のままですが、対象に成長志向の宣言者が含まれる方向性が示されています。

ここから言えるのは、補助金の名称だけで対象を判断してはいけないという点です。名称ではなく、対象、要件、評価軸を確認する必要があります。

同時に、小規模だから成長は不要、成長企業だけが対象、というような二分法も避けるべきです。B守り固めを選ぶ企業にも、C再構築を選ぶ企業にも、売上構成の見直しという意味での、成長の論点はあります。進路がAでなければ規模の話は関係ない、という理解は正確ではありません。

同じことは、成長加速化補助金や新事業進出・ものづくり補助事業についても言えます。名称に、「成長」「進出」という言葉が入っているため、既に成長段階にある企業だけの制度だと捉えられがちですが、対象と要件は個別に確認する必要があります。

6.経営OSへの接続――商品性と経営技術

経営OSで言えば、今回の論点は商品性と経営技術に関わります。商品性は、顧客が支払い可能な価格で、選ばれる商品やサービスを提供できているかという点です。売上規模の拡大は、商品性が既に一定水準にあることを前提にした話であり、商品性が伴わないまま規模だけを目標に置くと、宣言と実態が乖離します。

経営技術は、売上目標を、販路、供給、人材、資金の計画に分解できるかという点です。100億や10億という数字を、宣言文としてなぞるのではなく、その数字を実現するために販路をどう広げ、供給能力をどう積み増し、人材をどう確保し、資金をどう調達するかを、具体的な計画に分解する力が問われます。この分解ができていない状態で規模目標だけを宣言すると、目標と実行計画が別々に存在する状態になり、経営技術が機能しません。

アクセスの6要素で見ると、規模目標を阻む制約がどこにあるかは企業ごとに異なっています。資金が制約になる企業もあれば、人材や販路、供給能力が制約になる企業もあります。

進路判定で見ると、A成長を選ぶ企業にとっては事業拡張そのものが論点になり、B守り固めを選ぶ企業にとっては収益性の改善が論点になり、C再構築を選ぶ企業にとっては売上の質の入替が論点になります。

いずれの進路でも、規模目標は制度の宣言文に合わせて作るものではなく、自社の経営計画の中から導かれるべきものです。

具体的に考えます。部材の受託加工を担う企業が、売上高5億円から10億円を目指すとします。この場合、単に受注件数を増やすだけでは、供給能力が追いつかず、納期遅延や品質のばらつきという形で顧客の信頼を損なう可能性があります。

規模目標を置くのであれば設備投資による供給能力の増強、人材採用と育成の計画、運転資金の確保を、同時に設計する必要があります。売上目標だけを先に置き、供給体制の設計を後回しにすると、目標に近づくほど、現場が疲弊するという逆効果が生まれます。

7.今日の結論――規模目標は「宣言文」より先に経営計画で決める

100億・10億・1億という数字は政策が用意した導線であり、自社の経営計画そのものではありません。制度の確定を待たずに、3年後、5年後の売上目標を、自社の経営計画の中に置くことはできます。その際、売上だけでなく、粗利、人員、生産能力、運転資金をセットで置く必要があります。売上目標だけを単独で置くと、規模を達成しても利益や資金繰りが伴わない、という展開になりかねません。

100億・10億・1億は、政策の導線として参考にはなりますが、自社の実態に合わない数字をそのまま目的化する必要はありません。重要なのは、制度が示す数字に合わせることではなく、自社の商品性と経営技術に基づいて実現可能な規模目標を自ら決めることです。

これは、進路判定がA成長の企業に限った話ではありません。売上高の100億・10億・1億は、あくまで政策が用意した目標であり、全ての企業が追うべき正解ではありません。

B守り固めを選ぶ企業にとっては収益性の改善そのものが規模目標より優先される場合があり、C再構築を選ぶ企業にとっては、売上の質を入れ替える過程で、一時的に売上規模が縮む選択もあり得ます。

政策の数字を追うかどうかも、進路判定に基づいて自社が決めることです。

補助金の申請書や事業計画書に規模目標を記載する際も、この順序は変わりません。制度が求める宣言文の型に合わせて数字を後から作るのではなく、自社が既に持っている経営計画の中の数字を制度の求める形式に当てはめるという順序を保つ必要があります。

この順序が逆になると、採択された後に、宣言した数字と実態の乖離に苦しむことになりかねません。

【今日の3つの問い】

①自社の売上規模は固定費、採用、投資、仕入条件を支える水準にあるか。
②3年後、5年後の自社の売上目標を、粗利、人員、供給能力と一緒に説明ができるか。
③自社の成長を妨げる最大の制約は、資金、技術、人材、販路、供給、信用のどれか。

次回は、規模の目標を実現するための成長投資として、成長加速化補助金と新事業進出・ものづくり補助事業の位置づけを整理します。

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