見出し画像

【第51話】道営野塚野営場──段差のない日本海

北へ続く道 ─ 自作キャンピングカーで旅する日々

静かに続いていく──
旅の空気と、光と温度で紡ぐ日々の記録。

【第51話/段差のない日本海】

窓枠──灰色の海面

湿った空気が薄く残る。
景色は同じでも、立つ位置で印象が変わる。


昨晩は「道営野塚野営場」にお世話になった。
8時59分に起床。
8時過ぎには目が開いていたのに、
ベッドの上で少しだけ伸びていた。
窓の向こうに日本海。
曇りの膜の下で、
海だけがゆっくり動いている。

温度計は車内28.3℃。
外気も28℃前後の表示で、
暑いとも涼しいとも言い切れないところ。
先にみゅうちゃんの朝ご飯。
皿の音に反応して、足元に寄ってくる。

空はところどころ青がのぞくけれど、
全体は雲に覆われている。
コーヒーを淹れて、
トーストと豆乳ゼリー。
湯気より先に香りが車内に広がる。
ルーティンが一周して、
しばらくYouTube。

道営野塚野営場の朝

白い羽根──拭き跡の線

もう一箇所の駐車場が気になって外へ出たら、
小雨が落ちてきた。
戻って、扇風機を引っぱり出す。
白いボディに、細かな汚れが妙に目立つ。

ウェットティッシュで網目の間をなぞると、
ホコリがうっすら取れていく。
指先に残るざらつきが消えて、
羽根が軽そうに見える。
扇風機はまだ回さない。

扇風機のお掃除

駐車枠──三角の影

12時近く。雨が止んだ隙に、
徒歩でもう一箇所の駐車場を見に行く。
降りる道は少し急。
右側の広い駐車場にはキャブコンが二台。
左側は狭いけれど、後ろが草むらで、
オーバーハングを逃がせそうだった。

海側のテントサイトは段差がなくて、
車内から見える位置にタープも張れそうだ。
見終わると、少し急ぎ足で我が家へ戻る。

駐車場を移動。
海側へわずかに傾くので、
フロントタイヤにレベラーを敷く。
それでもほんの少し前下がり。
気になりすぎないところで止めておく。

駐車場を移動

12時半を過ぎているのに、
先にタープを張ることにした。
小型の三角タープ。
張り綱が伸びていくにつれて、
影の形が定まっていく。
目の前は日本海。波の音が近い。

13時14分。昼は素麺。
炊事棟は左右に二箇所、距離はほぼ同じ。
すぐ左のトイレには
「閉鎖」の張り紙が貼られていて、
使えるトイレは右奥になる。
歩く距離が少し増えるだけで、
視界には海が残る。

タープ設営完了!

缶の冷たさ──波のBGM

14時56分。外が少しだけ涼しくなって、
「サッポロクラシック」を持ってタープの下へ。
缶の冷たさが掌に残り、
風が抜けるたびに影が揺れる。
波の音が、ずっと同じ調子で続いている。

日が差すと、
タープの奥の陰へ体をずらす。
陽の当たり方だけで場所が変わる。

サッポロクラシックで乾杯♪

お客さんからメールが来て、
我が家へ戻りノートPCを開く。
ちょうど16時。回答を返して、
そのままメルマガを作って予約を入れる。
作業の区切りで炊飯の準備。
米の匂いが少しずつ立ってくる。

18時14分。晩ご飯は、
朝ご飯みたいな配置。
目玉焼きの黄身を崩して卵かけご飯にする。
箸が止まらない。


雲の切れ間──反射の線

18時36分。外を見ると、
雲の切れ間から太陽が顔を出していた。
水平線の上は厚い雲が帯みたいに残っていて、
沈むところは見えない。
代わりに、日本海の表面が光を拾って、
一本の道みたいに伸びる。

18時49分。もう一度、
雲が割れて太陽が出る。
そのあとすぐ、厚い雲に吸い込まれていく。
夕焼けまでは届かない。

日本海の表面が光を拾って一本の道みたいに

移動前の駐車場は、
テントサイトが一段下に見えて、
視線の置き場が落ち着かなかった。
段差のない側へ移しただけで、
道具の置き方も、歩く動線も、
自然に決まっていく。
週明けまで、ここに置いてみる。
曇りが並ぶ予報でも、目の前に海が残る。


あとがき

駐車位置を変えただけで、
同じ場所が別の場所みたいになる。
海の見え方も、炊事棟までの距離も、
トイレの「閉鎖」の紙の位置も、
全部そのままなのに。

白い扇風機を拭いて、三角のタープを張って、
素麺をすすって、缶を冷やして、
ノートPCで文字を打つ。
その合間に、みゅうちゃんは
いつものタイミングでごはんを食べ、
いつもの場所で体を丸くする。

雲の切れ間からの光は短くて、
長い色にはならなかった。
それでも海の反射だけはきっちり残った。
今日の配置が、今日のままここにある。


北へ続く道 ─ 自作キャンピングカーで旅する日々』シリーズトップへ戻る

いいなと思ったら応援しよう!