助詞は覚えるものか、置き直すものかーー生徒さんへの説明を変えてみる

前回、日本語の文を荷物と荷札にたとえました。
荷物が内容語で、どこ行きなのかを示す荷札が機能語。
英語は荷札を先に貼り、日本語は荷物を置いてから貼る、という話でした。

この荷札には、行き先だけでなく役割まで書かれています。
そして、荷札を使うのは日本語だけではありません。
英語にも同じ仕事をする言葉があります。

順番を入れ替えても迷子にならない理由

「太郎は花子に本をあげました」という文があります。
これを「花子に太郎は本をあげました」と並べ替えても、「本を太郎は花子にあげました」と言っても、誰が誰に何を渡したかは変わりません。
前に出た言葉が少し強調される、という違いが出るくらいです。

英語だと、こうはいきません。
Taro gave Hanako a book の Taro と Hanako を入れ替えたら、あげた人ともらった人が入れ替わります。
位置が役割を決めているからです。

日本語で入れ替えられるのは、それぞれの名詞に荷札が付いているからです。
「は」が付いた太郎は主語、「に」が付いた花子は相手、「を」が付いた本は荷物である目的語。
どれも荷物は動かず、役割は荷札の側に書いてあります。

名刺に近いかもしれません。
打ち合わせの席で、誰がどこに座っていても、名刺の肩書きを見れば役割が分かります。
荷札が付いていれば、並び順で役割を判断する必要がありません。

もっとも、何でも自由というわけではありません。
動詞は最後に来ますし、入れ替えれば響きも変わります。
それでも、名詞の順番についてはかなり融通が利きます。

英語話者は、もう荷札を使っている

I gave a book to Hanako という文の to は、何をしているか。
花子に「受け取る側です」という荷札を貼っています。
日本語の「に」とまったく同じ仕事です。

並べてみると、対応がはっきりします。
to Hanako と花子に、with a friend と友達と、at the store と店で。
英語の前置詞と日本語の助詞は、名詞の前か後ろかが違うだけで、やっていることは同じです。

英語が位置に頼っているのは、主語と目的語のところです。
Taro が主語だと分かるのは動詞の前にあるから。
a book が渡されるものだと分かるのは、その次にあるからです。

さっきの打ち合わせでいえば、英語は席順と名刺の両方を使っている状態です。
座る場所で決まる役割と、名刺で分かる役割が混ざっている。
日本語は席順をやめて、全員に名刺を持たせる方を選んだのでしょうね。

似ていると言うのか、同じだと言うのか

私はこれまで、助詞を教えるときに「英語の前置詞に似ていますね」という言い方をしていました。
そして、そこで止まっていました。
使い方の練習はしますが、それが何をしている言葉なのかまでは渡していませんでした。

でも生徒さんは、荷札で役割を示す感覚をすでに毎日使っています。
使う位置が違うだけです。

言い方を少し変えるだけで、渡すものが変わります。
「前置詞に似ています」で止めずに、「英語の at や to と同じ仕事をする言葉が、名詞の後ろに来ます」まで言う。
似ているものを新しく覚えるのではなく、すでに持っているものを置き直す作業になります。

動詞の語尾も同じ見方ができます。
食べます、食べました、食べません、食べたい、食べられる。
芯の「食べ」はずっと変わらず、うしろのパーツだけが入れ替わっています。

掃除機に近いかもしれません。
本体は一つで、床用のヘッドと隙間用のノズルを付け替える。
取り替えているのは先だけです。

英語なら eat、ate、don't eat、want to eat、can eat と、別の言葉を前に足していくところです。
前に足すか、後ろに足すか。
日本語は、どこまでも後ろに足していく言語です。

活用を「形が変わるもの」として教えると、覚える項目がどんどん増えていくように見えます。
でも「芯は動かない、うしろのパーツが入れ替わるだけ」と言えば、覚えるのは一つの仕組みで済みます。
生徒さんにとって、その差は小さくないと思います。

ーーみなさんは、助詞を教えるとき、英語の前置詞と並べて説明したことはありますか。

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