見出し画像

【1章最終話】【1-5】72件から、1件へ — 3ヶ月ぶんのログが答えを持っていた

【この章について】 この連載は、プログラミング経験ゼロの私が、有料の音声入力アプリTypelessの「自分専用版」を作っていく記録です。第1章(全5回)は、Claude Codeと出会うの約3ヶ月の話。別のAIと組んで、動くものは確かにできたのに、だんだん使わなくなっていった日々です。当時の道具が発話ログを382件残していて、この章の引用はすべてその実物から取っています。うまくいった話ではありません。でも、第2章から始まる3週間は、この3ヶ月の上に建っています。

著者の自己紹介

前回記事



この章の記録は、道具自身が残していた

MyTypeless v1は、喋った内容を全部データベースに残していた。その382件が、いまも手元にある。

日ごとに数えると、こうなる。

作ったのに、使わなくなった。

自分の道具が、自分でそれを記録していた。これほど正直な記録もない。

頂点は、3日目だった

72件。5月12日。動くようになって3日目である。

嬉しかったのだと思う。喋れば文字になる。それが面白くて、意味のあることもないことも喋っていた。この日の記録が、そのまま残っている。

00:17  ちょっとプロンプトを変えてみました。語尾をそのまま残すようにしました。
00:19  やっぱり、まだデスマス調があるな。
00:23  一旦これで運用してみるか。
00:29  よし、これで以上だ。ありがとう。
00:30  なんでこんな連続で録音が始まるのかな。
00:36  【Gemini制限中】

独り言である。道具を直しながら、その道具に向かって喋っている。そして最後は無料枠が尽きている。

この日の記録には、駅に着いた報告のような生活の断片も混ざっている。道具として使い始めていた。

そして次の日が52件、その次が28件、17件、26件、15件。1週間で3分の1になり、2週間で1件になった。

失敗したから減ったのではない。動いていた。動いていたのに、使わなくなった。

理由は、初日に自分で言い当てていた

いま読み返して、背筋が寒くなった一文がある。まだ何も動いていない、一番最初のころのやり取りである。

すみません、念のため確認させてください。このシステムの出力は一般的なテキスト入力として扱えますか? webブラウザからの入力であれば、例えばLINEアプリ上で入力したい場合、いちいちテキストをコピー&ペーストしなければいけなくなることを危惧しています

何度も言いますがtypelessと同程度の使い勝手としてください

危惧したとおりになった。

v1の使い方はこうだった。ショートカットで録音する。サーバーへ送る。しばらくして、結果がLINEに届く。そこからコピーして、貼る。

喋った文字が、打ちたい場所に直接入らない。

道具としては動いている。だが「キーボードの代わり」にはなっていない。そして人は、代わりにならない道具を、だんだん使わなくなる。

この1点が、3ヶ月の答えだった。私は最初の日にそれを予感していて、それでも3ヶ月かけてそこにたどり着いた。

6月、道具が家族に広がった

減っていく途中で、一度だけ跳ね上がった日がある。6月14日、31件。

その夜、私はこう書いている。

このシステムを妻も使いたいようです。妻もアカウントを作ったのですが、妻がスマホからupしたら妻のslackに通知が飛ぶ、という仕組みに改良してください

自分だけの道具が、家族に使われる道具になろうとしていた。

そこから、私はけっこう真剣に作っている。

録音やダッシュボードを今の画面と分けたいので、今のデータはすべて私(admin)として、妻のアカウントも作成&管理できるように改良してください

そして、次々に不具合が出る。

wifeになったけど、自分のデータがみえているんだけど

妻のiPhoneから録音をuploadしたら、なぜかhusbandの方に入ってきた

アカウントwifeのほうにadminのデータが表示されているようです。状況を確認し、もし本当であればすぐに修正してください

「すぐに修正してください」。他人のデータが見えるというのは、自分ひとりの道具では起きない種類の問題である。使う人が2人になった瞬間に、道具の要求水準が変わった。

同じ時期に、こんな機能も足している。

1、日本語以外だった場合にすべて日本語に翻訳する仕組み
2、日本語だった場合に英語か中国語のいずれかを選択させ、選択された言語に翻訳する仕組み
3、議事録を作成する仕組み

前回、これを「私のためではなかった」と書いた。英語と中国語の会議を持っているのは、私ではない。

そして、7月2日

先ほどから妻が音声をuploadしていますが、MyTypelessのダッシュボード上に表示もされませんし、文字起こしや要約も存在しません。どうなっているのでしょうか? 妻のiPhone上は受付完了、とは出るようです

これが、家族の話の最後のメッセージである。

このあと、奥さんがv1を使った記録は出てこない。受付完了と出たのに、何も残らなかった。そういう道具を、人はもう一度は開かない。

いま作っているv2で、奥さんはまだ使えていない。課題一覧に「議事録を利用者ごとに分ける」「英語・中国語に対応させる」として残っている。7月2日から、ずっと残っている。

8月2日、私は作り直すと言った

7月はほぼ空白である。1日1件か2件。開いていない日のほうが多い。

そして8月2日の夜7時31分、私は突然こう切り出している。

MyTypelessの大幅なアップデートを考えております。今のTypelessと同等か、それ以上のリアルタイム性を持った音声入力プラットフォームとしてのアップデートです

「リアルタイム性」。

コピー&ペーストをやめる、ということである。5月に危惧した一点を、名指しで潰しにいっている。

その夜、右のAltキーで録音できるところまで一気に進んだ。そして、初めてあれに出会う。

「こんにちは私は日本人です」という録音をしましたが、添付の結果となりました。「字幕をご視聴いただきましてありがとうございました。」とはどこから出てきた文章でしょうか?

(この文と、私はこの後3週間付き合うことになる。)

8月3日、午前1時9分

そこからは、本家との比較が続く。

爆速で本家と同じスピードですが、テキスト整形が完全に負けています。。。なぜここまで誤字が多いのでしょうか

あまりにもバカすぎて使う気にもなれません。なぜここまで破綻してしまうのでしょうか

午前1時9分。3ヶ月やってきて、まだ本家に届いていない。

そして、その38分後。

私は別の画面を開いて、そこにこう打ち込んでいる。

インターフェースを日本語にしたいです。やり方を教えてください。

Claudeさんへの、最初の一言である。

さらに17分後、私はまだ元の画面にも戻っている。

今どういう状況ですか? また途中で止まりました?

乗り換えたのではない。両方に向かって、同時に助けを求めていた。

第1章の終わりに

v1は、8月8日の記録を最後に止まった。382件。91日間。1日あたり4.2件。

いま動いているv2は、8月9日から今日までの17日間で1891件。1日あたり111件。

26倍である。

道具の出来が26倍良くなったわけではない。打ちたい場所に、直接入るようになっただけである。5月に自分で危惧した、あの一点だけ。


第1章で書きたかったのは、こういうことだ。

3ヶ月は、無駄ではなかった。辞書も、履歴も、LINEへ届ける仕組みも、整形の指示文も、全部この3ヶ月で形になっている。いまのMyTypelessは、その上に建っている。

それでも、使われなかった。

作ったかどうかと、使われるかどうかは、別の話である。そして「使われる」の条件は、たいてい最初から分かっている。私は初日に自分で書いていて、3ヶ月かけてそこへ戻ってきた。

次回から第2章。8月3日の午前1時47分から、3週間の話が始まる。

いいなと思ったら応援しよう!