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【第57話】美国漁港海岸緑地広場──タープの影が伸びるほうへ

北へ続く道 ─ 自作キャンピングカーで旅する日々

静かに続いていく──
旅の空気と、光と温度で紡ぐ日々の記録。

【第57話/タープの影が伸びるほうへ】

美国漁港──窓の熱と、最初の一杯

言葉にしないまま整えていく。
光の向きだけが、次の動きを決める。


昨晩お世話になったのは、美国漁港海岸緑地広場。海の近くなのに、朝はきっぱり晴れていて、光がまっすぐ入ってくる。

6時38分に起きる。窓の外は明るく、港の気配が静かに張りついている。温度計を見ると、車内はもう30℃を越え始めている。左側、ソファのある窓の多い面に日が当たるせいで、熱の上がり方が早い。

家庭用エアコンを入れる。設定は31℃。風が回りはじめると、内側の空気だけ先に落ち着く。

みゅうちゃんの朝ご飯。器の音が小さく鳴って、いつもの速度で時間が戻る。

天気は今日も晴れ。テントはメッシュにして、タープは元の高さへ戻す。けれど、上げたばかりのタープ下には、まだ影がない。地面がまぶしい。

美国漁港海岸緑地広場の朝

コーヒーを淹れて、トーストと豆乳ゼリー。港の光を横目に、いつもと同じ順番で口に入れる。


タープ下──ジーパンと靴下の理由

YouTubeを流しながら、車内でしばらく過ごす。

9時23分、トイレへ行って、そのままタープ下へ。風が少しだけあって、影に入ると空気が軽い。短パンに裸足でいると刺されるので、ジーパンに靴下。北海道でも、肌の露出は油断できない。

イヤホンをして、AmazonのAudible(オーディオブック)を流す。声だけが続いて、こちらは動かなくても時間が進む。タープの布がたまに鳴り、港の方から金属っぽい音が混ざる。

タープ下でのんびり♪

設営の輪──見ていない時間の完成

11時43分、数名が来てタープの設営を始める。

初めてらしく、思うように立ち上がらない。気づけばほぼ全員で、支柱を支えたり、ロープを引いたりしている。しばらく眺めてから視線を外し、戻ってみると、ちゃんと形になっていた。見ていない時間のほうが、物事は勝手に進む。

タープ設営に悪戦苦闘

山わさび塩ラーメン 改──鼻の奥の小さな合図

昼を過ぎていたことに気づいて、車へ戻る。

昼ご飯は、「道営野塚野営場」で富岡さんにもらった「山わさび塩ラーメン 改」。熱湯を入れて3分。ふたを開けると、白い湯気の向こうに、少し尖った匂いがある。

よく混ぜて、恐る恐る口に運ぶ。山わさびが効いて、鼻にツーンと小さな合図が来る。でも止まらない。スープは意外と穏やかで、麺のほうが刺さる。今までにない種類の「ツーン」で、セイコーマートの棚の強さを思い出す。

山わさび塩ラーメン 改

影の移動──PCの前と、外の椅子

食後はノートPCの作業。キーを打つ音が車内に吸われて、外の光だけが強い。

15時13分、またタープ下へ。影がかなり前へ伸びている。朝にはなかった暗い場所が、ちゃんと座れる広さになっている。

16時になって車へ戻り、客向けのメルマガを作って予約まで済ませる。作業が終わると、冷蔵庫のほうに移しておいた冷凍のジンギスカンの存在が、ようやく今日の予定らしくなる。


成吉思汗たれ──少しだけ足して、形が決まる

17時16分。晩ご飯はジンギスカン。もやしとうどん麺も一緒に入れる。

前に少し薄く感じたので、ベルの「成吉思汗たれ」を買ってあった。少しだけ足すと、味が締まる。火の音と、肉の色が変わる速度。食べ終えると、外の光が少しずつ鈍っていく。

晩ご飯はジンギスカン

食器を洗いに炊事場へ行き、戻ってテントのメッシュを全部クローズ。タープは下げておく。夜の風が入る準備だけしておく。

18時31分、太陽が山に沈むところ。車内から外を見ていたが、夕焼けは出ない。晴れは晴れのまま終わる。

太陽が山に涼む寸前

冷房は、起床時から17時前まで入れっぱなしだった。設定は30℃で、車内温度は26℃あたりを保つ。外が明るい時間ほど、機械の風が生活の一部になる。

20時半を過ぎて外気温は18℃。車内は27.3℃でも、湿度が46%で体が楽だ。福岡の外気温は28℃と聞いて、同じ国でも空気の厚みが違うことを思う。

明日も、ここは快晴の予報。最高気温は26℃。今日より2℃だけ低い。その2℃のぶん、影が少し長くなるかもしれない。


あとがき

美国漁港海岸緑地広場は、海沿いのはずなのに、朝の光が強くて、車の窓が先に熱を集めてしまう。エアコンの風と、タープの影と、肌を守るジーパンと靴下。どれも特別な道具ではないのに、並べる順番で一日が整っていく。

設営に手こずっていた人たちが、いつの間にか形を作っていたこと。山わさび塩ラーメンの「ツーン」が、食べ進めるほど癖になっていったこと。ベルの成吉思汗たれを少し足しただけで、鍋の中の輪郭がはっきりしたこと。大きな出来事ではないが、どれも今日の空気の中でちゃんと起きた。

沈む太陽を見て、夕焼けが出ないまま夜になった。涼しい外気と、乾いた湿度。車の中と外の温度差がほどけていく。明日も同じ場所で、影の位置だけが少しずれていく。そんなふうに、今日がここに置かれたまま、静かに夜が続いていく。


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