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キラキラ光る夜空の星よ(物理学誕生①高校基礎)

§1 鼻が無いのが大事なの!?
星を見ること。人類がそれを始めたのはいつからなのか。一万年ほど昔、農業が開始された以降の時代には暦(カレンダー)が欠かせないものになっていた。その時代には季節の移り変わりを把握できる精度の天体観測が行われていたのは間違いないが、ただ単に星を眺めるという行為については、おそらくもう二桁ほど昔、人間とサルの違いが非常に曖昧だった時代まで遡れるのではないだろうか。
人工の明かりがない場所では、夜は遥かに長く、しかも夜の間にできる活動は極端に限られる。じゃあ星空でも眺めたくならない? これは蘊蓄というよりは個人的な妄想だが、人類の進化の中での大きな出来事、直立二足歩行、火の使用、言語の獲得それらよりももっと昔から、人類は夜空を見上げ、星々の美しさに魅了されてきたのかもしれないと思うのだ。
そんな数百万年の歴史を持つかもしれない、人類の肉眼による天体観測の、頂点に立つ男がティコ・ブラーエ(1546-1601)である。彼は当時の世界最高の器具を自ら開発し、肉眼による天体観測の精度を極限にまで高めた。彼はデンマーク王から資金援助を受けており、「天の城」を意味する「ウラニボリ」と呼ばれた天文台の建設費用は、なんとデンマークの当時のG N Pの5%を上回った(日本の自衛隊の防衛費がGNP比約1%)。
ティコ・ブラーエに関しては、幾つも面白いエピソードがある。中でもとりわけ興味深いのは、彼は若い頃に決闘をして鼻が欠けており、普段は金属製の義鼻を付けていたというものだ。天体観測では、巨大な分度器のような器具を使って星の位置を測定するのだが、ティコ・ブラーエは義鼻を外すことで目をぴたりと正しい位置につけることができた。それが彼の天体観測の精度を一層高めたというのだ。このエピソードの真偽はともかく、ティコの観測誤差はほぼ1度の30分の1以内に収まっており、彼以前に行われた最も優れた測定より5倍以上も精度が高かったのは歴史的事実として認められている。

§2 楕円軌道の発見
そしてこの優れた観測データを解析し、火星の軌道が楕円であることを突き止めたのがヨハネス・ケプラー(1571-1630)である。楕円というのは簡単に言えば円が潰れた図形である。その数学的な性質は数Ⅲの学習内容であるが、身近なもので言えば、カップに注いだコーヒーを真上から見れば円であるが、斜めから見た形が楕円である。よく教科書や問題集などに載っている図はかなり誇張された楕円であり、実際の惑星の軌道はもっとずっと円に近いことは覚えておいた方がいいだろう。その潰れ方は、半径10cmの円で火星軌道を近似したとして、真の楕円軌道からのズレは鉛筆の線の幅程度である。より正確に言えば、水星や冥王星(今では準惑星)の軌道はけっこう楕円なのだが、冥王星は当時はまだ発見されておらず、水星は内惑星なので詳しい観測が難しかったのではないかと思われる。
そんなわけで、太陽系の惑星の中では水星の次に大きく潰れた楕円である火星の軌道が、史上空前の精度まで高まった観測データによってギリギリなんとか検出できた、ということだ。しかしティコ・ブラーエ自身は楕円軌道という真実にまで辿り着くことはできなかった。彼の膨大な観測データの真の意味を解明するには数学の天才であったケプラーの力が必要だったのだ。くどいようだが、楕円軌道という真実を解明できるデータを持っていたのはティコ・ブラーエのみであり、そのデータを解読する能力を持っていたのはおそらく当時はケプラーのみであったのだ。
そんな二人が出会ったなんて素敵! と思った人は、平和ボケも大概にしてほしい。どう考えてもケプラーは観測データ目当てにティコ・ブラーエに近づいたのだし、ティコ・ブラーエの方は大切な観測データを決して見せようとはしなかった。ケプラーが観測データを手にしたのはティコ・ブラーエの死後のことであり、そのせいで、ケプラーによる毒殺疑惑まであるのだから、素敵というより胸糞だ。
何はともあれ、人類史上最高の観測データは、当時の世界最高レベルの数学の天才の手に渡った。そしてケプラーによる、8年にも及ぶ、900ページにわたる計算によって火星の真実が暴かれた。ティコ・ブラーエは死ぬ間際、「願わくば、我が人生が無駄にならぬように」と何度も呟いたという。その願いは叶えられた。ティコ・ブラーエの名は物理学誕生に決定的な貢献をした人間のひとりとして、永遠のものとなったのだ。
そして彼の死からわずか8年後、天体観測は、ガリレオ・ガリレイの手によって、望遠鏡の時代に突入していった。レンズを用いない、肉眼による天体観測において、ティコ・ブラーエより優れた者は彼以前にはいなかったし、これから先もずっと現れないのかもしれない。

【参考文献・インスパイア元】 本記事を書くにあたり、以下の書籍を参考にしつつ、私の独自解釈と妄想を加えています。どちらも物理好きなら痺れる名著なので、ぜひ読んでみてください。

●サイモン・シン『ビッグバン宇宙論』(新潮文庫)
●山本義隆『磁力と重力の発見』(日本評論社)

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