【短編小説・波の音から始まる作品・シロクマ文芸部7/16お題】「永遠に寄せる波のように」
「波の音が聞こえる街で暮らしてみたかったからです、憧れてました」
大学のサークルの新歓コンパで一人の新入生がそう言ったのがたまたま耳に入った。
この大学があるのは西日本の山と海に挟まれた土地。ここで生まれ育った僕からすると、海なんていつでも視界に入るもの、特に珍しくもないが、その新入生は東日本の海のない県出身だと自己紹介の時に言っていた気がする。
「でもさ、海だったらそっちの方にもあるんじゃないの」
思わずそう聞いてしまったら、
「それと白い砂も」
と一言付け加えられた。
確かにこのあたりの砂浜は白いが、東の方へ行くと黒い海岸だったなと思い出す。家族旅行で行った観光地の海の砂浜が、見たこともない色で驚いたのを思い出した。
「なるほど」
僕が納得したことに相手も満足したようだ。
波の音と白い砂が見たい、それだけでこんな遠くの大学に来るなんて変わり者だな。それが僕の彼女に対する第一印象になった。
そんな微妙な出会いだったが、その先何がどうなったのか、数ヶ月後には「お付き合い」というものをする仲になり、一年先輩の僕が一足早く卒業して社会人となり、一年遅れで彼女が社会人になった後も付き合いは続き、数年後、今度は婚約者という関係になった。
本当に何もかもが順調。浜辺に波が寄せるように、潮が満ちるように時が流れてきた。それは少しぐらい波の高い時もあるにはあったが、波が引けば残るのはなだらかな白い砂浜だけ。そんな月日を重ねたその先がこの今だ。
「式場は小さくていいから、きれいに海が見えるところがいいな」
彼女のそんな要望で、異人館が多く残る高台の一軒に決めた。晴れの日には屋上庭園のチャペルで式を挙げられる。そこから見える青い海が本当にきれいだったからだ。もしも雨でも、その階下の大きな窓のある式場から、対岸の大きな島まできれいに見渡すことができる。
「今日は晴れてよかったね」
式当日、彼女は自分こそ晴天の笑顔でそう言って笑った。
僕はチャペルの少し高くなった壇上で待っていた。扉が開き、お父さんに手を引かれた彼女がこちらに向かって歩いてくる。ゆっくりと、静かに波が寄せるように。
渡された手を僕は受け取る。波が届く。心臓がいつもより早く打っているのを感じる。その波動は重ねた手を通して彼女へと伝わっているだろう。
寄せては返す波のように、彼女への気持ちは変わることがない。きっとそれは対岸にある彼女の心も同じのはず。僕の波が届けば彼女が同じ波を返してくる。その波をまた僕の心が返して彼女が受け止める。
海の波が永遠に続くように、この気持ちも変わることがない。いつまでも寄せては返す想いを永遠に。その誓いの日が今日だ。
「誓います」
今、波が重なり、永遠の時が始まる。
シロクマ文芸部の7/16お題「波の音から始まる作品」に参加しています。
私の作品たちへのリンク集です。ぜひ一度お尋ねください。
トップ画は「MY DOLL MAKER」で作った私の代表作「黒のシャンタル」の登場人物、「シャンタル」のつもりです。
本格派長編ファンタジー「黒のシャンタル」よろしければぜひご一読ください。
いいなと思ったら応援しよう!
「気に入った!」と思ったら応援にポチッとなとしていただけるとうれしいです。