6話 一人分しかない洗濯物
「お姉ちゃんから、メッセージきてるで」
悠貴はスマホを見て言った。
スマホを取り出して私も確認する。
「あ、ほんまやね。私にもきてるわ。」
LINEのメッセージをじっくり読む。
「盆踊り大会の日に、家に来るって。
はるみさんにも連絡したって書いてんなぁ」
「俺、居心地悪いやん。どうしよ」
「どうしよ、って、子どもらに会いたいやろ?」
「そやけど、俺は東京から逃げてきたんやから」
悠貴は言った。
「逃げてきたって大げさやな?」
私が言うと、悠貴は困った顔をした。
「俺は、問題が片付くまでは東京に居づらいねん。そやけど、あいつも子どもらも東京から引っ越したくないやろからな」
「でも、子どもらは、お父ちゃんが急におれへんようになったほうがショックなんちゃうん?」
私は言った。
はるみさんは子どもたちに悠貴のことを何て説明してるのかな?とちょっと考えた。
「そうやな。子どものことあんまり考えてなかったな。お父ちゃんとして失格やな。」
「はるみさんが来たら、ちゃんと話し合わなあかんで」
私は言った。
「うん。そやなぁ」
悠貴は少し考え込んでいるようだった。
「再就職はこっちでするん?」
私が聞くと、
「一応そのつもりで、今は情報だけ集めてるねん」
悠貴は言った。
「でも、俺も40歳過ぎてるから、なかなかいい条件の転職先はないみたいやねん」
「そうなんや…」
「そやから、学生時代の友達にも当たってみよかな、と思ってんねん」
「少々お給料下がったって、みんなで楽しく暮らせたらええやん」
私は言った。
「そうやな…」
ちょっとしんみりと、悠貴は答えた。
翌日、昼にテレビを見ていると、ピンポンとインターホンが鳴った。
誰かな?とモニターを覗くと、亡き夫の妹の容子ちゃんだった。
「はーい」
返事をして、玄関の扉を開けた。
「お義姉さん、久しぶり。お盆やからちょっとお参りに来させてもろてん」
容子ちゃんは言った。
そして、仏壇にお供えをあげ、ろうそくと線香に火をつけ手を合わせた。
「急に来てごめんな。今、うちの娘が入院してて見舞いに来ててん。ちょうど病院がこっちの方やったから」
容子ちゃんは言った。
「えっ?どうしたん?大丈夫?」
私はお茶を淹れる手を止めて、思わず言った。
その時、悠貴が2階から降りてきた。
「あ、容子おばちゃんやん。こんにちは」
悠貴は、ちっちゃい頃から容子ちゃんに可愛がられていたので、少し嬉しそうに言った。
「悠貴ちゃんは元気にしてた?うちの娘、あんたと同い年やけど病気が見つかって内視鏡手術受けることになってん」
容子ちゃんは言った。
「手術自体は簡単やし、早期発見やからほぼ心配ないって言ってもらってるねんけど、あの子元気なくてな」
「俺は体は丈夫やからな。今度見舞いに行くな。今、仕事の関係で当分こっちにいてるねん」
悠貴はちょっと出っ張ってきたお腹をさすりながら言う。
「ありがとう。でも、入院は長くても1週間くらいで済むと思うねん。」
「お孫ちゃんは?」
お茶を入れた湯飲みをテーブルに置きながら尋ねた。
「もう、中学と高校やから大丈夫やと思うけど、今日は様子見に行くわ。でもな、私もウチの旦那も元気やのに、まさか娘ががんになるとは思えへんかったわ」
容子ちゃんは、ため息をついた。
「でも、早期発見やってんから良かったやん」
そんなふうに、あれこれたっぷりと世間話をしたあとで、容子ちゃんは帰っていった。
帰りを見送った後、悠貴はポツンと言った。
「人生って一歩先に何が起こるかなんてわからんもんやね」
「ほんまやね」
私も言った。
窓の外を見ると、日差しが眩しく、とても暑そうだった。
買い物は夕方、もう少し涼しくなってからにしようかな?と、ぼんやりと考えていた。
