2話 一人分しかない洗濯物
息子の話し声に動揺して、そのままそっと階段を降りた私は、また台所に戻る。
そして、何事もなかったかのように、サラダのレタスをちぎり始めた。
そうこうするうちに、晩ごはんの支度ができた。
「悠貴、晩御飯よ。」
二階に向かって声をかける。
なんだか、こんなん久しぶりやわ。
少し懐かしい気がした。
トントントンと階段を降りる音。
「あ、空揚げやん!」
悠貴は降りてくるなり、少し嬉しそうに言った。
高校生の頃と変わりないな、とちょっとかわいく思った。
見た目は「おっさん」なのに。
「いただきます。」
ひとりじゃない食卓は、お正月以来や。
さて、何を話そかな…
サラダを食べながら頭の中がグルグル回っていた。
「やっぱりお母ちゃんの空揚げは、うまいな!」
なんだかうれしいことを言ってくれる。
「それで、明日はどこか行くん?」
私は言葉を選びながら話しかける。
息子は少し考え込んでいる。
口をもぐもぐ動かしながら、瞳もあちこちに動いていた。
「黙っとこかな、と思ったけど…会社やめてん。」
息子は言った。
「…そ、そうなん。それで、はるみさんはなんて言うてるの?」
いきなりの返事に声がうわずったものの、私は動揺を抑えてなるべく冷静を装う。
息子はビールをゴクリと飲んでグラスをテーブルに置いた。
「実は、離婚した。」
「えっ!」
これにはさすがの私もショックを隠すことがでけへんかった。
「健斗と、かなは?」
孫のことを聞くのが精一杯やった。
「多分、はるみが親権を取るやろ。」
息子は言った。
10才と8才の、可愛い孫に会えなくなるの?
もうすぐ夏休みでまた遊びに来てくれるのを楽しみにしていたのに…
そう考えるとすごくショックだった。
「なんでやめたん?なんか嫌なことでもあったん?」
私が聞くと、
「ま、そんな感じやねんけど、今はまだ言われへんねん」
悠貴は少しうつむきながら、そう言った。
誰も見ていないテレビの音だけが虚しく響き、重い沈黙が流れる。
なんで言われへんの?
教えてよ、
と、言いたいけれど、ここであまり踏み込みすぎるのは良くない気がする。
私はことばをぐっと飲み込んだ。
