4話 一人分しかない洗濯物
悠貴はリビングでテレビを観ていた。
「なぁ、なんで会社を辞めたのか、理由って教えてくれへんの?」
自分の子とはいえ、機嫌が悪くなられるのは困るから、私は恐る恐る尋ねた。
「まだ言われへんて言うたやん。」
「うん、でも、何もわかれへんままやったら納得でけへん。」
悠貴は、ちょっと困った顔をしてこっちを見た。
「会社の問題はな、簡単に話されへんねん。いろいろ噂になったら、取引先にも迷惑をかけるし。」
悠貴は言葉を選びながら答えた。
「クビになったんやないよね?」
私が言うと、
「それは、ない。」
と、断言した。
よくある企業ドラマのように、何か問題が起きてそこに巻き込まれたのか?と、想像してみた。
「あんな、俺、小5の時、クラスが荒れてて、嫌で1週間ぐらい学校休んだん覚えてる?」
悠貴が言った。
突然何を言い出すねん、と思ったが、言われてみれば、昔そんな事があったなと思い出した。
すっかり忘れていた出来事だった。
「あの時、学級崩壊して担任の先生は来なくなるし、俺の友達はイジメられてたし、すごく雰囲気が悪かってん。」
「あったなぁ。参観日の後に学年主任から説明会があったね。」
「それで、休んでた時、お父ちゃんに話を聞かれてん。なんで休んでんねん?て。説明したら、お前は虐められてないねんやろ?それやったら関係ないやん、て言われた。」
ああ、あの人らしいな、と私は思った。人は人、自分は自分、そういうふうにきっちり線を引くような人だった。
「それを聞いて、一理あるかな、と思ってん。そやから、嫌な雰囲気でも気にせず学校に行き始めた。淡々と授業を受け、さっさと帰った。ロボットみたいに。」
「そうなんや。」
「でも、俺の友達は、虐められて転校していった。担任は休職した。俺は何もしてやられへんかった。ただ、心が痛んだだけやった。」
そう言うと、悠貴は私の方を向いて言った。
「そやから、自分が直接困ってなくても、ほおっておけへんことには向き合おうと思ったんや。」
「そうなんや。わかった。でもな、はるみさんに何も言わずに離婚届を置いておくというのは違うんちゃうか?」
私は言った。
「会社の問題に巻き込みたくなかってん。」
悠貴は言った。
「とりあえず、詳しいことは話されへんねん。」
わかったような、わからないような説明だった。
ただ、真剣に考えた上でやめたんだということはわかった。
「そやけど、はるみさん、夏休みに健斗とかなを連れて遊びに来るで。未映子が誘ってん。」
悠貴は、ちょっと驚いた顔をしてこっちを見た。
「また、お姉ちゃんは勝手なことをすんねんな。」
「しかたないねん。夏休みは、ここに来ることに決まってるらしいからな。ああ、面倒くさい。」
全てを未映子のせいにして、心の中で舌を出した。
