5話 一人分しかない洗濯物
晩ごはんは、何にしようかな、と、頬に手をあてて考え込んでいると、後ろから声がした。
「町田さん、久しぶり。」
同じ町会の田中さんだった。
噂好きな奥さんやから、あまり長話はしたくないねんけど、彼女は話しだしたら止まらない人や。
「なぁなぁ、知ってる?町会長の林さんのところの息子さん、仕事辞めて家で引きこもってるらしいねんて。」
そう言う時の表情が、ちょっと嬉しそうに見えるのはなんでやろ。
「まぁ、世の中いろいろ大変やから、そんなこともあるかもしれへんね。」
私は当たり障りなく返事する。
ウチも息子が仕事辞めて帰ってきてんねん、とは、ここでは絶対言われへん。
「それでな、うちの隣の奥さんが、林さんの息子さんが親に付き添われて精神科病院行ってるん見たんやて。」
何の噂をしてるねん、と、少し腹が立つ。
笑顔が自分でも引きつっているのがわかる。
「他人の病気のこと噂するのは失礼ちゃうの?」
私はやっとそう言うと、腕時計をチラリと見て、
「そろそろ帰らなあかんから、じゃあね。」
と、離れようとする。
「町会長さんって、すごく偉そうやから、ちょっといい気味やわ。」
「ほな、またね。」
私はさっさとその場を離れる。
町会長の林さんのことは、私はよく知らない。
でも、町会の集まりで「2期目が終わるから辞めたい」と言った林さんを、みんなが他に適任者がいないからと引き止めたのは覚えている。
「林さんなら、頼りになるから」
「みんな林さんの言うことは聞くから」
などなど。
その時、この田中さんも、にこにこと加わっていたことも。
昔は、ご近所さんで子どもの年頃の近い人とは、なるべく仲良くしようとしていた。
子ども会などの行事もあるからだ。
そやけど、こういう噂話が煩わしくて、どんどんこういう輪から外れるようになった。
そういえば、あまりひどい噂話に憤慨して夫に話した時、「人の話や、ほっとけ」と、言われたことを思い出した。
確かに正解や。
でも、聞いて欲しかったんやけどな。
「そうなんや、いややなぁ」
そういってくれれば満足したんやけど。
そんな、夫の昔の話を思い出しながら、家路にむかった。
晩ごはんの時、話題が微妙やな?と思ったけど、誰かに聞いてほしくて悠貴に話しかけた。
同じ町会の奥さんが、町会長の息子の噂話をしていること、そして、無理に3期目の会長をやらされているのに、偉そう、と言われていること、など、なるべくかいつまんで話した。
「面倒くさいな。主婦は。よっぽど娯楽がないんやろか?」
悠貴が言った。
そうや、その反応が欲しかってん、とちょっと嬉しく思った。
「はるみも俺が家に帰ったら、ママ友にこんなん言われた、とか、話してきたけど、忙しいときは聞いてやられへんかったな。」
悠貴がポツリと言った。
「俺も、疲れてんねん。後にして。
とか、言うてたわ。」
「そうやねん。一人で家にいてたら、誰かに話を聞いてほしいと思うねん。」
「そうやろなぁ。でも、今ごろ気づいても遅いねんな。」
悠貴は、また、つぶやいた。
いや、まだ遅くないから!…と、私は心の中で思った。
「とりあえず、ご近所さんもうるさいやろから、俺が仕事辞めたことは言わんでいいんちゃう?」
「そやね。」
「俺は今、長期休暇中。実際まだ、有給休暇を消化中やからな。」
悠貴は笑った。
